第8話 問題︰何故彼女は怒ってるでしょう?

「んでさぁ!!! 多分違うと思うってかまあ絶対違うと思うけどさ!? 嫌われちゃったのかなーって!? いや絶対違うと思うけどね!?」

「あっははは! めっちゃ焦ってんじゃんウケる!」


 前略。気まずくなりませんでした。現在バカみたいに取り乱しながら相談してます。ちなみにここにいる理由は俺が教室を出ていくのが気になったからついてきただけだそうです。何だそれ。


「なああー子……みーちゃん怒ってた……?」

「んー、怒ってたというよりは機嫌が悪かった? むすっとしながら考え事ばっかしてた的な?」

「うわぁぁぁおしまいだぁぁぁ!!!」


 あと浅雛改めあー子とは仲良くなりました。これが光のギャル。やったねやっち! ただのぼっちがギャルとだけは話せる謎のぼっちに進化したよ!


「まー落ち着いて? ほら卵焼きでも食べな?」

「ハート崩したくない……」

「じゃあ一気に食べれば?」

「天才じゃん」


 俺は二ピースを一度に頬張る。元は一つだから口の中がいっぱいにはならないしね。はぁ……めちゃくちゃ美味しい……愛の味がする……。


「あ、そうだ大和君。一個だけ思い当たることが」

「あるの!?」

「えっとね、昨日いつメンでラインしてたんだよ。あたしと海侑と由里と瀬里香ね」

「トップカースト集団か」

「よくわかんないけど多分そう!」


 このおバカ感が親しみやすさに繋がってるんだろうなぁ。俺じゃなかったら惹かれていたかもしれない。俺はみーちゃん一筋だけどな!!!


「大和君、デズモンド・モリスって知ってる? 行動学者? らしいんだけど」

「えっ誰それ。ギャルズってそんな頭良い会話してるの?」

「まー由里が居るしね!」


 マジかよギャルすげえ。素直に尊敬するかも。


「んでね、その人曰く……、えっと……その……」

「ハリーアップあー子」

「せ、セックスは最後なんだって!」

「当たり前じゃね!?」


 マジで何の話してんの!? ままままだ俺とみーちゃんには早くね!? そういうのはもっとこうアレというかアレだよな!?


「これ以上は無理! 何かめっちゃ恥ずいし!」

「な、何の参考にもならねぇ」

「てか彼氏なんだったら自分で気付くものじゃないの!?」

「ぐうの音も出ない!!!」


 やっぱそうだよなぁ!? 全然思い当たらない俺は何て不甲斐ないんだ……!


「……ごめん、目が覚めたよ。ありがとうあー子」

「あたしは大和君にセクハラされただけだから大丈夫だよ」

「してないよ!?」

「一応あたしからも海侑に探りを入れておくね。何か分かったら連絡するからライン教えてよ」

「あ、うん」


 俺はお箸を置いてあー子が出したQRコードをスマホで読み込む。みーちゃんを除いたら学校の人とラインを交換するのはこれが初めてだな。


「じゃ、そゆことで! あたし食べ終わったし教室戻るね! 一緒に帰ったら海侑嫉妬しちゃうし」

「……待て、これって浮気になるのか……? いやならないよな……? でも一応みーちゃんに言っておかなきゃ不義理か……?」

「海侑にはあたしから言っとくね! 悪いようにはしないよ!」


 本当か? 大和は訝しんだ。なんつって。


「もーそんな心配そうな目で見なくても大丈夫だよ? あたしと海侑は親友だからね?」

「……そっか、そうだな! じゃあ頼むよ! 一応俺からも後で言っとくけど!」

「む、信じてないでしょ。ホントに絶対大丈夫だから!」

「期待せずに待っておくよ」

「バカ! じゃーね!」


 あー子は空のお弁当箱を持つとパタパタ駆けていく。本当に大丈夫かな。あんまり心配するのは失礼だけど。


 俺はお弁当の残りを平らげ、ご馳走様をしてからふとバイトのシフトを確認する。


「確か今日はあったよな……って」


 今日の午後五時から十時にかけてシフトに入ってるのは、店長と俺、そしてまさかのみーちゃん。


 ……き、気まずい。問題は何も解決してない上にそもそも店長には付き合いだしたことすら言ってない。色々気を揉まなきゃならないことが多過ぎる。


「と、とりあえずお弁当箱は今日のバイトのタイミングで返すか! うん!」


 考えたことをそのまま口に出して落ち着こうとする。思考が整理されればなんて思ったけど全然効果があるようには思えない。


 ブーッ、ブーッ。マナーモードにしてるスマホが二度震える。俺は特に何も考えずに画面を確認した。


 送り主はそれぞれみーちゃんとあー子。嫌な汗が背中を伝う。



あー子︰ごめん! 言い方間違えちゃった!


みーちゃん︰お弁当は美味しかったですか? まあ一緒に食べてたらしいあー子に美味しそうに食べてたって聞いたんですけど。あー子と仲良くなれて良かったですね。



 死刑宣告よりも重いそれは、背中の冷や汗を滝汗に変えるには充分だった。

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