夏ヒッチ

@Makoto20yearsago

第1話 北海道まで!!

 175号線は兵庫県を縦に走っている。地元の人は175をもじって「イナゴ」と呼ぶ。この国道を歩いている僕たちの前に、1台の車が止まった。青のワゴンから3つの影がこっちを向いている。そのうちの1つが助手席の窓から顔を出し、走り寄る僕たちに声をかけた。

「どこまで?」

見るからに親切そうな若者。

「イナゴを北へ向かいたいんですけど」

「どこまで行くん?」

僕たちは胸をはって答えた。2人の声は自然とそろっていた。

「北海道まで!!」


 今回の旅の予定は9日間。最終目的地は北海道の中心、富良野である。

「初ヒッチ」で自信を持った僕が、「夏休みにヒッチハイクでどっか行きたいなぁ」と考えてみたところ、「夏は北海道でしょ!」という意味のない思いが湧いてきた。さらに言うと、「北海道は富良野でしょ!」という思いが僕の中にはあった。なぜなら、富良野は「北の国から」の世界なのである。僕の中の富良野には、五郎さんや純くん、蛍ちゃんが走り回っているのだ。しかも、めっちゃ笑顔で。おお、いいではないか!すごくいいではないか!広大な大地にドカーンと広がるお花畑に寝そべり、見上げる空には雲ひとつなく、これでもか!というぐらいに晴れわたっている。そして、となりにはかわいい彼女が静かな寝息をたてている。いいではないか!北海道ではないか!行きたい!今すぐ行きたい!

 ということで、「ふたりで北海道ヒッチ」という、考えただけで楽しそうな旅が計画されたのだが、ここで問題がいくつかある。「いくつか」というよりも「いくつも」あるのだ。泊まりがけで行くとなると、夜は宿に泊まるのかテントを張るのか(テントを張ろうにもテントがない)とか、食事は自炊するのか(自炊しようにも自炊道具がない)とか、お金はどのぐらいかかるのかとか、日数は、ルートは、とこれから考えなければならないことが山盛りだった。しかし、そんな山など物ともしないような大きな壁が立ちはだかっていたのだ。聞いて驚くな!実は、一緒に行く彼女がいないのだ。お花畑に寝そべり、僕のとなりで寝息をたてるはずのかわいい彼女が…。

ヒッチハイクと聞いて、やってみたいという女の子はいるが、じゃあ一緒に行くかというと話は別である。また、僕は気は優しくて力持ち、虫も殺せないような性格であるから、気になるあの子をヒッチハイクに誘うことなどできるわけがない。ああ、誰か僕と一緒に人生という歩道を歩き、幸福という名の車に手をあげる女性はいないものか。

 そんなことを考えていたある日、地元の友人数人で飲む機会があった。

 地元でよく一緒に飲むメンバーが10人ほどいる。小学校、中学校、高校で知り合った仲間で、今は大学や仕事でバラバラになっているが、休みで地元に帰ると連絡を取り合って「LEE」に集まる。「LEE」は地元のお好み焼き屋。めちゃくちゃうまい。ここの「カレー焼き」や「肉じゃが焼き」はもう最高で、高校の頃からみんなでよく集まって食っていたから、おっちゃんもよく知っている。僕たちの打ち上げ、同窓会、忘年会、新年会はすべてここで行われ、〇〇会でなくてもよく食いに来る。

 その日も、男ばかり5、6人集まって、ゴクゴクガバガバやっていた。だんだんと盛り上がってきて、気分の良くなってきた僕は、「夏は北海道に行くぞ!」と何の見通しも立っていない計画を、もう今すぐにでも行けそうな勢いで話した。その勢いに引っかかったのが、何を隠そう、もじゅである。

 こいつの名は杉本昌聡、小学校、中学校、高校が全て一緒で、クラブも一緒。だからお互いに知りすぎるほどによく知っている。こいつが頼まれればイヤだと言えない性格であることも知っているし、何事にも器用で結構使えるのである。何よりこいつにも彼女がいないというのがいい。さあ決まった。いざ北海道へ!

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