5ー22

 9年目

 春先に20ヶ所のツアーを短期間で廻った。


 今年は、来年の10周年に向けて、いろんなことを準備するのだと言う。

会社の人たちと大輝が会議を重ねて、今後の活動内容を決めてくれた。

来年は、シングル3曲出す。

アルバム LOVESICKNESS2を出す。

10周年記念ライブツアーを半年かけてやる。

ツアー終了後、ツアーのDVDを出す。

5人の写真集と楽曲詞集のセットを出す。

ベストアルバムを出す。


この内容で、俺がやらなきゃなんないのは、まずラブソングを12、3曲作ることだろう。

LOVESICKNESSは、Realのファーストアルバム。

デビュー曲のYO・I・Nを入れてのオールラブソングだった。

LOVESICKNESS2って言われてる時点で意図はわかる。

とにかく、ラブソングを作らなきゃだな。


 夏

 これは、何回目になるのだろうか。

半年に一度の面談週間。

高校の時からずっとやっている。

リーダーの大輝が、1人1人と話をする場を作ってくれる。

デビューしてからは、事務所の人とかマネージャーさんとかと、今後の話をすることも多くなったけど、大輝はこの面談週間を大事にしていた。

俺らも、屈託なく意見を言うことができる場だ。

だいたい俺は、一番最後。

大輝に今日の夜、仕事終わったら俺の部屋へ来いよ。と、言われた。


部屋の前でチャイムを押すと、開いてる~!!ってデッカイ声で言われた。

「おつかれ~!!」

「おっ!お疲れ!今日まだ仕事する?」

と大輝が聞いた。

酒飲めるかって意味だってわかったから、

「軽く曲作ろうかなってくらいだから、大丈夫だよ」

って答えた。

まぁ座れよ、って言われて俺が座ると、冷蔵庫から500ミリリットルの缶ビールをだしてくれた。

それと、きゅうりのスティックにマヨ味噌。

トマトをスライスしてオリーブオイルをかけたやつ。

枝豆。

ナスを炙って、とろけるチーズをのせて、上から醤油をたらした。

「すげーな!秒でいっぱい出てくんじゃん!」

「実家から、野菜いっぱい送ってくんだよ!夏野菜!こんなにいらねーっていつも言うんだけどな!」

「大輝んち、農家じゃね〜だろ?」 

「あぁ、家庭菜園程度だけどな。年々大量になってるよ。畑借りてやってんのかな。きゅうりなんて、アホみたいに送ってくっから!とりあえず、飲もうぜ!」

と、プルタブをあけて乾杯した。


「まずは、今年の春に、今後の活動計画みたいな話を事務所で聞いたよな。10周年に向けてってやつ。

あの時に確認するべきだったって思ってるんだけど、LOVESICKNESS2を出すことに対してどう思ってる?」

「どうって?そっか、続編か~って」

「嫌か?」

「イヤかって?なんで?」

「ラブソングを作るのは、苦痛じゃないかってこと」

「あぁ~~、あはははは~。まぁ、そうだな~。よく、わかんね~な~。

ん~~苦痛ってこともね~けど、楽な作業でもね~かな~」

「会社としての、販売戦略としていい企画だと思ったよ。Realとしてもな。だけど、実際 作るのは、桂吾だ。ラブソングを作るってことは、自分自身と真正面から向き合うことになるだろ?

頑張ってやれよ!って気持ちと、無理しなくていいから!って気持ちが半々なんだわ!俺」

「大丈夫だよ!!気を遣わせちゃってごめん!

今度は、フランスのばあちゃん家へ逃げるとかしないから大丈夫!あはは!」

大輝がもう2本目のビールをあけた。

俺にも手渡してくれた。

「この10年さ、あ~まだ9年目だけど、ラブソングって作ってなくて、あ、作ってないこともないか、作ってんな!ドラマの主題歌とか、映画の主題歌とか、その内容に添って作ったラブソングはあるけどな。全くの妄想みたいなラブラブなラブソングとかな。

そうゆう一般的なラブソングは作ってきたよ。

だけど、そうじゃなくて、LOVESICKNESSの続編だとすれば、彼女のことを想って書くことになるのかって、気が重くなったのは事実だよ。

でも、彼女のことを想う時間を与えてもらったような気もして、少し嬉しくもありって感じ、かな?」

「桂吾、会ってみたらどうだ?」

「えっ?彼女に?」

「同い年なら今、33?34?結婚してんのか、独身なのか、どこで何してんのか調べてもらってさ!」

「いや……俺、マジで……彼女に会ったら、いろいろ自信ないから。

押し倒して無理やりやっちゃうかもしんない。

あはははは~。

それか、めちゃ泣いちゃうかもしんないし。

とにかく、衝動を抑えられない気がして、どんな風になっちゃうか、怖いし……

彼女に受け容れてもらえないだろうって思うし……

だから、会わない方がいいって思ってるから」

「そっか。わかった。

じゃ、LOVESICKNESS2は進めていいんだな?」

「あぁ、それはやるよ!大丈夫!!」

まぁ、食え食えとすすめられて食べると、簡単に秒で作ったとは思えない美味しさだった。

「大輝!料理上手だな!!」

「は?こんなん料理って言わねーだろ!!ツマミだよ」

と笑った。


大輝は、リーダーらしいリーダーだ。

大雑把でガサツなようにも見えて、すごく気を遣うし、周りをよく見て判断している。

その決断が早いし、ブレない。

そして、大輝の判断に間違いはないと思わせてくれる。

手際のいい料理の腕前を見ても、論理的な組み立てが出来る人なんだと言うことがよくわかる。

部屋もきちんと片付いている。

高校の時も、大輝と瞬には、やたらと部室の掃除をしろって言われたけど、綺麗好きなんだな。

高校の時、大輝はパンチパーマみたいな髪型で、赤いタンクトップの上に学ランを羽織って、イカツイ感じだった。

あの頃でさえ、天然記念物的なヤンキースタイル。

俺らの高校は、割と自由な校風の学校だった。

制服もあるにはあったけど、着ても着なくてもOKって感じだった。

自由だったけど、進学校だったから、ほとんどの人が大学へ進学した。

その中で、俺らは異色だったろう。

だけど、あの自由な校風のお陰で、俺らは出会って、Realを作ることができた。

もう、18年前のことだけど、あの頃の思い出は色あせることない。


大輝は、3本目のビールをあけた。

俺は、もういいって断った。

大輝のペースで飲むと、ツブれるからな。



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