第11話:水晶魔術


「カーネリア様。やりすぎたら、いけませんよ?」

 

 ルーナが背負っている鞄から取り出したのは、色とりどりのい小さな水晶だった。


「分かってるって!」


 カーネリアがそれを受け取ると、それらの水晶に魔力を込めていく。すると、水晶は目映い光を放ちながら回転し始めた。やがて水晶はだんだん巨大化していき、そのまま、見えない線をなぞるようにカーネリアの周囲を動いていく。


「まだまだあああ」


 カーネリア更に魔力を込めていく。


 水晶は目にも止まらない速さで動いていき、そしてカーネリアを中心に巨大な円を描くような位置で停止。


「え? 何なに?」


 クオーツが不思議がるのも無理はない。彼の立っている位置では、一体何が起きているか全く理解できないからだ。


 だが遙か空の上から見れば――カーネリアを中心に、超巨大な魔法陣が大地に描かれているのが見えた。そして一番外側の円周上に水晶が等間隔に並んでいる。


「見てなさい。これが本当の魔術よ――〝竜の峰火〟」


 カーネリアの髪が舞い上がり――魔法陣から光が放たれた。その光は空の上で巨炎となり、〝ゴブリンの山砦〟へと向かっていく。


 それはまるで巨大な竜の姿に似て、通った跡に煙を残していく。


 炎竜はその顎を開けると、〝ゴブリンの山砦〟を飲み込んだ。


「……はあ!?」


 クオーツが開いた口が塞がらず、目の前でゴブリンの山砦が――轟音と共に、その岩山ごと炎上する。


 カーネリアが水晶を手元に戻し、それを魔力でふよふよと自身の周囲に漂わせた。


「ふふーん。これがリンドブルム王家のみに伝わる秘技――水晶魔術よ。ま、私ぐらいの魔力量がないと無理だけど。これで、多分ゴブリンは全滅したでしょ。あとは悠々登っていけば良いだけよ」

「凄い……凄いけど……」


 クオーツは、黒煙を吐き出す丸焦げになった〝ゴブリンの山砦〟を見て、苦笑する。


「僕らが採取しなきゃいけないのって……なんだよね……」

「それが?」

「……あれ、全部消し炭になっているんじゃないかな」

「……てへ」


 舌を出して、誤魔化すカーネリアが足早に〝ゴブリンの山砦〟の方へと、荒れた大地を走って行く。


「まだきっとしぶといやつが残ってるわよ!! 多分!! 早く行くわよ!」

「あ、ちょっとカーネリア待って! こんなところで全力疾走したらこけ――あ、転けた」


 案の定べちゃりと転けたカーネリアを見て、ルーナがため息をついた。


「はあ……とりあえず山頂を探してましょうか。灰すら残ってない可能性がありますが」

「だね。でもまあ、試験の合格条件はともかく、あの山を攻略したってことに関しては間違ってないし、何かそれを証明できる物を持って帰れば……」

「うううー誰かあたしの心配しなさいよ!!」


 倒れたまま叫ぶカーネリアを見て、クオーツが苦笑する。


「はいはい、ほら、大丈夫?」

「むー」


 クオーツの手を借りて立ち上がったカーネリアが気まずそうに顔を背けた。


「大丈夫だよ、カーネリア。きっと何かそれらしい物を持って帰ればきっと大丈夫。駄目なら違う試験にしてもらおう」

「……うん。ごめんなさい」

「いいよ。みんなの為を思ってやってくれたんだから。それに凄い魔術だった! 山ごと燃やすなんてカーネリアにしか出来ないよ」

「ふふーん! まあね!」


 急に元気になって胸を張るカーネリアを見て、クオーツが笑った。


「さ、行こうか」

「うん!」


 三人が今度こそ、ゴブリンの山砦……跡へと入っていく。


「うわあ……」

「酷い有様ね」


 内部は未だに火が燻っていたが、その都度カーネリアが魔術で消化していく。


「しかし……ゴブリンって――随分と大きいのですね」


 転がっている大きな黒焦げ死体を見て、ルーナが首を傾げた。


「ほんとね。子鬼って聞いてたけど、三メートルぐらいはあるんじゃない? 全然〝子〟じゃないわ」

「うーん……小さいって聞いた事があるんだけどなあ」


 そうして進んでいくと、頂上へと通じる階段の前に大きな広間があった。


 そこには骨と岩で出来た玉座のような物が置いてあり、そこには更に巨大な身体が黒焦げのまま座っていた。


「あれがゴブリンの王かしら?」

「だろうね。王は更に大きいね」

「図体だけは一人前ね!」


 黒焦げの身体に近付いたカーネリアに、ルーナが首を傾げながら口を開いた


「……お二人とも。あれ……?」


 その言葉にカーネリアが肩をすくめながら、振り返った。


「はあ? ゴブリン如きが私の魔術を受けて生きているわけないじゃ――」

「ぐおおおおおおおお!!」

「ぎゃあああああああ!!」


 黒焦げの死体――と思われていたものが、雄叫びを上げた。


「カーネリア!」


 クオーツがカーネリアに手を伸ばし、自分の方へと引き寄せた。その瞬間、黒焦げだったはずの死体の肌がめくれていき、その真下から真新しい赤色の皮膚が出てきた。


「やはり生きていましたか!」


 ルーナがナイフを構える。


「なんで生きてるのよ!」

「カーネリア、下がって!」


 クオーツが、その赤い巨大な魔物の前へと飛び出した。


 その魔物は筋骨隆々の肉体で頭部には角が生えており、まだ熱を発している、刃がボロボロの大剣を二本、それぞれの手に握っていた。


 牙の生えた鬼のような顔が、怒りで歪んでいる。


「グオオオオオ!!」

「なんでまだ生きてるのよお!」

「分かんないけど、とりあえず倒さないと」


 クオーツが構え、それを合図に戦闘が始まった。

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