第9話 同じ地元
ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
俺とカスミを運ぶ車両がそんな擬音を出している。
どうやら、カスミも俺と同じ電車通学で同じ方向らしい。
さっきまで不機嫌だったのはもうなおったみたいだ。
その証拠に、この時間、この電車、この車両には人が全然乗っていないのに、ベンチ型のシートに座った俺の隣に腰掛けてくれているからだ。
なにより普通に喋りかけてくる。
「レンレン。これからどうする?」
「え? ホテル行く?」
そう言うと、思いっきり足を踏まれる。
「高校生なのにそんなところ行くわけないでしょ!」
カスミみたいな女子高生が言うと、ギャップがあって非常に良いセリフだ。
「じゃなくて! 小山内さんと南志見くんの件!」
「あー、はいはい。わかってますよー」
いてて。二回目の足踏みは痛すぎる。
「そうさなー……。まぁ、まだ彼女がいないって確定したわけではない」
「そうだね。今日はたまたま女の子と会ってないってだけかもだもんね」
「そうそう。家では電話とかL○NEしてる可能性だって全然あるし」
カスミは頷いて同意してくれる。
「あのラブコメ野郎に彼女ができた可能性はまだある。だけど、他に避けている理由があるかもだし、それを探りたいな」
今までずっと仲の良かった幼馴染を彼女ができたからって理由で避けるとは思えない。
ずっと仲が良かったからこそ、彼女ができたら報告くらいすると思うし……。
ま、幼馴染なんていない俺にはわからんけどな。
「彼女いがいで避けている理由……か……」
カスミは人差し指を顎に持っていき、可愛らしく考え込む。
「なんだろ……。男の子が女の子を避ける理由ってなにがあるの?」
「ううむ……」
俺も腕を組んで考え込む。
「そうだな……。好き避けとか?」
思いついたことを言うとカスミが首を傾げる。
「好き……シャケ?」
「おにぎりの具材はシャケが好きです。でも、シーチキンの方がもーっと好きです! ──じゃねぇわ! 昔の引っ越しCM風に言ってんじゃねぇよ! お前キリンさんの気持ち考えたことあんのかよ!?」
「キリンさんどこから来たの!?」
「わかる人にはわかる。わからない人にはごめんなさい」
「てか、いきなり言ったのレンレンじゃん」
「ボケたのはカスミだろうが」
「私なの!?」
「ともかくだ」
話が脱線してしまった。
「相手のことを好きなのに避けてしまうという、ヘタレスキルだな」
「あー。ヘタレ主人公にありがちなやつか」
「そうだ。『──俺の名前は南志見拓磨』」
「なんか始まった!?」
「『俺は高校に入って早くも二年目の春を迎えた』」
「テンプレなプロローグ!」
「『俺は同級生で幼馴染の小山内円佳と遊園地に遊びに行って、白ずくめ達の怪しい取引現場を目撃した』」
「白なんだ。隠す気ゼロじゃん」
「『取引に夢中になっていた俺は、背後から近づいてきていたもう一人の仲間に気がつかなかった』」
「白だから気づくよ。普通」
「『俺はその男に毒薬を飲まされ気が付いたら──』」
「ちょっと!? それ大丈夫なやつ!? 小さくなるやつ!?」
「『ラッパーになっていた』」
「あ、違うやつだ」
「『南志見拓磨がラッパーになっているとバレたらバトルを仕掛けられると思った俺は、富田先生の助言で正体を隠すことにした。そして俺は円佳にカラオケに誘われて咄嗟に──南島三郎と叫び、カラオケで演歌ばかりを披露した。──ラッパーになってもJ-POP大好き! カラオケ最高点数九十五点! 演歌の得点九十七点! 天下無双のカラオケっ子。その名も南志見拓磨!』」
「もろもろツッコミが面倒だけど──。うん。三周もてば良い方って感じだね」
「──あいつはラッパーなのか」
「それレンレンが勝手に想像した設定だから! てか、好き避けどこいったの!?」
「ふむ……。ふざけすぎたな」
コホンと咳払いをして切り替える。
「つまりだ。高校二年になって、ようやく小山内さんの魅力に気がついた」
「つまりの使い方間違えてるよ」
「『今まではただの幼馴染だけど、もう幼馴染として見れない。この気持ちは……なんだ?』」
「なんだろうね?」
「『好きだ』」
言うとカスミはビクッとなった。
「『俺は同級生で幼馴染の小山内円佳が好きなんだ!』」
「唐突なラブストーリー」
「『でも……! でも、今更好きだなんて……恥ずかしくて言えないわ。わかんない。もうわかんないよ』」
「南志見くんが少女漫画の主人公みたいになってるよ」
「『円佳。気がついて……。拓磨の気持ち、気づいてよ!』──状態だな」
「うん。つまりレンレンの脳みそがクソってことはわかったよ」
「つまりの使い方。正しいぜ!」
ビシッと親指を突き立てると、睨まれる。
「はぁ……。なんでも良いけど……。──男の子でも好き避けってするの? 女の子がするイメージだよ」
「そうか? 俺は男がするイメージだな」
「どっちもするものか……」
「しかしだな……。そうなると、両思いなのに思いを伝えられてないだけってか?」
「その可能性もありよりのありってわけだよね?」
「うーん。それなら、俺達のやってることって?」
「両片思いを見せられているモブAとBってわけだね」
「なにそれ。くそやん。なんなん!? とりあえず南志見はコロす」
「だー! すぐ南志見くんコロさないでよ! 落ち着いて。とりあえず、その拳をゆっくりと開いて。パーにしよう。パーに」
どうどうとなだめてくる。
「そうと決まったわけじゃないから、もう少し調べよ
? ね?」
「──っても、どうする? 明日は休みだけど?」
「あー。そうだねー。──えとえと、ええっと……」
カスミはどこか、あわあわして自分のブレザーのポケットに手を入れたり、入れなかったりを繰り返していた。
そして、深呼吸をしてスマホを取り出す。
「こ、交換する?」
「おけ」
俺はスマホを取り出して、彼女のスマホと俺のスマホを取り替えた。
「カスミ。ロック番号教えてくれや」
「その交換じゃない! ばかっ!」
「いでっ!」
思いっきり肩パンされたあと、スマホを元に戻す。
「交換って言ったらIDでしょ! 普通!」
「いやー。渾身のボケかなぁと」
「もう! 勇気出したのに……レンレンのばか……」
ぽかぽかと可愛く殴られる。
「いたいたい。ごめんごめん。ほら、俺のID」
俺はカスミに自分のIDを教えた。
「あ……。う、うん……。えとえと……。適当に送るね」
「あいよ」
返事をすると同時にL○NEが届く。それと同じくらいに『次は〜──』と俺の降りる駅名がアナウンスされた。
「ほんじゃ俺はここだから。また、L○NEするわ」
そう言ってドアの前に立つと、カスミも隣に立つ。
「ん? もしかしてカスミも?」
「え? あ、う、うん。そ、そうなんだよね。えへへ」
「へ? 地元同じ?」
「そう……なっちゃってるね」
視線を逸らしてカスミが続ける。
「でも、私達の地元って広いじゃん?」
「確かにな」
俺の地元は中核都市で面積は広い。カスミみたいな美少女と同じ地元だからといって、知り合いとは限らない。
「バス派?」
カスミに聞くと頷く。
「うん。バスで山の方なんだ。だから自転車はしんどくて……レンレンは自転車だよね?」
「おお。よくわかったな。チャリだよ。俺は川側だからな。駅まで坂なし」
「ふ、ふぅん」
カスミが頷くと電車が止まり、プシューっとドアが開いた。
「詳しくはL○NEで」
降りながら言うとカスミも頷く。
「うん。そうだね」
「んじゃ。俺、チャリこっち置いてるから」
バス派の人は中央改札に行くだろうから、俺は東改札への道を指差して言った。
「あ、う、うん。またね」
「またL○NEする」
「うん!」
カスミはどこか嬉しそう頷いた。
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