桃華視点



 身体にあたる冷たい何かを五感で感じとる。の知識がそれは雨だと教えてくれる。周囲の家から漏れる生活音、遠くを走る車の音が人の耳ではなく、獣の耳から聞こえてくる。


 彼女は夜が嫌いだった。暗く、まるで自分しかいないんだ、と錯覚させてしまうような夜が。

 

 周りには誰もいない。暗く、冷たい夜が私の周りを包んでいる。寂しい、怖い、そんな感情が沸々と沸き上がってくる。早く私を助けて出して欲しい、私をこの暗闇から連れ出して欲しいと心の中で必死に叫ぶ。

 朝なれば、明るくなればきっと誰かが私を見つけてくれる。そんなことを考えながら、周りから目を背ける様に眼をつぶる。


 ふと、周りが照らされるのを感じて空を見上げる。雨は止み雲の隙間から漏れ出月明かりが周囲を照らしている。水溜りが月明かりを反射して、まるで地面にもう一つ星空がある様だ。

 

 その景色に魅入っていると、背後に誰かの気配を感じて振り返る。そこには私と同じくらいの年齢の男性が立っていて、さっきの私のように何かに魅入っているように呆然と立ち尽くしている。


「……夜は、好き?」


 私が突然そう聞くと、自分が独りになった様に感じるから夜は嫌いだと彼は答えてくれる。


「……そう、良かった」


 私と同じだと思った。同時に私だけじゃないんだと安心もした。今、私が彼と出会えたのは運命だと、直感的に感じる。傍から見れば何を言っているんだ、となるかもしれない。でも、私は出会ったばかりの彼の隣にいたいと心の底から思ってしまった


 安心して、体が重くなる。瞼が重く、意識が遠のいていく。せめて、もう少しだけでもと気力を振り絞り瞼をうっすらと開ける。そこには、驚いた表情で駆け寄ってくる彼の姿が見える。目が覚めたら彼の名前を聞こう、そう決意すると意識を失った。






────────────────────────────


 

 揺れているのを感じて目を覚ます。どうやら、私は誰かの背中に背負われていたようだ。降ろされると状況が分からず首をかしげている私の前に、あの時私が出会った彼が温かいココアを出してくれる。どうやら、彼は私が倒れた後わざわざ、家まで運んでくれたらしい。自分の状況を確認すると、彼がかけてくれたカーディガンの下の服が雨に濡れて透けているのが見える。

 

 彼と出会った時、私はこんな恥ずかしい恰好をしていたのかと思うと恥ずかしくて彼の顔を見ることができない。なんで、あの時の自分は恰好を確認しなかったの......と後悔しながら、自己紹介をする。

 

 どうやら彼は瀬見矢宇津さんと言うようで、私と同じ17歳だった。だけど、宇津さんは私をさん付けして呼んでくる。もっと親密な関係に私はなりたいのに!と心で思いながら不満を口にする。

 最初は困った表情をしていたが、押しに弱いようで最後は桃華と呼んでくれた。宇津さんとそのまま話していると、宇津さんのお父様が戻ってくる。お父様は獣人対策のお仕事をされている方のようで、私について会社の方と話をしているようだった。

 

 どうやら、私はこの後施設に入らなければいけないらしい。それだけは嫌だ。せっかくのチャンスを逃したくない、と思い。お父様に頼み込む。お父様は顔を悩ませると、相談してくると言って再び自室に戻っていく。


 宇津さんに戻ってくるまでに風呂入って言われて、風呂に入る。風呂を上がると着替えとして宇津さんのシャツとジャージが置いてある。

 これが宇津さんの匂いか~とシャツの襟をすんすんと嗅いでいると、宇津さんが恥ずかしそうにしていた。

 

 その後は、お父様が戻ってくるまでひたすら質問をした。学校での生活について聞くと宇津さんは、どうやら陰キャというものらしくあまり友達がいないらしい。私がもし通っていたら真っ先に喋りかけるのになーなんて考えながら一つ一つを心の中にメモしていく。いつ使うのかもわからない情報も、全部。私は彼のすべてが知りたいから。


 お父様が戻ってきた。どうやら、私はこのまま宇津さんと一緒に住むことができるようだ。嬉しくて、今にも宇津さんの手を取って踊りだしたいくらいだったが、流石に自重した。

 

 宇津さんの方へ向き直り、改めて自己紹介をする。今度は新たに生活を共にするものとして。


「…改めてまして、桃華です。不束者ですが、これからよろしくお願いしますね!宇津さん!」












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