ep.37

 「…また、今日も雨ですねー」


 「そうだなぁ…」


 桃華と一緒に遊園地へと行った日から一か月程が経ち、今は梅雨の真っ只中。ここ数日間連続で振っている雨のせいか、何もする気が起きず、休日の午後だというのにだらだらと机の上に突っ伏している。


 「…来週もずーっと雨ですって」


 「そうだなぁ…」


 「「はぁ…」」


 梅雨の時期は憂鬱になるというのは本当のようで、テレビから流れている来週の天気予報を見ていると更に体が気怠くなった気がする。


 「…さっきから、電話鳴ってないか?」


 「えー、そうですかー?」


 正直、動きたくないので電話に出たくないのだが、桃華が俺以上に間延びをした話し方で溶けているので俺が出るしかない。

 

 「はい、瀬見矢です」


 「お、宇津か。 桃華ちゃんと仲良くやってるか?」


 「なんだよ、親父か。 桃華とは仲良くしてるよ。それよりも急に連絡してきてどうしただよ?」


 「あー、今晩あたりに帰る予定だから伝えておこうと思ってな」


 「…それくらい、スマホで伝えてくれればいいのに」


 「先日壊しちまって伝えられなかったんだよ。 …それじゃ、仕事に戻るからよろしく頼んだぞ」


 受話器から親父を呼ぶ声が聞こえると、よろしくな、と言われて電話を切られる。

 忙しそうな声が聞こえていたので、忙しい中合間を縫って電話を掛けてくれたのだろう。

 そんな親父が大変な中で家でだらだらしている事に何も思わないこともないが、やる気が出ないから仕方がないと自分に言い訳をする。


 「…誰からの電話だったんですかー」


 「親父からの電話だったよ。今晩に帰って来るってさ」


 「…おじさまが帰って来るんですねー。それじゃー、何か作った方がいいんでしょーか」

 

 「…えっと、大丈夫か?」


 「…えー、何がですかー?」


 完全に机の上で体が溶け切り、間延びした返事を返す機械になっている桃華はダメ人間のようになっておりこの状態だと何もできなさそうだ。

 

 まぁ、と言っても親父が帰って来る準備といっても特にすることは無い。夕食は俺たちの分を少し多くすればいいし、必要なのは酒のつまみを少し作っておくことくらいだろう。


 日が暮れるまでは少し時間があるが、簡単なつまみをささっと作って冷蔵庫に入れておく。桃華を見ると机の上で眠たそうに目を細めていたので、ソファに移動させ毛布を掛けてあげると「えへへ…」と声を漏らし、気持ちよさそうに寝息を立て始める。

  

 キッチンに立ち夕食を作り始める。今日は既に桃華が準備してくれていた麻婆豆腐と中華サラダを作るだけなので一人でも簡単に作ることができる。

 麻婆豆腐は材料を炒めて、水溶き片栗粉でとろみを出して調理し終わり、中華サラダも切った材料を和えて皿に盛りつけていく。


 時計を見ると6時過ぎ、そろそろ帰ってきてもいい時間だろう。そして、盛り付けた皿をテーブルの上に置いていると玄関の呼び鈴が鳴った。






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