第39話 ――花火!!


 ***

 

 午後四時半、俺は今、亜井川あいかわの店の外にいる。


 あの後、ラーメンを食べ終わったのは三人ともほぼ同時だった。もしかしたら河愛さんは、あえてペースを落として食べてくれていたのかもしれない。

 

 店を出た俺は河愛さんと別れ、そして瀬渡には先に帰ってもらった。そして、山手線で一駅、再びここへやって来たのだ。


 店の開店は午後五時、あと三十分もこの電柱に寄りかかってなければならない。


 本来なら人混みの喧騒を鬱陶しく感じるのだが、今日は全くそんなことはない。

 それどころではない。


 まず亜井川はおそらく、店の監視カメラを見ながら侮蔑兵器を操作して一つの座敷に集まった参加者を焼き殺していくだろう。


 でも俺は、亜井川がどこからそれを行うのかが分からない。今はあいつが管理してる店だし、監視カメラの映像はどこへでも繋げられるだろう。

 

 だから亜井川はどこからでも犯行ができるのだ。


 つまり俺にできることはただ一つ。監視カメラを壊すことだ。

 

 あとは亜井川に賭けるしかない。あいつが監視カメラを壊された時、もう何もかも捨ててむやみやたらと火の玉を振りわます可能性もあるからな……


 ついに五時になった。ぽつぽつと店に客が入っていく。


 俺も監視カメラ破壊のために店に入ることにする。多分もうすでに、亜井川はこの店にいないだろう。


 そう思って扉に手をかけた途端、ぞろぞろと十人ほどの男達に囲まれた。後ろから、大層苛立っているような声が聞こえてくる。


「なんだよ、憩野探偵、なんでここにも現れんだよ!」


 振り向くと、そこにいたのはあの機村きむらさんだった。

 

 軽くパーマのかかった茶髪のマッシュ、ラフに着こなされたシャツ、肩掛けで着用しているデニムジャケット、清潔感のあるパンツ、そして何より整った塩顔からはとてもヤクザであるとは思えない。


 しかしそんな爽やかイケメンの機村さんは、本日全然爽やかじゃない。何故かずっと鬼のような形相だ。


 そして周りにはダブルスーツに身を包んだ男たち。おそらく幹部だろう。


 俺に何の用だろうか。朝の倉庫の仕返しにでも来たのだろうか。


 まぁどちらにしろ、俺に何か用があるからここへ来たのだろう。俺たちのことに他の一般人を巻き込んせはならない。


 俺はこの居酒屋と隣の建物の間の細い裏道を指差す。


「話、あっちででも良いですよね?」

「もちろん」


 機村さんとそのお仲間さんたちと共に裏道を通り、店の裏に出た。

 

 するとそこは、現在使われていない自転車置き場の跡だった。

 

 そこそこの広さを誇る空き地となっている。周辺は寂れた空き家がいくつかあるだけで、本当に何もない場所だ。通ってきた裏道はここを通り過ぎてもっと遠くへ続いているが、人通りも全くない。


 俺たちは空き地の真ん中に立つ。すると、機村きむらさんの方から手のアクセサリーを揺らしながら荒っぽく話だした。


「お前のお陰で俺たちの戦力はもうこんだけさ、まぁ、それはもうどうでもいいんだけどよっ!」

「……どうでもいい?」

「ああ、俺の目的はここに来ることだからな」


 機村さんは頭を掻きながら言う。

 

 倉庫で下っ端全員が侮蔑兵器ディスパイズウェポンのフル装備だったのは、意地でもここへ来るためだったのか。でも、どうして機村さんはこの居酒屋へ来たかったんだ? ここ、いつでも来れる居酒屋ですよ? 


 何故か、機村さんの怒りは止まらない。


「だけどよ、なんでお前もここに来んの? 朝、あれだけやって撒いた意味ねぇじゃん!」

「と、言うことはここで俺に来られちゃまずいことでもするつもりなんですね?」

「もちろんっ」


 そうあっさり認めると、機村さんはあの侮蔑兵器ディスパイズウェポンのカタログを見せてきた。開かれているのは、亜井川が購入したリモコンの紹介ページだ。


 俺が来ちゃまずいこと、それは何だろうか。

 

 俺は正義の味方でも何でもない。だとしたら、侮蔑兵器が関係しているのだろう。おそらく機村さんの中で俺は、侮蔑兵器の破壊者になってるだろうから。


 俺はカタログを眺めながら問う。


「それがどうしたんです?」

「実験だ」

「実験?」

「そう。遠距離から一度に大量の人間を殺す実験」


 ……そうか、亜井川と繋がっていたのか。おそらく花火が盗み聞きした電話で、亜井川の相手をしていたのは機村さんだったのだろう。


 亜井川は機村さんに利用されているのだろうか……? いや、そんなことは絶対にないな。

 

 おそらく機村さんは亜井川を一方的に利用しているつもりだろうが、絶対に亜井川も機村さんを利用している。


 自分の意思で、自分を見つけてくれなかったクラスメイト達を殺そうとしている。


 確実な証拠はないが、高校時代の彼の置かれていた状況や、早朝の侮蔑兵器ディスパイズウェポンを持った亜井川を見ていれば分かる。


 今までのように分かった気でいるのではない。しっかりと分かろうと言う努力をした上俺のでの結論だ。


 彼らはもう、立派な協力者になってしまっているのだ。


 俺は今、何をすべきだろうか。同窓会開始は午後八時、現在は午後五時十五分。なら……


「まだ時間がありそうなので、まずはここいる人たちの侮蔑兵器を破壊させていただきましょうかね」

「それは困るなぁ……」


 機村さんはかぶりを振った。まぁ、当然だろう。だが、そんなことは関係ない。こちとらそうしないと瀬渡を解放してもらえないのだから。


 俺が朝のようにネットを取り出そうとすると突然、機村さんの後ろから幹部の一人がやって来た。


 その人が腕で拘束している少女を見て、俺は焦りと同時に憤りを覚える。


「機村さん、いい人質連れて来ましたよ」

「――花火!!」


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