第49⁂めぐみちゃん殺害動機!⁂



 それにしても、木村直樹を巡っての争いと、めぐみの父親が万里子お嬢様のおばあちゃんに虐められた事に逆上して暴れた事や、母初美の事を『淫乱女なんか死んでくれてホッとした』と言っただけで万里子お嬢様が、血の繋がった又従姉妹を殺すとは浅はか千万。

 滝にしても幾ら愛する人を侮辱したからと言って殺害動機としては、余りにも動機が弱過ぎる。


 何故めぐみちゃんを殺害しなくてはいけなかったのか?

 実は万里子お嬢様とめぐみちゃんは、以前は又従妹同士で非常に仲が良かった。


 めぐみちゃんは一人っ子で万里子お嬢様には小百合という義姉がいるが、あいにく諸事情で敬遠の仲となって居る。


 だから、2人は本当の姉妹のように仲良しで、色んな親に言えない悩み事も共有する仲だった。


 万里子お嬢様は「私があの家の継承者だったのに、母を死に追いやった小百合が許せない!小百合にそっくりなあの静子という素性の悪い女の子とすり替えたい!」


「そんな事言ったって小百合が2人いたらダメでしょう?」


「そうなのよ!良いアイデア無いかしら?」


「それって亡き者にするって事?……ダメよそんなこと考えたら~?」


「滝と私は鎌倉を追い出されて、母を死に追いやったアイツが許せない!アイツを殺したい!」


 そんな重要な事まで仲良しのめぐみちゃんには、腹を割って話していたのだ。


 まるで姉妹のように仲良しだった2人だが、木村直樹が現れた事によって、2人の間には大きなひびが入り、めぐみちゃんが殺害される数日前にも、直樹を巡って大きなバトルが繰り広げられていたのだ。


「フン!あなたのおばあちゃんには、お父さんも散々泣かされ酷い目に合って来たって…事あるごとにぼやいているのよ!…おじいちゃんが借金だらけになって仕方なくまだ子供だった父を、鎌倉の家に預けたら、従業員を使って殴る蹴るの暴力をおばあちゃんがやらせていたって事、同じ従業員だった私のお母さんが証言しているのよ!…そういう事もあってあなた達家族が許せないのよ!…その挙句にあなたのお母さんたら、私の父にまで色目を使って誘惑したって母が暴れて死にかけたんだから?…だから、あなたのお母さんが亡くなってくれて…こんなこと言っちゃ悪いけどホッとしているのよね?ウフフ!」


「……ウウウウッもう!許せない!あなたなんかもう!」


「それから万里子…あなたの恐ろしい本当の姿を直樹にバラシてやる。あなたが義姉小百合さんを殺したいと思っている事を…放っておいたら私たち迄いつ殺人者の親戚になるか分かったものじゃないから……だから私の家族と直樹にバラシてやるから!…万里子お願い!直樹の事は諦めて!そうしたら全て話さないし、許してあげるから」



 万里子お嬢様とめぐみちゃんが仲良しだった1年前は、まだ只の恨み言で済んでいたのだが、もう話は現実化している。


{吉川会組長の忠も加わり殺害決行日も数日後に決まった今、殺害計画がめぐみちゃん家族に知れたら全て水の泡どころか、とんでもない事になってしまう。それから私は絶対に直樹を失いたくない!母も亡くなった今『お金も底をつきそうだ』と滝にも言われている。私の帰る場所は父の住む鎌倉しかない!}


 あの殺気立った目付きの吉川会組長に、今更撤回しますと言ったら半殺しの目に合いそう。


 そこで正直に組長に「めぐみちゃんが、小百合殺害計画を全てばらすと脅して来た」

と話した。

「何――――――――ッ!直ちに決行だ!」


 こうして交換殺人が実行された。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 何故怪しまれずに静子から小百合になれたのか?


 そこには父の吉川会組長忠が大きく関わっている。

 何故芸能界と暴力団が切っても切れない関係に有るのかというと、昭和の大スタ―美空ひばりは1957年、浅草国際劇場で狂信的なファンから顔に塩酸を掛けられ大やけどを負っている。


 現在のようにセキュリテイが充実していない時代、暴力団がいなければ芸能人の安全が保障されなかった。


 また昔はヤクザが芸能事務所を経営している事は、往々にしてあったのだ。

 実は吉川会組長の忠は、Kエージェンシ―の役員にも名を連ねている。

 博多にヤクザ事務所吉川会が有り、Kエージェンシ―も同じ博多にある。


 1970年九州の天神は、福岡県福岡市中央区にある九州最大の繫華街の通称。

 静子14歳は、この時中学3年生。


 スタイル抜群の美少女静子は、九州最大の繫華街でも一際目を引く美人。

あの当時で身長169cmの長身に加え手足のすらりと伸びたスタイル抜群の美少女。

 当然の如くスカウトされた。


 やがてKエージェンシ―の役員でも有る、忠組長の知る事となるのだが、

 昔の芸能界はごちゃまぜの、裏社会とも表裏一体の、出自も色々でお金持ちのご息女や歌舞伎役者、更には芸者さんや本物のヤクザもいた。


 だが、忠は自分の愛する娘静子だけには{どんな事が有っても、この美貌と才能に見合う相手と愛し合い結婚して幸せになって欲しい}

 そう強く思うのだ。


 今現在では考えられないような。差別も風化され過去の真実を知る人々も少なくなった現在だが、過去には数え切れない悲劇が報告されている。


 差別を受けて酷い虐めや就職差別、更にはあの時代はまだ結婚差別も色濃く残る時代だったのだ。


 愛する相手と結婚出来なくて苦しんだ挙句自殺する男女も多く、また他には諸々の想像を絶する差別が報告されている。


 娘の行く末を思うと不憫で不憫で、{これだけの美貌と才能に恵まれている静子には、きっと想像も出来ないような素晴らしい相手が静子の前に現れるに違いない。それでも調べれば全て水の泡、出自を知られてしまったら、きっとゴミクズのように捨てられるに決まっている。何とか出自を誤魔化してやる事は出来ないものか?}

常日頃から目を光らせていた。


 一見華やかな芸能界だが、落ちぶれ果てた芸能人を嫌と言う程見て来た忠は、{こんな明日をも知れない不安定な芸能界で、もし人気が落ちてしまえば惨め極まりない!}

 そこでKエージェンシ―の社長に、「溝口静子は俺の娘だ!土日だけのモデル活動で尚且つ素性を伏せての芸能活動であれば許可してやろう!万が一ヤクザの娘だと知れたら只じゃ済まないからな!」

 こうして九州のモデル活動を再開した静子。


 そんな時に息子の直樹から思いも寄らない、静子にそっくりな大富豪のお嬢様の存在を知った吉川会組長の忠なのだ。


 だが、吉川会若頭一派に嗅ぎつかれたので早々にKエージェンシ―を退社して、中洲でシズコとして音楽活動を再開していた。


 こうしてやがてメジャーデビューと同時に、白崎緑として生まれ変わる事が出来たのだ。



 それでは鎌倉の【ATホ-ム】社長の剛や中元一家は、小百合が芸能界に入る事に何の躊躇もしなかったのか?


 それは小百合も静子と一緒で、高校3年生で既に171cmの高身長もあり、おまけに容姿端麗だから何度か、芸能事務所からスカウトされていた。


 運が良い事に小百合は幼い頃からピアノを習っていた為、両親も小百合の成り済まし静子から「やっぱり大学生活の傍ら芸能活動もやってみようと思って?」

 と相談されて「まあ~良いんじゃ~ないか~?若い内だから好きなようにしなさい」


 剛にしても貴美子にしても「どうせお嬢さん芸で、長続きする訳が無いだろう?」

 そう思い許可を出したのだ。

 まさか我が子小百合がすり替わっていようとは?





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