第3話 二度と帰れないお

 召喚場の聖堂から老女に先導されるまま僕は酒場の前にやって来た。


「ここに、タケル様を待っている冒険者が集っております。ここは王都と言う土地柄上、酒場にいる冒険者は三等級より上の者たちとなります。タケル様のような勇者様であれば、きっと、いいお仲間に恵まれますよ。それでは私はこれで失礼致しますね。何かお困りの際は聖堂までお越しください」


「分かり申した」


 そして僕が観音開きの扉をズバーンと開けると。


「……ぃらっしゃい」


 覇気の悪いバーテンダーやら。


「へへ、今日は何しようかな」


 人相の悪い無法者みたいな男やら。


「……」


 無言の様相を保ち続ける謎の亜人みたいな奴が、酒場に集っていた。

 内装は木造りの情緒溢れる造りで、西部劇に出てきそうな感じなんだけど。


「お客さん、出入り口でぼけっと突っ立ってもらえないでくれませんか」

「うむ、失礼しましたお」


 バーテンダーの気怠そうな一言に促された僕は、カウンター席に腰を下ろした。


「お客さん、そこは予約席だよ」

「失礼しましたお」

「あんた、ここらじゃ見掛けない顔だけど……?」

「僕の名前は竹葉タケル、タケルって呼んでください」

「タケル、ねぇ……何を注文するんで?」

「あいにく、僕は召喚されたばかりで、お金を持ってないんです」

「ほう」


 僕の口から出た『召喚』というキーワードに、バーテンダーは感嘆した。

 手元で磨いていたグラスを、上に引っ掛け。


「ってことはお客さん、ひょっとしなくても勇者候補かな?」


 その台詞に、背後にいたならず者たちが一斉に席を立つ音が聴こえた。


「そうだお、僕は今日召喚されて来た、勇者候補だお」


 説明口調で告げると、後ろからガシっと右肩を掴まれる。

 さあ、ここで僕は一番の引きを見せる。


 仲間ガチャって奴に、いちるの希望を託して、1、2、3の掛け声を心の中で言ってから振り向いた。


「御仁、貴方が勇者候補だという証明は出来るのか?」

「キタコレ!」


 僕の肩を掴んだのは一見にして屈強な戦士だった。


 その人は、一言でいえば二足歩行の狐だ。

 黄金色の毛並みと、切れ長の目は碧く輝きを放ち、額は斜め十字を描くように白くなっている狐だ。


「私の名はライザと申す、ここだと人目がある、ちょっと相談があるのだが」

「了解したお」


 ライザは声から察してオスだと思うが、どうなんだろう?


「ここまで来れば問題ないだろう」


 彼に連れられ、僕は王都の城壁まで歩き、王都の街を大雑把に理解した。


 どうやら王都は城塞都市のようだ、ある種の関門で、ある種の国境防衛線の役目を果たしているのじゃないだろうか。街の中にはファンタジー世界を描いたように様々な種族が行き交っている。


 だから僕を連れているライザ、狐のような彼も悪目立ちしてない。


「先ず、御仁のお名前を聞かせて頂きたい」

「タケルです、竹葉タケル」

「タケルか。先ほどの話に戻るが、君が勇者候補だという証明は出来るのか?」

「出来ますよ」

「……それはつまり、君はもうスキルの使い方を知っている?」


 ライザは片眉を吊り上げて、そこに興味を示した。

 彼の好奇の眼差しを受けて、僕は得意気な顔をしてステータスウィンドウと唱える。


「おお」


 するとこのスクリーンの正体を知らないライザは驚嘆する。


「これはステータスウィンドウと言って、その人の状態や能力値の詳細を数値化、または言語化して表したものなんだ。僕のスキルはこのステータスウィンドウをあらゆる物に付与できる。って能力らしいね」


「で、では物の試しに私に」


「いいよ、君は僕のヒーローになるんだ」


 と言い、ライザの額を指先で触った。

 斜め十字のラインが入った白毛はさらさらとしてて、手触りがいい。


「――ステータスウィンドウ付与」


 僕のスキルを発動させると、ライザの前に彼のステータスが開示される。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 プレイヤー名:ライザ

 スキル:雷遁

 レベル:4

 能力値

 HP :102

 MP :205

 STR:91

 INT:20

 SPD:131

 LUK:99

 ……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おぉおおおおお……御仁、いやタケル、こ、これはどう扱うのだ?」

「ちょっと待っててね」


 ライザの隣に居並んで、気が付いたことがいくつかあった。

 先ず、ライザと僕の差異。


 ライザもスキル持ちらしく、スキル欄には「雷遁」と書かれている。

 そして僕とのレベル差が3しか違わないのに、能力値の数値が異常に高く思える。


 さらに、彼のステータスウィンドウにはタブが付いていて。

 試しに初期表示の隣のタブに触れて項目を切り替えた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 所得魔法

 ・治癒のオーラ(10cnt ★)

  一度発現するとMPを10消費する代わり、傷を1秒間掛けて全快させる。

 ・身体強化のオーラ(33cnt ★)

  一度発現するとMPを7消費する代わり、STR、SPD、VITを2倍にする。

 ・攻撃倍化の呼吸(8cnt ★)

  一度発現するとMP15消費する代わり、与えるダメージが2倍になる。

 ……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ま、魔法……? 僕のステータスにはなかったぞ?


 それと、ステータスウィンドウの左横にまたタブがあって。横のタブに触れると、今持っている道具や、現在の居場所を示す地図機能、仲間の項目などが飛び出すように開かれ、元々画面を占有していた所得魔法のウィンドウのレイアウトがきゅっとコンパクトになった。


「なるほど、ステータスウィンドウとはこういうものなのか」

「ライザももしかして勇者候補なの?」

「然様、しかし私は別世界を救ってやるほど、猶予がないのだ」

「それってどういう意味?」

「タケルの居た世界とも、異世界サタナとも違った世界が私の故郷なのだが」


 ライザ曰く、彼が元々居た世界もサタナと似通った現状らしく。

 彼は彼で元居た世界の平和を取り戻したいと言っていた。


 彼が言いたいことはつまり、どういうことかと言うと。


「タケルも覚悟した方がいいぞ、我々は二度と元居た世界には帰れそうにない」


 王都の城壁に来る間、僕はこの世界の文明レベルを推し量っていた。

 現代の日本がどんなに生きやすかったか、王都の街並みから察していて。


 ことさら言えば、僕が引いたスキルはライザとは違い屑スキル。


 今さらと言えば今さらだけど、僕は深く反省するようこう思った。


 帰りたいお。

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