仲間たちとの交流

モーニングパンツ

 翌朝私は薄暗いガレージの中で目を覚ました。


 こんなにぐっすりと眠れたのはいつ以来か、自衛隊の任務についていたときはいつも朝早くにラッパでたたき起こされていたからな……。


 うつ伏せで休息していたところをすくっと立ち上がると、程なくしてハンナがガレージのシャッターを開けて入ってくる。


「デューク、おっはよー!」

「おはよう、ハンナ」


 入り口から差し込む朝日に負けないくらいハンナは元気一杯で、頭のポニーテールをピョコピョコ揺らして駆け足でこちらに向かってきた。


 おっと、ゆっさゆっさと揺さぶられる彼女の大きな胸につい目が行ってしまう。


 性的欲求が動力源とはいえ、あまり彼女をいやらしい目で見ては相棒に失礼というもの。


 そう思った矢先に、ハンナが私の前でいきなりスカートをたくしあげた。


「なっ!?」

「じゃーん! 今日のパンツだよ、可愛いでしょ~」


 思わぬ行動で目を見開く私に、ハンナはご機嫌な声色で自分のパンツを見せびらかす。


 昨日とは違い今日は青地に白の水玉模様が可愛らしいパンツ……いやいや問題なのはそこでないっ。


「こらハンナ、そういうプライベートな場所は気安く人に見せるものじゃありません! 誤解されたらどうする!?」

「えっちなお願いで動くデュークがそんなこと言うなんて、変なの~」

「ううっ」


 無邪気にツッコミを入れるハンナに、私はぐうの音も出ない。


 確かに今の私はそういう体質のようだが、だからといってそんな簡単に自分の下着を見せびらかしていいものなのだろうか。


「それにねデューク、こんなことはあなたにしかやらないんだからね? 誰にでも恥ずかしいの見せるほど変態じゃないもんアタシっ」


 たくしあげていたスカートの裾を戻したハンナは、あっけらかんとそう告げる。


 それもそうではあるな。私としては一安心である。


 とはいえ今ハンナがパンツを見せてくれたおかげで、空腹に似た感覚は紛れたのも事実だ。


 これからも私は彼女に恥ずかしいところを見せてもらってエネルギーを補給し続けるのだろう。


 そういう体質になってしまったとはいえ、由々しき因果と思ってしまう私は真面目すぎるのだろうか?


 思い悩む私をよそに、ハンナは後ろ手を組んでこんなことを。


「ねえねえデューク。今日も仕事を受けに行くつもりなんだけど、手伝ってくれるよね?」

「こほんっ、頼まれずともそのつもりだ」

「わーい! 頼りにしてるよ、デュークっ」


 私の顔を見上げるハンナは、眩しいばかりの笑顔を浮かべていた。


 それから遅れてガレージにやってきたのは、ハンナの仕事仲間であるボギーたち三人。


「ったく、ハンナは朝から元気だよな……」

「えへへ、そうかな~。ボギーは違うの?」

「昨日仕事に行ったばかりだぞ、まだ身体が疲れてんだっ」


 そう言うボギーはあくび混じりで気だるげな様子。


 そんな彼の肩を優しく叩いてなだめるのはカレンだ。


「まあまあ、わたしたち日雇いは働いてなんぼなんだから頑張りましょうよー」


 それに続いてウィルも自身の髪を櫛でとかしながら発言する。


「そうですよ~。ボクも精一杯頑張りますから、ボギーくんもやる気出してっ」


 ふんすと腕を構えてボギーを元気付けるウィルの姿が健気で可愛らしい。


「そうそう、今日もみんなで頑張ろー!!」


 ハンナもボギーの肩に腕を回して激励する。


 ボギーよ、こんな仲間思いの女の子たちと仕事ができて幸せだと思え。

 私なんて自分のことで精一杯な男どもしか周りにいなかったから羨ましい限りである。


「分かった分かった、今日も仕事やればいいんだろっ。やるからにはとことん稼いでやるぜ!」

「そう来なくっちゃね」


 ようやくやる気になったボギーにカレンが柔和に微笑んだところで、ハンナが腕を挙げて提案した。


「まずはクエストセンターに行こう!」

「クエストセンターとは?」

「昨日仕事終わりに行ったところだよデューク。あそこでアタシたちいつも斡旋された依頼を受けてるんだ~」


 なるほど、昨日足を運んだあそこはハローワークみたいな施設なのだろう。


 一人で合点が行ったところで私はジープに乗り込んだハンナたちに続いてクエストセンターに向かうことにした。


 現代的ではありつつもどこか寂れたような町並みを歩いているだけで、恐竜の機械である私は道行く人々から好奇の目を向けられる。


「えへへ、アタシたち有名人になったのかな~?」

「馬鹿言え、デュークとかいうデカブツが悪目立ちしてるだけだろっ」


 後頭部に両手を回して得意気なハンナを皮肉るボギー。


「みんな済まない……」


 頭を下げて詫びる私をハンナが優しく声をかけてくれた。


「デュークは気にすることないよ。ボギーはいっつもああだから」

「そんなものなのか……」


 平然としたハンナの言葉で私がジープに目をやると、当のボギーはまた舌打ちをして無愛想な態度。



 私たちはすぐにクエストセンターの前に到着する。


 周りと比べてこぢんまりとした建物、やはりここがクエストセンターか。


「それじゃあデュークはここで待っててね~」


 そう伝えたハンナはジープを降りるなりくるりと踵を返してクエストセンターに入っていく。


 その間私はまた待機だ。

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