第12話 久しぶり

 堤が小山内さんになにをしたかなんてまったく興味ない。

 ま、多分、パンツ見たとかそんなんだろう。あいつアホだし。


 サッカーの試合が終わり、グラウンドでは片付けが行われている。

 勝敗は──多分、うん、えっと……。同点だと思う。

 応援はしてたけど、ちゃんと数えてなかったな。二対二だったと思う。多分。


「じゃ、俺は自主練に戻るわ」

「ああ。またな」

「うぃー」


 堤は試合が終わるとすぐに自主練に戻って行った。


「うーむ……」

「どうかした?」


 小山内さんに聞かれたので項垂れていた理由を話す。


「いや、応援してた中に何人か女子がいたけど、全員試合が終わるとサッサと帰って行ったなぁと思って」

「もしかして、その中に拓磨の──」


 小山内さんは、しょんぼりした顔を見せる。


「わからんけど。とりあえず、この後の動向でわかるかもしれない。この後密会するかもだし」

「密会──」


 ベッドイン的ななにかを想像したのか、しょんぼり+顔色が悪くなる。

 その時は俺がワンナイトラブして忘れさせてあげるから安心してくれよん。


 とか言うと犯罪的変態紳士なのでやめておこう。この空気で言うことではない。まじで。


「まぁ、また連絡するよ」

「ね? 高槻くん。私も一緒しても良い?」

「うーん……」


 少し考えて首を横に振った。


「俺とカスミは南志見に知られてないけど、小山内さんは幼馴染だろ? もしバレたらややこしいことになるからな。尾行は任せてくれ」


 彼女は納得したが、寂しげに頷いた。


「あ、あの、もし……もしだよ? 女の子と会ってたら連絡してくれない?」

「あー。まぁ……小山内さんがそう言うなら教えるけど?」


 聞くと頭を押さえる小山内さん。


「ああ……でも、知りたい。知りたくない……。でもでも……。うう……」


 悩んでいるとサッカー部が解散したみたいだ。

 試合後のミューティングとかないところを見ると、やはり部活に力を入れていないサッカー部というのがわかる。


「とりあえず行くわ。なんかあったら連絡するし、考えまとまったら連絡ちょうだい」

「う、うん」




   ※




「今日は一人でイロンか……」


 本日の南志見はサッカー部の人たちとは別行動を取り、駅前にあるショッピングモール──イロンタウンにやってくる。

 いろいろあるよイロンタウン。いろいろ楽しいイロンタウンのCMでお馴染みイロンタウン。

 そんなCM見たことないって? 安心しろ。俺もない。


 しかし、一人でイロンか……。昨日はサッカー部の連中と寄り道した奴が、今日は試合終わりにイロン。


 ふむ……。


 イロンに入ると、学校前のチェーンストリートにもあるカフェに入って二人席に腰掛けていた。

 俺はそれを少し離れた席で、フラペチーノてきなのを頼んで様子をうかがう。


 昼前のカフェなので、人気チェーンのカフェだが人はまばらだ。この時間の客はレストラン街に流れるだろうからな。

 そんな時間。南志見もサッカーの試合終わりで腹が減っているだろうに、カフェに入るってことは待ち合わせの可能性が高い。

 今日はスマホをずーっといじっている。


 ま、一人でカフェに来たのだからスマホくらいいじるわな。


 別になにも怪しくはない。


 なんて思っていると事態が動いた。


「お……。おお……? お」


 つい、声を漏らしてしまう。


 だっせぇ制服を着た女子が南志見の席にやってくる。

 親しげに手を上げて彼の前に立つ。


 あの、だっせぇ制服は俺の地元の制服だ。チャリですぐそこにある高校の制服。物凄いださい。いや、ほんと、何色なの? てか、なんでそんな作りにしたの? ってくらいださい。どんな美人が着てもださい。

 

 そんなだっせぇ制服を着た女子が来ると、南志見は飲みかけのなにかしらの飲み物を持ってカフェを出る。


 あいつ、黒か。


 あのラブコメ野郎。小山内さんとかいう、テンプレ超絶うらやま幼馴染がいながら、まじで他の女に手を出しやがって! 幼馴染をなんだと思ってんだ!? ハーレムものか!? テンプレハーレム系主人公ですか!? ああ!? 幼馴染は負けヒロインってか!? ゆるさん!


 俺もフラペチーノてきなやつを持って、二人の後を追うことにした。




   ※




 スマホで小山内さんに報告の文を作ろうとして止まる。

 あのラブコメ野郎が黒だと思ったが確信が持てない。


 なぜなら、イロンを移動中、奴らは手を繋いでいない。


 付き合いたての高校生カップルが手を繋がないなんてあるか? 否! ない!

 高校生カップルという『ウチら最強でしょ? いけてるっしょ? 見て! ウチら見て!? うぇー!』な感じがまったくない。

 その距離感はどこか友人同士が歩く距離。手と手が触れ合うなんて距離じゃない。


 だが、こうも捉えられる。塾終わりの熟成された熟年のじゅくじゅくカップルとな!


 あの二人の慣れた感じ。


『なにも語らずともあなたのことはわかるわよ』みたいな女の目! 


 くそ! いいな! 羨ましい!


 あ、南志見の彼女風味のだっせぇ制服着た女の子めっちゃ可愛いな。だっせぇ制服着てるのに可愛い。それって普通の制服なら射精レベルで可愛いのでは?


 くそっ! いいなっ! うらやまひぃぃ!!


 あんのラブコメ野郎!! よりにもよって美少女と歩きやがって──あいつだけは許さん。


 嫉妬の炎をネチネチと燃やしながら、やって来たのは本屋だ。


 ここのイロンタウンにはあまり来ない。地元でもないし、学校から少し距離があるからな。

 だから、本屋なのに、なんで混雑しているのかわからない。

 本屋がまるでアイドルの握手会みたいな感じで混み合ってる。


 なんだ? なんでこんなに……。いや、それは良い。二人を見失ってしまう。


 必死に彼らを追いかけていると──。


 ドンっと体に柔らかい感触を受ける。


「あっと……」


 俺は軽く声を漏らしてしまう。


「あでっ!」


 目の前の女性が尻餅をついた。


「すみません! 大丈夫ですか?」


 やっべ。ぶつかって女性に尻餅つかせてしまった。

 しかも女性に、あでっ! って言わせちゃった。やべーよ。やべーよ。


「あ、い、いえ。大丈夫ですよ」


 良かった。良い人の類がこういう時に放つ第一声だ。これは安心できる。


 俺は彼女に手を差し出して顔を見る。


「あ……」とお互いの声が漏れてしまう。この漏れ方はお互いが顔を知っている時の漏れ方だ。


 眼鏡に帽子を深く被っている女性。


「えとえと……。あ、あはは……。れんれ──」

「五領(ごりょう)じゃん」

「はい?」

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