第4話:あたしの騎士様
「よっと」
クオーツがカーネリアを背負ったまま、飛翔。どうやらガジャラが新たに作ったらしき穴を通って上へ上へと昇っていく。
「あのさ、カーネリア。竜水晶ってスキルを発現させるだけじゃなくて身体能力も高める力があるの?」
クオーツは、自分の力に戸惑っていた。手のひらから出せる黒水晶がどうもスキルの効果なのは理解できる。だけどこの異常な身体能力は、全く身に覚えがない。
「竜水晶はスキルを発現させるのではなく潜在能力を覚醒させることができるの。スキルはその副産物に過ぎないわ。クオーツには元々それぐらいの才能があったってことでしょ。でもね、〝器〟が出来ていなかったら、逆にそれが仇となって砕けてしまう人だっているのよ」
「器……?」
「そう。どれだけ才能があっても、どれだけ高い身体能力の伸び代があったとしても……それに肉体がついていけなければ……力は暴走してしまう。過去には、不相応な人間が竜水晶に触れて、結果肉体が爆散したり、醜いバケモノになった例もあるそうよ」
「肉体……」
クオーツは己の肉体について、これまであまり意識していなかった。
特別に何か訓練をしたわけでもない。
ただただ、日々労働をこなしていただけだ。
「……あんた何年ここで働いていたの」
「さあ……途中で数えるのを止めたよ。でも、一年以上はいたと思う」
「あんたより長くいた人間はどれぐらいいた?」
「……そういえば死んだ先輩以外に……いなかったな。事故も多かったし入れ替わりが激しかった」
「事故だけが原因じゃないわよ」
「へ?」
クオーツが足場となる水晶を蹴りながら、背中にいるカーネリアへと問うた。
「事故以外、何があるの? そりゃあまあ自殺とか脱走しようとして失敗とかもあったけど、それは本当に少数だった。ほとんどが過労死か事故死だったよ」
「この鉱山はね、とてもマナ濃度が高いの。竜人である私でも少し息苦しいぐらいに」
「マナ濃度?」
「魔力の素となる力、存在。いたるところにあるのだけど、この山は特にマナが豊富なの。だから竜水晶もここで生まれるし、他の水晶や鉱石も特別な力を帯びるの」
「なるほど……でもそれが労働者の死とどういう関係が?」
「あたし達竜人と違って、人の身体は一定濃度以上のマナを摂取し続けると悪影響を受けてしまうの。だからここに長くいることは寿命を縮めているのと一緒。そんな中で採掘なんて労働をしていたら死ぬに決まってるわ。過労も事故死も、その裏にある原因はマナ中毒よ」
「マナ中毒……じゃあ僕は」
なぜ、自分は生きているのだろうか。
「……稀にね、高濃度のマナに順応してしまう者がいるのよ。そういう人間は逆にマナを吸収し己の糧としてしまう。それにより肉体はより強靱になっていく」
「それで、しかも労働をしていたから……」
採掘は全身を使う労働だ。脚力も腕力も含め、全ての筋肉を鍛えるのに丁度良かったのかもしれない。
「そうねきっとあんたは……知らず知らずのうちに、普通の人間が何十年掛けて得るはずだった肉体を手に入れてしまった。そしてそれに相応しい才能もあった。だから――竜水晶によって引き出された力に、あんたの肉体という器は耐えられた。それが、今のあんたよ」
高濃度マナに順応できた。
その中で訓練や修行に近い、労働を日々行っていた。
そしてそれによって完成された肉体に相応しい潜在能力があった。
そんないくつもの要因が重なった結果――クオーツは無自覚ながら、人類としては最高峰の身体能力を得ていたのだった。
「そんな事って……」
「出来すぎているわ。
カーネリアは訝しんだ。あまりに……話の都合が良すぎる。そんな偶然が果たして重なるだろうか。
「……でも結果として僕は生きてた。カーネリアも生きてる」
「それはそうね。それに……そろそろ出口よ」
クオーツが穴から出ると、そこは広く古い回廊に繋がっていた。
「ここは……?」
「ここは、〝ルズラ大回廊〟……かつてここを治めていた地竜ルズラが造らせたと言われる地下都市……の残骸ね」
カーネリアが、クオーツの背中から降りながら答えた。彼女の声が回廊にこだまする。
相当に広い空間にクオーツには感じられた。
「こんなところが、この山に」
「あんたらが更に東へと掘り進めていたら、きっとここに辿り付いたでしょうね。そして、それでおしまい」
カーネリアがそう発した瞬間――
「――姫様!!」
そんな声と共に――回廊の奥から、騎士らしき一団がこちらへとやってきた。
全員が、流線型の美しい銀鎧を纏っており、頭部には角が、背後には尻尾が揺れていた。
それらは竜人の騎士であり、そしてあっという間にクオーツ達を取り囲んだ。
「えっと……カーネリア?」
「ふう……家出は終わりね」
「姫様!! 一体これはどういうことですか!? その人間は!?」
騎士の中でも一際身分が高そう者が、兜を外して、カーネリアへと一歩近付いた。
金髪の美しい青年だったが、クオーツを見る目には侮蔑の光が宿っていた。
「ザエロ……彼は私の恩人です。丁重に扱いなさい。でないと――」
カーネリアが急に口調を改めたことに、驚きながらクオーツが彼女へと問うた。
「カーネリア? 彼等は一体?」
「貴様! 猿風情が姫様に気安く話し掛けるな!」
金髪の青年――ザエロが激昂しながら腰の剣を抜いてクオーツの首へと走らせた。
勿論、いきなり殺すつもりはなかった。首の皮一枚手前で止めれば、怖じ気づくだろうと思っての行動だった。
だが――
「っ!!」
クオーツは反射的に右手を迫る剣へと向けて、その刃に触れた瞬間にスキルを発動。
「なに!?」
「だから、丁重に扱いなさいと言ったのです」
カーネリアの声と共に、クオーツが射出した小さな黒水晶があっけなくザエロの剣を貫通し、砕き割った。
剣の砕ける澄んだ音が響くと同時に、他の騎士達が抜刀。
「全員、剣を降ろしなさい。クオーツ、大丈夫です。彼等は敵ではありません」
カーネリアの言葉で、全員がピタリと止まった。クオーツもザエロへと踏み込み、伸ばそうとしていた右手を降ろした。
カーネリアの声には、なぜか人を従わせるような、そういう力が込められているようにクオーツには感じた。
「……ドラゴライト重金の剣を折っただと? 君は……何者だ」
ザエロが折れた剣を鞘にしまいながら、改めてクオーツに問うた。その目には既に敵意も侮蔑もなく、純粋に戦士としてクオーツを認めたような雰囲気を纏っていた。
「僕は――」
クオーツが答えようとして口を開いた瞬間、カーネリアが彼の右手を掴んで、こう言い放った。
「彼はクオーツ。私の――
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