第3話 ぼっち︰皆川大和

 彼女ができた。詳細に言うとぼっちだった人生の俺に初めて彼女ができた。


 ……とは言うものの、学校での俺はいつも通りぼっちだ。話しかける相手も話しかけに来てくれる相手も居ない。


 ……慣れてるとはいえ、やっぱり朝は退屈だなぁ。やることもないからスマホを弄る毎日だ。


 取り出したタイミングで丁度ピコンとラインの通知音が鳴る。相手はみーちゃんだった。



みーちゃん︰やっち先輩は今学校ですか?


やっち︰そうだよー! と言ってもぼっちだけどね!笑


みーちゃん︰またそういうことを言って笑笑



 あー人生楽しいなぁ!!! 彼女が居るって何て輝いた人生なんだ!!!


「はー……、マジ世界最高」

「は? 何それ」

「っ!」


 後ろから投げつけられた言葉に俺はビクリと身体を跳ね上げる。


 御代海侑みしろみゆう。肩くらいの金髪がトレードマークのクラスの女王様だ。


 前髪をアップにしているため大きく丸い瞳が目立つ。彼氏は居ないらしいけど告白される回数は枚挙にいとまがないとの噂だ。


「ねえ聞いてよみんな! 私昨日彼氏出来たんだけど!」


 はい、彼氏居ましたね。ぼっちのふわふわ情報網舐めんな。


「えーマジ!? いつも言ってたバ先の先輩?」

「そーそー! 告白したら受け入れてもらえたの!」

「はは、ホント中学生!」

「は、はぁ!? 別に良いでしょ!? 私は先輩と結婚するって決めてるし! 先輩一筋だし!」


 でっかい声で話すなぁ……。こうやって噂は回るんだろうか。


 でも浮かれる気持ちはわかる。何を隠そう俺だって昨日彼女が出来たからな! 舞い上がる気持ちはわかるぜ御代!


 おっと、返信がまだだった。既読無視をして心配させるのは忍びない。



やっち︰ホントホント! 今もクラスの女子の会話を盗み聞きしてるだけだし!



「わ、返信来た! 今から返すし絶対私に話しかけないでよ!」

「浮かれてるなぁ……」


 お、御代もか。偶然だろうけどタイミングが良くてちょっとドキっとしたよ。



みーちゃん︰何やってるんですか笑 ホント先輩面白いです笑


やっち︰みーちゃんは今何やってるの?


みーちゃん︰私は友達とお話してます!


みーちゃん︰その


やっち︰どうしたの?


みーちゃん︰これから先輩とお付き合い出来ることが嬉しくて


みーちゃん︰そのことについて、話しちゃってます



 あああ可愛いぃぃぃぃぃ!!! マジ愛おしいわ! 彼女ってこんなに可愛いんだなぁ!


 ……はぁ。


「……世界が輝いて見える」


 モノトーンだった教室がカラフルに彩られていく。なんて言ってみたりして。はは、くっさ!


 クソみたいな自虐できゃっきゃしていると、声のデカい一軍女子達は隠そうともせずに盛り上がっていく。姦しいの語源は絶対これだと思わずにはいられない。


「ねぇ海侑マジで乙女なんだけど! 好きとか送っちゃえばー?」

「そっそんなん恥ずかしいから無理! まだ付き合って二日目だからね!?」

「良いじゃん送っちゃえば! 何かアタシも中学生の頃思い出してきた!」


 ふむ。なるほどな。確かに御代の言う通り二日目で好きって言われるのは重いかもしれない。俺も気を付けなきゃな。


 ……いや、待てよ? 例えば仮にみーちゃんから好きってラインが来たらどうだ? めちゃくちゃ嬉しいな!!! っしゃ送るかァ!!!



やっち︰好きだよ



 うわぁぁぁぁぁ重いかなぁ間違えたかなぁ!? 取り消したいよぉぉぉぉぉ!!!


「ちょっ見て好きって来た! 待ってもうマジ無理ホント好き!」

「早く返しなよ!」

「わっわかってるから!」



みーちゃん︰私も好きです! 大好きです!



 はい大好き頂きましたァいやっほぉぉぉぉう!!!


 ……にしても、あっちの会話とえげつないくらいリンクしてるな。何だ? 俺は御代と付き合ってるのか?


「まっさかぁ」


 そもそも髪の長さも色も違うしな。みーちゃんが腰くらいまでの黒髪に対して御代は肩くらいの金髪だし。


「てか海侑さ、何でこんな地味な後輩みたいなラインしてんの? 普段とキャラ違うっしょ」

「うちのバ先だと私って結構静かめでやってんの」

「その髪で?」

「ウィッグ着けてるから」


 ……髪色問題長さ問題が解決したけど違うから。とんでもない偶然が重なっただけだから。


「海侑のバ先ってアレだよね。あだ名じゃないとダメなとこ」

「そそ。私はみーちゃんで彼氏はやっち先輩」


 確定じゃねえか嘘だろオイ!!!


 ととととりあえずラインするか。うん、たまたま同じタイミングで恋人が出来てたまたま同じ境遇のバ先があって二人ともたまたま同じあだ名でたまたま送ったラインの内容が一致しただけかもしれないしな。



やっち︰ちょっと大事なことを言いたいから周りの子に見るのやめてもらうよう言ってくれる?



「ごめんみんな大事なことあるらしいから散って!」


 あー、ダヨネ(白目)


 周りの女子がはいはいと気だるげに離れたところを確認して、俺は意を決して切り出す。



やっち︰みーちゃんの名前ってもしかして御代海侑?


みーちゃん︰え!? 何で知ってるんですか!?


やっち︰皆川大和って人クラスに居る?



 バッと勢い良く俺へ視線を向ける。とりあえず会釈だけした。



みーちゃん︰同じ中学だったとか……?


やっち︰俺なんだよ


みーちゃん︰はい?


やっち︰皆川大和=やっち。ぼっちってマジだったでしょ?



「……っ!?」


 一気に顔を赤くした御代は信じられないような目でこっちを凝視する。あんな顔初めて見たな……。


 まあでもそっか。みーちゃんは御代だったのか。



やっち︰これからよろしくね


みーちゃん︰何でそんな冷静でいられるんですか!?



 ラインじゃまだみーちゃんのままなんだ。でも俺の中じゃ御代は怖い女子ってイメージが具現化したみたいな子なんだよなぁ……。


「どしたん海侑? 自撮りでも送られてきた?」

「そっ、そんなんじゃないけどぉ……! だってアイツが……でもやっち先輩だし……うううそう思ったらカッコ良く見えてきたのが腹立つぅ……!」


 前言撤回。御代めちゃくちゃ可愛いわ。今すぐ抱き締めたい。



やっち︰めちゃくちゃ可愛くて草


みーちゃん︰やめてくださいバカ!!!

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