第5話 友達の覚醒だお

「お前ら、今夜泊まる所は確保してあるのか?」

「問題ない、また野宿する」


 酒場のマスター、ヒュウエルの質問にライザは即答していた。


 野宿……ですか?


「ライザ、出来れば僕は人並みの生活を」

「聞いてくれタケル、私がサタナに来ておよそ一ヶ月、それまでの間ずっと野宿だった」

「えっと、理由は?」


 ライザは強い印象の碧い瞳で、一心に僕の双眸を覗き込んでいる。


「王都に家を持つため、貯金している。その方が今後の生計は立てやすい」

「王都に家を構えるには、金貨二十枚は必要だな」


 金貨二十枚……確か今日のモブ狩りで得た金が銀貨三枚。

 異世界サタナの通貨基準は、銅貨、銀貨、金貨の順で。

 銅貨を一円とした場合、銀貨は百円、金貨は一万円の換算だから……。


 現状、僕らは三百円の稼ぎを以て、二十万円の家を買おうとしているのか。


 無理だお。


「今いくら持ってるんだ?」

「大きな声では言えないが、銀貨を九十枚ほど貯めた」

「……ってことは、王都に家を持つのはおよそ十九ヶ月後?」

「いや、そうはならない」


 た、確かに。

 僕らの稼ぎが今日みたく、三百円とは限らない。


 今日だけでライザはレベルをさらに1上げて、僕のレベルも3に到達した。


 つまり、僕らは日々強くなる。


 そうすれば今みたく低レベルのモブ狩りをする必要もなく。

 より強いモンスターを買って、収入を増やすことだってできる。


「一攫千金狙うなら、クエストを受けることだな」


「それだ、ヒュウエルの言う通り、王都にはクエスト屋がある。そこには難敵の賞金首や、腕に自信のある者に向けた依頼が日々舞い込んできているという話だ。クエスト屋から依頼を受けるには最低でもレベル9以上必要らしくて、私の当面の目標でもあった」


 そ、そうなのか。


「でも、例えば俺が依頼主だったらお前らには依頼したくねーな」

「何故だ?」


 ヒュウエルが僕たちのテーブルに謎の肉料理を運び、否定的な意見をあげる。


「お前らみたいなみすぼらしい恰好の奴らを、金持ち連中はどう見ると思う? 少なくとも、お前らにはあぶく銭持たせておいて、せいぜい本物の冒険者の囮か餌食か何かになってもらうまでよ」


 しょ、しょうがないんだお!


 僕はエロゲーをプレイしている最中に召喚されたから、上下灰色のパジャマ装備だった。靴は聖堂で召喚されたさい支給された上履きのように平べったいものを使っている。


 ライザは狐の風貌をした獣人ということもあり、革ズボンに鉄剣だけの装備だ。


 すると、僕たちの話を盗み聞きしていたのだろうか、酒場の一角が哄笑をあげた。


「なんだよお前ら、勇者っていうから、どんな野郎と思えばドサンピンかよ」

「……抜かせ、お前らこそ正真正銘の三下だろう」


 ライザは血の気が荒いようで、挑発して来た冒険者に応酬してしまう。


「止せ、奴らは二等級の冒険者だ。今のお前らじゃどう足掻いたって勝てないよ」

「ヒュウエル、今の、っていうのは余計だよ。そいつらは一生俺達の下だ」


 二等級の冒険者……なんだか知らないが、連中の肉体は凄い。

 筋骨隆々で、手にしているさかずきが玩具みたく思える。


「今の台詞を吐いたこと、貴様らはどうやったら反省する?」

「反省? そんな必要ねーだろ、俺たちは事実を言ったまでだ」

「……ならば決闘だ、表に出ろ、貴様ら」


 あああ、ライザはヒートアップした余り、決闘を申し込んでしまった。

 制止しようと、酒場を抜けて行ったライザの後を追うと。


「へっへ、勝負は二対二、ってことでいいんだよな?」

「丁度いい、俺たちの頭数も二人だからよ。優しくしてやるぜ」


 僕も決闘への参戦が決定してしまう。


 僕たちを取り囲むように、酒場の客がギャラリーを作って。

 ギャラリーの一人が「おい、今から勇者が決闘するんだってよ! 起きろ!」と大音声を上げると、近隣住民が集って来た。


「楽しくなって来たねぇー、で、いつおっぱじめる? さっさと掛かってこいよ」

「……舐めるな、チンピラッ!!」


 相手の挑発に、ライザは猪突猛進に鉄剣を振っていた。

 彼のMPは残っておらず身体強化や、攻撃倍化魔法は使えないので。


「おらおら! 舐めて欲しくなければ、実力付けてから、言えよカス!!」

「ゴフっ」


 ライザの突進攻撃は相手に軽くいなされ、体術によるカウンターを喰らっていた。


「へへ、なんだよあのヘボい動き、お前ら一体レベルいくつだ?」

「ライザ!」

「おっと、お前の相手は俺だよ」


 ライザに駆け寄ろうとすると、もう一人が僕の前に立ちふさがる。


「……ステータスウィンドウ」

「チ、そう言えばお前らはスキル持ちだったか」


 役にも立たないステータスウィンドウを開いたのは、相手をけん制するためだ。

 レベルが著しく劣ろうとも、僕らには切り札がある。


 そして連中に悟らせるんだ、これは負け戦、素直に手を引いた方がいいと。


 そんな感じの展開を希望していたんだけど。


「――できれば、こいつは使いたくなかったんだが」


 と言い、相手は毒々しい色味、形状をした短剣を取り出して来た。

 は、話が違うお!


「おい、こいつらにそれ使うのか?」

「相手はスキル持ちだぞ? お前も本気になった方がいい」


「はぁ、はぁ、はぁ」


 向こうを見ると、ライザは肩で息を吐くほど疲弊していた。

 ライザの相手も所持していた武器を取り出し、僕らは万事休すに陥る。


「聞いてくれタケル」


 ライザは満身創痍の状態で、僕に話し掛ける。

 彼に何か秘策があるのか? と期待したが。


「時には、命よりも大切なものって、この世にはあるかと思う。タケルを決闘に巻き込んですまないと思っているが、どうか怨まないで欲しい。私とお前は、もう友達だろ?」


 ……つまり?


「死ぬときは、一緒だ。だから怖くない」


 嫌ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!


 死の恐怖を突き付けられた僕はたまらず、逃走を図った。


「逃しはしねーぞ!」


 しかし、相手は僕を追撃し、毒々しい刃が僕の首筋に立てられようとした。


 ――――っ!


 その瞬間だった。


 一瞬、雷のような稲光が目の前を横切ったかと思えば。


「逃げるな友よ! 私がお前を守る!」


 追撃を仕掛けて来た冒険者は、右にあった壁に穿たれるよう吹っ飛ばされ。

 代わりに目の前にはライザが勇ましく立っていた。


「なんだ、今の……テメエがやったって言うのか、狐面!」


 残された一人が震える声で問うと――――っ!


 また稲妻が走り、残る一人も岩畳の地面を陥没させるように倒される。


「ライザ、まさかスキルを使えるようになったのか?」

「らしいな、所でタケル、怪我はないか?」

「あ、いや、特にないみたいだけど」

「そうか、ならば後は……たのむ」


 恐らく、ライザには体力気力が残ってなかったのだろう。


 後は頼むと言うなり、前のめりに倒れてしまい。


 その後、僕は事後処理で徹夜したんだ。

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