残酷な神隠し

龍玄

第1/8話 悲運に振り回される屈折

 石破俊博(仮名)は1975年(昭和50年)1月5日、岡山県岡山市で3人兄弟姉妹の長男として出生した。母、芳江はある日、風呂を沸かしていることを忘れ家事に勤しんでいた。ゴトゴトと音のする風呂に興味を持った俊博は、浴槽によじ登り蓋に足を掛けた時、蓋が浴槽に落ち、両脚に大やけどを負った、1歳11か月の事だった。赤いケロイド状に残った火傷が原因で物心が付き始めた小学校低学年の頃に、税理士事務所を経営していた厳格な父親に泣きながら相談するも「そんなことで泣くな」と怒鳴られた。それ以来、弱音を吐くと怒鳴られると、いじめに遭っていることを誰にも相談できなくなり、次第に人と接することを避けるようになった。

 閉鎖的な行動が現実逃避できる唯一の方法で在り、そのせいで両親との関係も良好なものとは言えないものになり疎遠になると、この劣悪な状況は両親のせいだと強く思うようになり、殺したいとまで思うようになっていた。

 孤独な中での自問自答は、いつしか自分が火傷を負ったのは両親のせいだ、と思うことで劣等感を誤魔化すようになり、自身の中に潜む孤独に蝕む悪の芽生えにも怯えを感じ始めていた。

 思春期を迎える頃には火傷のために「自分は女性や恋愛には無縁だ」と考えるようになり、益々両親への恨みを深め、解放感を求め、今の環境から逃げ出したい一心で早く両親の元から離れたいという思いが強くなっていた。

 1993年(平成5年)3月に地元・岡山県の県立高校情報処理科を卒業し、就職先を地元から遠く離れた所を選んだ。運よく、東京都内のゲーム会社に入社できた。4年余り勤務したところで単調なゲームの仕事に飽きたこととキャリアアップのために退社。その後は、派遣社員としてコンピューターソフト開発会社に勤務し、会社を替わるなどし、キャリアを積んだ結果、技術を認められ、引き抜かれまでになり、月額50万円の個人契約社員として勤務できるまでになった。

 仕事での自信は、俊博の欲望を促進させていく。姿態へのコンプレックスの裏返しのように自分よりさらに悪化した境遇の人物を好んで描くようになり、俊博のmixiのプロフィール欄には「だるま、ダルマ、達磨、四肢切断」と記載されており、四肢切断(アポテムノフィリア)に異常な執着を伺わさせた。そこには、四肢切断した女性のアニメ風イラストをアップロードしたり、コミックマーケットでも女性を四肢欠損させた同人本を複数製作し、販売していた。

 俊博の性への欲求は、万人と同じく年毎に高揚した。しかし、俊博の脳裏には、女性に火傷の跡を見られると振られてしまうから普通の恋愛・結婚はできない、との思いがあった。女性との交際経験はなかったが一緒に映画や食事に出かけたり、遊園地の帰りにホテルに寄って性行為をしたりする女性が欲しい。自分のことをずっと好きであり続け、なんでも自分の言うことを聞いてくれるような女性がいい、という考えが空想と現実の狭間で日増しに高まっていた。

 金銭的に余裕を感じ始めた俊博は、どうすれば自分の欲望が叶えられるか考える時間がいつしか至福の時となっていく。そんな時、Vシネマで「飼育」と出会う。好みの女性を拉致し、極限の中で愛情と恐怖で束縛し、飼育することにより、歪んではいても愛情を受けられるというものだ。

 俊博は、空想を思い描くことに執着し始めていた。

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