第6話 考えるユウシャ

 ――勇者とは何か。勇敢な者。魔王を倒す者。他の人はしないような偉業を成し遂げた者。etc.

 この世界の勇者は2番目に該当するのだろう。魔王を倒すための聖剣を唯一持つことができる存在。そこに勇敢さや正義などは求められておらず、ただ単純に魔王を倒すための道具としての勇者である。

 今は人間たちの敵である魔王を倒すため、その配下である魔人や、それらによって創り出された魔物を討伐している。しかし、魔人や魔物を俺以外の兵士が倒せるのなら、魔王も兵士たちが倒せるのではないか。不毛の大地となった魔王領を人間たちが取り戻し、魔物たちのいない平和な世界を、この世界の人々で作り上げられるのではないか。


「なぁ、勇者ってなんなんだよ。どうして俺が異世界から呼ばれなきゃなんなかったんだよ。」


 ああ、分かっているよ。聖剣だろ。聖剣を持ってたたかってくれる道具なんだろ。


「勇者のアニキにも向こうに家族がいたりするんだよな。最初は剣も下手だったし、向こうでは戦ったこともなかったんだろ。……すまん。これからはアニキに頼らず戦っていくよ。俺らだけで魔王城に乗り込んで、俺らだけで魔王と戦うから。だから、勇者のアニキは魔王に止めを刺すだけでいい。それだけは、情けねぇけど俺たちじゃ出来ないんだ……」


 ああ、そっか。俺は勇気あるものの勇者じゃなくて、ただのユウシャだったんだ。職業としてのユウシャ。固有名詞としてのユウシャ。肩書きとしてのユウシャ。そういえば、俺の名前って何だっけ。いつもユウシャとしか呼ばれてなかったから、忘れてしまったよ。俺の、俺の本当の名前は――。



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