第4話 身辺整理と家宅捜査。

 双子の巫女が「それでは参りましょう」と言って両脇に付き添って歩き出した――


 背後には気の強い巫女がいて、取り囲まれて連行されている様な気分になった。しばらくすると、軌道エレベーターが吉田を送り届けて戻って来た。


 扉が開き双子の巫女と乗り込み、振り返ると気の強い巫女に正対した――


 すると巫女が巾着からノート・パソコンの様な物を取り出した――


「住民票と現住所に相違はない? 相違が有れば住所を言いなさい」


「偉そうに! 警察じゃあるまいし、そんな事はどうでも良いだろ!」


 巫女はキツく言い返した――


「答えないなら事故現場に戻るだけよ。それでも良いの!」


 津村は身辺整理の事を思い出して焦った――


「あぁ、待った! 待ってくれ、相違はありません!」


 巫女は「手を煩わせないで」そう言うと軌道エレベータの行き先を入力した。


 軌道エレベーターは「グィン、グィン」全力で下りて行く――


 

「チエッ! 人の事をデリカシーが無いとか言いやがって! それが目上の者に対する態度なのか! お前の方がよっぽど無神経だよ」


 目にも止まらぬ早業で巫女は急所を蹴り上げた――


「女性に向って『お前』と言うな! 馴れ馴れしい!」


 津村は激痛に耐えて言った――


「こんな乱暴な巫女がこの世に、いや、天の国に居るなんて信じられない……」


 巫女がもう一発お見舞いしてやろうかと睨み返した――


「天の国で良かったな。無神経で乱暴な者は地上ではモテませんからねー」


 巫女は図星を突かれて怒って言い返した――


「何よ! 独身の癖に!」


「自分だって、独身だろ! 処女の癖に! フッフ」


 津村は勝ち誇っていた――


 エレベーター中では睨み合いが続き、双子の巫女は必死で笑いを堪えていた――

 

 そして「ティン・トーン!」と到着のベルが鳴り、エレベーターの扉が開くと、一瞬で地上の空気になっていた――


 津村は街の空気の臭いに懐かしさを感じて嬉しくなった。


「それではこちらへ」そう言って自宅の門まで案内をした。生体認証をすると小さな扉が開いた。そこに物理キーを差し込んで回した後、暗証番号を押して開錠した――


 高さ五メートル以上ある門扉が静かに軽く開いた―― 世界的に高名な建築家の手掛けた作品であり、現代建築の書籍では表紙を飾り、その年のアーキテクチュア賞を総ナメにした邸宅である。


 津村は「どうぞお入りください」と言って前を歩いて誘導した。


 中に進むと双子の巫女が驚いた――


「まぁ、素晴らしいお家ね。なんて素敵なお庭でしょう」


「どうだ、凄いだろ、こんな豪邸は観た事が無いだろっ! あっはっは」


「ふんっ、所詮はお金で買える物。一夜の夢に過ぎないわ」


巫女がそう言って冷笑すると、津村は落ち着いて言った――


「うん。まぁ、そう云う事だな」


 巫女は怒って反論すると思ったが当てが外れた。素直で正直なのも本当だと思った――


 エントランスに着くと生体認証を済ませてカードキーを翳した。「ピピッ」と音がして自動でドアが開いた――

 

「さあ、どうぞ」

 

 津村は笑顔で招き入れると、双子の巫女が声を揃えて言った――


「天の国にもこんなのが欲しいですよねー、良いなぁー」

 

 巫女が顔を赤くした――


「天の国は伝統を重んじているのっ! こんな安物と一緒にしないで!」


 双子の巫女が囁いた――


「声を掛け合って、三人掛かりで全力で開けるのが嫌だと言っていたのはぁ、何処の何方やら」そう言って顔を見合わせて「ぷっぷぷっ」と笑った――


 エントランス・ホールから奥へ進む回廊はガラス張りで、庭園からの連続性を保っていて、アーチを潜るとモダンな空間に前衛的な装飾が施されていた。


 更に、その奥の大きな扉の向こう側は来賓用のラウンジで、天井には豪華なシャンデリアと大きくゆったり座れるソファが有った。


 ヨーロッパのアンティークを中心に、壁には美しい絵画が掛けてあり、周囲は美術装飾品で溢れていて、大理石の床にはペルシャ絨毯が敷かれていた。


 エントランスとは打って変わって上品で静謐な雰囲気を醸し出していた――


「身辺整理と言うが天国には何も持っては行けないのでは?」


「勿論よ、これから家宅捜索に入る。良いわね」


「ん、まぁ……どうぞ気が済むまで好きにしてくれよ。分からない事や、もし、手伝う事が有るなら声を掛けてくれ」

 

 既に双子の巫女は特殊なグローブと暗視ゴーグルの様な物を付けてスタンバイしていた。

 

 巫女はケータイの様な物を持ち何かを唱えながらアプリの様な物を起動した――


「迅速に済ませるから寛いでいて良いわよ」

 

 そう言うと採り物の神楽鈴を持った――


「地上時間、十時四十分、家宅捜索開始! シャリーン! シャリーン」


 その号令で双子の巫女は他のフロアへ、巫女も津村の前から姿を消した――


 津村は心の中で囁いた――


「此処はオレの家なんだから、言われなくても寛ぎますよーっ!」


 津村は自分の所有する全ての物に「さよなら」を告げていた――




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