【完結】限界なんてない。あるのは玄海だ。

西東友一

第1話

「ふぅ・・・こんなものかな・・・」


 長崎駅でため息をつきながら、時刻表を見る青年。


 彼の名前は 渡辺瑛斗。

 昨年から東京で働き出した2年目の社会人だ。

 学生の頃は運動も勉強もそれなりにできた彼だったが、社会に出て、捌ききれないほどの仕事量、正解がわからないような仕事に直面し、お客様や上司からため息をつかれるような日々。ゴールデンウィークになって彼はふらっと九州旅行に出かけた。


 1日1県を目標に、今日が8日目。

 すでに、福岡県、大分県、宮崎県、鹿児島県、熊本県、長崎県を回っていた。


「九州って7県しかないとかびっくりだわ。まぁ、そのおかげで屋久島に上陸できたけど・・・」


 生まれてからずーっと、関東圏で暮らしてきた瑛斗にとって、九州は確かに中学校の時に7県だと習ったはずだったが、日常生活にほとんど干渉してこない情報だったため、記憶が薄れていた。


 休みはあと2日。


 それが終われば、また忙しい毎日が待っていると思うと、8日間も旅行を満喫したはずの瑛斗の顔はすっきりしてはいなかった。


「佐賀か・・・」


 瑛斗は肩や腰を回して、ストレッチする。


 長旅は楽しいけれど、疲れる。

 長距離バスでの移動や、飛び込みで泊まれるホテルを探して身体を休めた瑛斗の身体は疲労が溜まっている。


「佐賀の良いところは探せませんでした、なはははっ」


 瑛斗は先ほどまでどうしようか悩みながら、スマホで佐賀県を検索していた。それなりに行ってみたいところはあったけれど、絶対に行きたいと思えるような場所には感じなかった。学生の頃、佐賀のキャッチコピーが「佐賀を探そう」であることを耳にした記憶が蘇った。


「・・・うん、しっかり身体を休めるために帰るか」


 今はどうか知らないが、はっきり言って、うじうじ悩んで自分を探しているやつなんて魅力がない。

 そう考えた瑛斗は佐賀を見下すような目でスマホの画面を見下ろした。


 トゥルルルルルッ


 電話がかかって来て、一瞬びくっとする。

 せっかくのオフなのに、仕事モードのスイッチがオートで入ってしまった。


「んだよ、蓮かよ・・・もしもしっ」


 瑛斗は文句を言いながらも、友人の長谷川蓮からの着信に対応する。


「もしもし、瑛斗。今暇?」


「はははっ、今俺はな、長崎にいんだよ」


 暇人と決めつけた言い方をしてきた蓮に対して、誇らしげに回答する瑛斗。


「じゃあ、カラスミよろしく。ごちになりまーす」


「はぁ!? ふざけんな。こっちは旅費が底をついてだな・・・」


「まっ、いいや。それで、ずーっと長崎に行ってたの?」


 瑛斗はマイペースな蓮にものを言いたくなったけれど、蓮がそういう性格で注意しても治ることがないことを良く知っている瑛斗は文句を言いたい気持ちをぐっと抑えて、


「いいや・・・九州回ってたんだよ」


「へーすごいじゃん。全部回った?」


「それがだな、佐賀だけは良いところを探せなかったから行かないつもりだ。はははっ」


 面白いことを言ったと思った瑛斗は誘い笑いをする。


「えー中途半端、もったいなっ」


 蓮の率直な感想に瑛斗はぴくっと反応した。


「昔から、瑛斗はなんでもできたけど、最後までやりきらないよなぁ。それで、やらなかったことをうじうじうじうじ・・・佐賀だっていいところあると思うよ」


「なっ、なら言ってみろよ」


「・・・うーん。わかんないや。まっ、最後まで楽しんで。じゃっ」


「おっ、おいっ」


 スマホは反応しなくなり、画面を見ると、通話終了となっていた。

 







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