第6話 縁

 ぐっすり眠って快適目覚め。やはり寝台で眠れるって最高よね。


「って、裸のまま眠っちゃったよ」


 いけないいけない。旅に出て開放されてるわ。もうちょっと引き締めていかないと、どこかで失敗しちゃうよ。


 ──コンコン。


 うおっ!? びっくりしたー!


「──魔女様、おはようございます」


「え、ええ、おはよう。いい朝ね。用意を整えたら下にいくわ」


 冷静に返しながらも体は右往左往。し、下着はどこよ?!


「はい、わかりました」


 ふぅ~。危なかった~。はしたない姿を見られるところだったよ……。


 散らかした下着を集め、収納鞄へと放り込む。洗濯はあとだ。


「お風呂、展開」


 サッとシャワーを浴び、体を乾かしてから新しい下着を装着。髪を整える。


 法衣に外套を纏い、ペンや紙を片付け、寝台を綺麗に整え、浄化の魔法をかけた。次、使う人への配慮しなくちゃね。


 帽子をつかみ、部屋を出た。


 一階にくると、ここで働く針子だと思う女性たちがたくさんいた。


 ……凄い数だこと……。


 建物が大きいから働いている人も多いんだろうな~とは思ってたけど、これは三十人はいるんじゃない?


「あ、魔女様。こちらへ」


 わたしもびっくりだけど、針子たちもわたしにびっくりしていて固まっていたら、ミルが針子の間を縫ってやってきた。いや、別に上手いこと言ってるつもりはありませんからね。


「すみません。うちは朝が早いもので」


「凄い人ね。こんなに針子を雇っているの?」


 わたしの知識には、こんな大人数を雇う仕立て屋ってないのだけど。


「はい。服の需要がありますので」


 帝都は一千万人とか二千万人とかいると言われている。あまりもの数過ぎてピンとこないけど、それだけの人の服と考えたら三十人近く雇う仕立て屋があっても不思議じゃないのかもね。


「朝食はできてるのでどうぞ。あ、顔を洗いますか?」


「ううん。顔は洗ったから大丈夫よ。朝食をお願い」


 廊下にたくさんいる針子の間を縫うように食堂へと向かった。


「おはようございます」


 食堂には昨日いた面子が揃っていた。本当に朝が早いのね。まだ、七時前だと言うのに。


 ちなみに、時を計る魔道具──懐中時計を持っています。


「よく眠れましたか?」


「はい。もうぐっすり。あやうく寝過ごすところでした」


「ふふ。それはなによりです」


 他の人とも挨拶し、席へと着いた。


 テーブルには黒パンと野菜のスープが用意され、篭にクスの実が積まれていた。


「クスの実、街でも食べられるんですね」


 赤ん坊の拳くらいの果物で、皮は赤いけど、果肉は白く、ちょっと酸っぱかったりするものだ。


 お通じがよくなると、大図書館ではよく食卓に上がるものだ。


「はい。春咲きと秋咲きになるものがあるのでよく食卓に上がります」


 へー。春咲きと秋咲きのがあるんだ。それは知らなかった。道理でよく出るはずだわ。


「さあ、たくさん食べてください」


「はい。ありがとうございます」


 写真を一枚撮ってからいただいた。


 野菜スープは昨日の余りかな? 同じ味がする。ただ、昨日より味が染みて、野菜がホロホロに崩れる。黒パンを入れて、染みさせて食べるのも美味しいわ~。


 野菜スープをお代わりし、ほどほどにお腹が膨れたらクスの実を取った。


 クスの実はよく食べたけど、これはちょっと甘味が強い。糖度六くらいかな?


「甘いクスの実もあるんですね」


「南部産は結構甘いですね。逆に北部産や東部産は酸っぱいです」


 へー。土地で変わるんだ。機会があれば味比べしたいわね。


 三個いただき、ごちそうさまでした。ふー。


 食後の豆茶をいただいていると、外が騒がしくなってきた。お仕事開始かな?


「魔女様。魔女様はこれからどちらに向かうんですか?」


「そうね。まずは宿があるところまではいきたいかな?」


 もうちょっと帝都を探索したい。帝都の外周部までいけば宿屋はあるはずだわ。


「あ、あの、祖母を診てもらったのに図々しいのですが、わたしが奉公している奥様を診ていただけないでしょうか?」


 なにか言いたげそうにしてたらそう言うことね。


「んー。わたし、医学専門の魔女ではないからわからないことは多いわよ。それでもいいなら構わないわ」


 まあ、診るだけでも勉強になるし、どんな症状かを残すことも医学発展のためになる。診て欲しいと言うなら診せてもらいましょう。これも縁だしね。


「ありがとうございます! いろいろ魔術師に診てもらってるんですが、どうにもならなくて……」


「不治の病なの?」


 魔術師が診てわからないとか、わたしには手に余るわよ。


「いえ、子ができないんです」


 子、か~。また厄介な問題っぽいわね……。


「貴族? 商家?」


 それにより問題は複雑になる。


「騎士のお家です」


 んー。また微妙なとこね。爵位があるなら厄介度は跳ね上がるし、商家なら養子なり妾なりの解決法はある。騎士爵なら兄弟に家督を譲るなりすればいい、のかな?


「子ができない人は結構いるわ。生まれもってのことだったり病気だったりしてね。それだと子がなせることはない。心の病も難しいわね」


 他にも要因はあるけど、それ以上は専門外。わたしには手に負えないわ。


「不可能なことは不可能。それでもいいか、雇い主にしっかりと説明してね」


 余り期待されても困る。成り立ての魔女なんだからさ。


「はい。お願いします!」


 期待の籠った目に、なんだか逃げ出したくなってしまった。はぁ~。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る