第32話 俺の停学はまだ解けないみたいだ

 文芸部室。集会場から窓の外を見ると、仲睦まじく校門へ向かって歩いているカップルがいた。

 それをカスミと見守る。


「お似合いだね」

「だな」


 ため息混じりでそんな二人を見守る。


 告白は南志見からしたらしい。そりゃ南志見から告白されりゃ小山内さんも即答でOKだろう。

 二人は無事に付き合えた。


 南志見のネックは居場所がなくなること。それを俺が解消してやることで思いっきりの行動が取れたのだろう。

 だが、南志見と島屋には深い溝が残ったままだ。でもそれで良いと思う。島屋本来の性格は知らない。もしかしたらかなり良いやつなのかも知れない。でも、恋に溺れて友達を陥れようとしたんだ。酒に溺れて本性が出たのも同義だろう。そんなやつとは関わらない方が良い。


「あれ?」


 疑問に思ったことがある。


「どうしたの?」


 首を傾げてくるカスミにジト目で言ってやる。


「俺って助手だよね?」

「え… あ、あはは……」


 また笑って誤魔化される。


「ま、いっか……。これにて俺の停学も無事に消滅ってわけだ」

「おめー」


 カスミが、パチパチと手を叩いて祝福してくれた。


「お疲れ様!」


 言いながら部屋に入ってきたのは久しぶりのご登場である富田先生だった。


「上牧。田中先生が呼んでいたぞ?」

「あ! やばっ! 補修忘れてた!」

「補修はやばいな。早く行きなさい」

「はーい。じゃね、レンレン」


 手を振ってカスミが部屋を出て行った。


 それを見送ると先生がこちらを見てくるので質問をする。


「先生。結局、あの耳うちの件の理由、聞いてませんでしたけど……」

「ああ。遠回りをしろってやつだな」

「それっす。なんでわざわざそんなことしなきゃならなかったんですか? 別にそれを

するのは良かったんですけど意味はわかりませんでした。もっと単純に近道させてあげた方がよかったんじゃ?」

「まぁそれには深い理由があってな」

「深い理由?」


 先生は悪戯っ子みたいな笑みで言ってくる。


「実は依頼は一つだけじゃないってことだ」

「え? どう言うこと?」

「小山内の前に一つ、私のところに依頼に来ていてな。『小学生の頃から好きな男子がいるけど絡みが全然なくてどうしたらいいのか教えて』ってな」

「はぁ? そんなこと一言も言ってなかったでしょ?」

「そりゃ、その依頼を伏せていたからな。それは依頼主からの要望でな。その依頼主の願いと一緒に小山内の件も頼んだってわけだ。その依頼主は男子と絡みたいって言ってたからな。だから小山内の件を使って遠回りさせたんだ」

「ん? どう言うこと?」


 聞くと壮大にため息を吐かれる。


「気がつかないか。まるでラブコメの主人公だな。爆ぜろ」

「それ! 俺がめっちゃ使ってたセリフ!」

「まぁ良い。そのうち依頼主から想いを告げらる日も遠くないだろ。その依頼達成までお前の停学は完全に解けない」

「はあ!? 意味わかんない! は!?」

「うるさいぞ。ともかくだ。その依頼が達成されるまでお前が気がつくまで上牧の助手だ」

「なんだよ! それ!」

「はっはっはっ! これも青春だよ!」


 高笑いをして先生は帰って行った。




   ※




「あれ? レンレン?」


 校門でカスミを待っていると、日は傾いて夕暮れになっていた。


「どうしたのこんな時間まで」

「カスミを待ってたんだよ」

「え? 私?」

「聞きたいことがあってな」

「聞きたいこと?」

「ああ。お前は知ってたか? 小山内さんの依頼の他に、別の依頼があったこと」


 聞くとカスミは「あ、あー」と苦笑いを浮かべる。


「まぁ……」

「なんだよ! 知ってたのならいえよ!」

「言えるはずないでしょ! ばか!」


 カスミは鞄で俺の背中を叩いてくる。


「いでっ!」

「もうバカレンレン! バカ!」

「酷い言われようだ。しかしだなカスミ。その依頼が達成されるまで俺の停学は完全に解けないらしんだ」

「え? そうなの?」

「ババアに言われた」


 言うとカスミは嬉しそうな顔をする。


「そっか……。うん。そっか」

「なんで嬉しそうなんだよ」

「べっつにー。それじゃ、その依頼が達成されるまでまたよろしくねレンレン」

「まぁ仕方ないか。停学は嫌だし」

「この調子じゃ卒業まで依頼は達成できないかもねー」


 小さく「それはそれでアリかも」と呟いていた。


「それは困るな」

「うん。やっぱ私も困るー。だから、全力でサポートよろしくね。助手のレンレンくん」

「しょうがいない。その依頼主のわからない依頼を達成させるか」

「これからもよろしく」

「よろしくな。ビッチ」

「ああ! またビッチって言った! この! この!」

「痛い、痛い。でも、我々の業界ではご褒美です!」


 そうやって俺たちはいつものように帰っていく。


 次の依頼達成に向けて雑談しながら。

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