紐付け

「…………は?」


 私の頼みを聞いた少女は口をポカーンと開けて目を点にしていた。


 それもそうだ、見知らぬ機械からいきなりこんなハレンチなことを頼まれたら理解も追いつかないだろう。


 年頃の少女にパンツを見せろなどと、普通に考えればこの場で通報されてもおかしくない。


 だが私にも事情がある、このままでは何も進まないんだっ。


「……馬鹿なことを、……と思うだろう。……だが私はこのままでは動けない、……錆びて朽ち果てるのを待つだけだ……」

「は、はあ。だけどそれとアタシのパンツが何か関係あるの?」

「……どうやらあるみたいなんだ。……チラリと君のパンツが見えたとき、……僅かだが身体にエネルギーが流れるのを感じた。……だからもしかすると……」


 ここまで言いきる途中で、私の視界に砂嵐が生じ始める。


 限界が近い、か……。


「ちょっと、なんかよく分かんないけどしっかりしてよ!? ……分かった、今からアタシのパンツ見せるからぁ!!」


 今何て言った!?


 耳を疑う言葉と共に、目の前の少女はワンピースの裾を一思いにたくしあげた。


「お、おお……」


 突如として目に飛び込んだ彼女のパンツが、視界の砂嵐を一瞬にして吹き飛ばす。


 肉付きのいい下半身を包む純白の生地に、ワンポイントで入っている黒く小さなリボンが可愛らしい。


 パンツから伸びる適度な太さで引き締まった脚もまたそそるものがある。


「どう、これで動けるようになる?」


 恥ずかしがることもなく堂々とパンツを見せびらかす少女の前で、私の身体には今までに感じたことがないくらいのエネルギーが巡りだしていた。


 今ならまた立てるかもしれない。


 機械でできた二本の脚部に力を込めると、グググという稼働音と共に機械でできた私の身体が地面から持ち上がった。


「わー、おっきい~!」

「ありがとう、おかげでまた動けるようになったよ」


 立ち上がると少女を見下ろす形になって、ここで自分の巨大さをひしひしと実感する。


「なんかよく分からないけど、動けるようになって良かったねっ」


 そう告げた彼女の爽やかな笑顔が、私の目には眩しくて。


 こんな純粋無垢な少女に一瞬でも恥ずかしいことをさせていたなんて、我ながら最低な大人だと思う。

 私が罪悪感に苛まれる一方で、少女はあっけらかんとこんなことを。


「――それで、いつまでこうしてればいいのかなぁ?」

「あ、すまない。もう大丈夫だ」


 私の一言で少女はスカートから手を離した。


 ファサッと元に戻るスカートの裾にもドキッとしてしまったのは、私が悪い大人だからであろうか。


 そんな不埒な感情に悶々としている間に、少女は私の身体をくまなく観察している。


「ふーん、この身体って金属でできてるのかな~?」


 不思議そうに私の脚をコンコンと叩く少女は、ふと青い装甲に覆われたこの腿をジーっと注目した。


「あれ、何か書いてあるっ。どれどれ~、デューク? もしかしてこれがあなたの名前?」

「え、いやその……」


 違う、とはとっさに言えなかった。


 私には門川大悟という名前がある、そのはずなのにデュークという響きに謎の愛着が湧いてくるのだ。


「多分それが私の名前だろう」


 結局このデュークという名称を自分のものにしてしまった。


 すると少女はにかっと笑ってから、大きな胸に手を添えてこんなことを。


「アタシはハンナ、ハンナ・ミリオンだよ。これも何かの縁だと思うからよろしくね、デュークっ」

「ハンナさん、か」


 私が彼女の名前を復唱すると、ハンナさんはなぜかぷくーっと頬を膨らませる。


「もーっ、それじゃあ堅苦しいよ~。アタシのことはハンナって呼んで」

「あ、うん。こちらこそよろしく、なのかな。ハンナ」

「それでよしっ」


 頭を下げた私の鼻先にハンナが手を触れた時だった、突然聞きなれない音声が流れた。


『マスター登録を更新しますか? はい/いいえ』


「え、今の何? デュークの声なの?」

「いや、私の声ではないと思う」


 戸惑う私とハンナをよそに、音声は繰り返しこの顔から発せられる。


『マスター登録を更新しますか? はい/いいえ』


「んーと、よく分かんないけど。はい、で」


『認証、マスター登録を更新致しました』


 即答でハンナがマスター登録に応じると、私の頭からプシューと空気の吹き出す音が響いた。


「わーっ、デュークの頭が開いた~!!」

「え、そうなのか!?」


 そういえば前に水たまりで自分の顔を見たとき、青を基調とした頭部にオレンジ色のクリアな部分があった。

 まさかそれが開閉式のキャノピーパーツだったのか。


 そんなことに感心していたら、ハンナが私の鼻先に脚をかけて、開いたであろう部位に乗り込む。


 私の頭の中は人が乗れるのか!?


 驚く私をよそにオレンジ色のキャノピーが閉じて、ハンナを頭の中に収納する。


『あれ~、中って結構狭いんだねー』


 頭の乗り込みスペースはハンナの身体がギリギリ入るくらいのサイズだったのか、彼女の柔らかな感触が直に伝わってきた。


 ううむ、まさか私が人を内部に乗せることになろうとは。


『ねえねえデューク、目の前のモニターに変なのが浮かび上がってるよ?』

「何だ、言ってみなさい」

『一つがメーターみたいなもので、赤い何かが半分くらい入ってるのかな? もう一つはこんな文字列なんだけど……なになに? コックピット内スコープを実装しますか?だって』

「メーターはともかく、コックピット内スコープは気になるな。よし、実装を選んでくれ」

『うん、分かった。実装っと』


 ハンナがそう言うと、私の視界の片隅にハンナの顔が映し出された。


「おお、中はこのようになっているのか」


 これがスコープによるものだろうか、ハンナが今四つん這いの姿勢で私の頭の中にまたがっているのが分かる。


『わわっ、なんか細長いのが出てきたよ~!?』

「おそらくはそれがコックピット内スコープだ。私の目にも君の姿がしっかりと見えるよ」

『え、本当!?』


 目を丸くして驚くハンナの顔もしっかりと見えるぞ。


 それから彼女の豊満な胸の膨らみも間近で見えて……恥ずかしながらドキドキしてしまう。


 それと同時なのか、身体を流れるエネルギーが増してる気がした。


『あれ~? さっきのでちょっとだけ減ったメーターの赤いのが今度はどんどん増えてるよ~?』


 なるほど、ハンナのいう赤いメーターが私のエネルギー表示なのか。


 さっきのでちょっとだけ減ったというのは、スコープを実装して消費されたのだろう。


 うう、今度は押しつけられたハンナの胸がもにゅっと変形するのが見えてしまう。


『わわわ、なんかメーターの増え幅がハンパないよ~!?』


 すまない。どうやらそのメーター、私の性的欲求と直結しているようだ。


 ハンナには申し訳ないが糧にさせてもらおう。

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