第9話 夜に呑まれて

 遥斗は医師になりたいと言った。

 「死なせない。」

 夢物語のような言葉で人がこれからも永遠にその方法を考えるだろう。

 人の時間いのちは永遠にある訳じゃないから、それを悟った人の中では、ある人は諦める。ある人は踠き、抗う。そして、ほんの一握り、残りの人生を楽しもうとする。

 「人を救うことは、ある時は美しくて、ある時は残酷だ。」

私の口からそうこぼれた。

 言わずにはいられなかった。確かにどんな人でも救えたらそれほど良いものはない。ないはずだ。

 しかし心のどこかで考えてしまう。過去の人たちは、今の私達を見てどう思うだろうか。憎まれるだろう。自分達だって生きていたかったはずだから。

 両方が分かるから、両方分からない。

 私は生まれて初めて葛藤した。

 病気が分かっても葛藤なんてしなかった。仲の良かった子と喧嘩しても葛藤しなかった。バレーを止めろと言われてもすることしか頭にない私は葛藤なんてしなかった。

 「藍、俺は死んでいった方々に恨まれて、憎まれて、地獄に堕ちようが、過去を超えて今、誰も死なせないことも大事だと思ってる。」

その言葉は残酷で綺麗事。でも何故か分かってしまう。

「過去は変えられない。でも未来は変えれるんだ。その未来で俺は救うんだ。」

その言葉を聞くと何故か安心した。ふわっとして未来をしっかり見据えた君が好きだと心が叫ぶ。

 でも、そんなことは虚しかった。

 そこで私の意識は途絶えた。

 それから私は、絵梨奈にもあゆみにも会えない。バレーもできない。

 遥斗にはもう会えなかった。








  これが2115年、私が寝たきりになる年の最後に遥斗と話した一時だった。

 あの希望に満ちた目を私はまだ隣で見ていたかった。

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