ep.21

 特にこれといった趣味のない俺の休日はあっという間に過ぎ去って、月曜日。今日は体育で体力テストがある。運動がそこまで得意ではない俺にとってはやりたくない教科の一つなのだが、桃華は初めての体育が楽しみなようでいつもよりテンションが高い。

 いつものように桃華と朝食を食べて家を出ると、眩しさに目を細める。朝から日が差していて、天気予報によると今週は晴れの日が続くようだった。


「はぁ…」


 こんな中で体育やるのかと憂鬱になりため息をつく。すると、不思議そうにこちらを桃華が見てくる。


「ため息なんかついたら、幸福が逃げちゃいますよ?」


「いや、こんな日差しの中で体育やりたくないなって思ってさ」


 確かにそうですね、と頷いている桃華。やるならもう少し曇っていて欲しかった。そんな事を話していると学校が見えてくる。桃華に話しかけたそうな女生徒を見つけ、桃華に先教室行ってるからと言って教室に向かう。


 教室に入り席に着くと橘さんが窓の外を見て私の桃華ちゃんは人気だね、と言っている。それに橘さんの桃華ではないけどねとツッコミを入れつつ、つられて窓の外を見る。五人ほどの女子で固まり楽しそうに話している桃華。


「俺以上に学校に馴染んでるな」


「瀬見矢くんもクラスの空気役として十分馴染んでるけどね」


 自虐を含んだ俺の言葉に橘さんがからかって返してくれる。からかいだと分かっていても人から言われると少し傷つく。そんな事を知らない橘さんはあっ、と何かを思い出したように声を上げる。


「そういえば瀬見矢くんと連絡先交換してなかったよね。今、交換しない?」


「別にいいけど… はいよ」


 そう言ってスマホを振ると沙奈と書かれた連絡先が出てきたので登録する。するとすぐにヨロシクと書いているスタンプが送られてくる。





 沙奈:そういえば、ゴールデンウィーク空いてる?


 宇津:目の前にいるんだから直接言えばよくないか?


 沙奈:空いてる?


 宇津:いや、


 沙奈:空いてる?


 宇津:空いてます…


 沙奈:良かった!それじゃあ、隣町まで買い物行くから手伝ってくれない?


 宇津:別に大丈夫だけど、友達に頼めばよくないか?


 沙奈:結構買う予定だし、友達に荷物持ちは流石に頼めないんだよね~


 それって俺だったら荷物持ちにさせても大丈夫ってことか。俺の扱いが雑すぎないかと抗議の目を橘さんに向けるとじっとスマホを見つめている。はぁ、とため息をついて文字を打つ。



 宇津:荷物持ちは良いけど、ゴールデンウィークのいつ? 桃華とも約束あるから確認しないといけない


 沙奈:空いてる日でいいよ。予定が分かったら教えてね


 宇津:了解


 

 スマホから顔を上げると、それじゃ、よろしくねと笑っている橘さんが言う。今になって連絡先を交換したのもこのためだったか、と気づいたがもう遅い。

 丁度良くチャイムが鳴る。急いで席に着くと授業が始まった。



  




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