『文体の舵を取れ』練習問題

@Chihayatowa

練習問題1 文はウキウキと

1 一段落~一ページで、声に出して読むための語りの文を書いてみよう。その際、オノマトペ、頭韻、繰り返し表現、リズムの効果、造語や自作の名称、方言など、ひびきとして効果があるものは何でも好きに使っていい。

 

 『昨晩21時頃、南太平洋上に大型の矛盾が発生しました。矛盾は現在勢力を拡大しつつ北進中。本日15時頃には関東平野に上陸する見込みです』

 矛盾災害。22世紀に突如出現したその災禍は、世界にあべこべをもたらした。矛盾の中では、太陽は西からのぼり東に落ちる。雨は下から上へと吹き上げる。亀がマッハで空を飛び、大気があまりの静けさに振動する。

 因果律の狂った渦の中で、人々の生活は破壊され尽くした。朝起きたら天井に寝て、床を見上げている。近所のコンビニが北極より遠くなった。ゆで卵を冷やしたら生卵になった。異常事態を知らせる電話は鳴りやまず、デマか真実かわからない現象を報告しつづける。

 都内を一望できるビルの上で、男が双眼鏡片手に海を眺めている。海には矛盾が渦巻き、周囲を白い鳥が何羽も飛び交っていた。白い鳥はしゃがれ声でなき、矛盾災害到来を告げる前触れとなっている。この鳥の群れは通称『白い鴉』。白い鴉の数は上陸する災禍の大きさに比例していた。

「鴉がひいふうみいやあ……いっぱいっすねえ」

 男は双眼鏡から目を離さない。胸ポケットの通信機が三度鳴った。 

 

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