4.

 二人でパジャマから普通の洋服に着替えていると、アカネが話しかけてきました。


「そういえばさ」

「なーに?」

「お父さんとお母さんはどうしたの? 見当たらないけど……」

「……お母さんはいないよ。りこんしたから……」


 少し言い出しにくかったけれど、ホシミは正直にそう答えました。

 そう、ホシミのお母さんは離婚をしたため、この家にいませんでした。今から一年ほど前に様子がおかしくなって、ホシミのお父さんと毎日のように喧嘩をするようになり──その末に別れたのです。


「……ゴメン、イヤなこと聞いちゃったね」

「ううん、いいよ。お母さんね、昔はやさしいお母さんだったのに、いつの間にかヘンなことばっか言うようになってたの」

「ヘンなこと?」

「なんかね、あくまがどうとか、まじゅつがどうとかって……目つきもギラギラしててこわかったし……わたしをムリやりどこかへつれて行こうとしたこともあったし……だからお父さんが『もう親としてのしかくはない!』って言って、この家から追い出したの」

「魔術……。それで、お父さんは?」

「わかんない。きのうお仕事に行ったまま帰ってきてない……」

「……………………」


 そのことを思い出すと、ホシミは少しつらい気持ちになってきました。

 朝起きてから今まではアカネがいたから気も紛れていましたが、やっぱりお父さんがいないと寂しいのです。

 どうして帰ってきていないんでしょう。ホシミの心に不安が湧いてきました。ひょっとすると、このままお父さんは帰ってこないんじゃないか……などという嫌な考えが浮かんできます。

 もし本当にそうなってしまったら、ホシミはこの先どうしていけばいいか分かりません。頼れる親戚も友だちもいない以上、独りで生きていくしかなくなるのです。まだ九歳なのに。


「……警察に電話してみようよ」

「うん……あと、学校も休む」

「どうして?」

「行きたくないもん。お父さんがいないのに、そんな元気ないよ」

「……そっか。じゃあさホシミちゃん、しばらくあたしのそばにいてよ」

「へ?」

「あたしも記憶がなくて不安だからさ……ダメかな?」

「……うん!」


 少し元気になったホシミはまず110番をして、お父さんが帰ってこないことを伝えました。そして学校にも電話をかけて、親戚の子の看病のためお休みします、と担任の先生に言いました。

 ……電話中のホシミには聞こえませんでしたが、アカネはその影で「魔術か……」と独り言ちていました。

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