あなたの思うがままに。

kinoko489

序章 その名はアルテミス

その日、零の部屋に天使が舞い降りた。

「どーもありがとぉ」

 そういってぺこりと頭を下げる少女。

紡ぎたての絹糸を思わせるながれるような白髪と、真っ赤なルビーのような紅眼で絵本の世界から飛び出してきたような儚げな美しさを醸し出していた。

「き、君の名前は?」

 少女は小首をかしげ、

「なまえ?名前。えっとね・・・そう!私の名前はアルテミス!だよ?」

 少し不安げにこちらを見つめる少女ことアルテミス。

 って!何がどうしてこうなった!?

「とりあえずおうちが分からないので今晩泊めてください!」

 そっかー。おうちが分からなくなっちゃったのかー。ならしかたないよねー。

 よし、とまっていいよ!って、なるかぁぁ!!

「いや、ちょっと待ってくれるかな。今まで何が起こったのかを整理するから」

「待てない!とにもかくにも私はおなかペコペコなの!何か食べたいなー、食べたいなー?」

 そう言いながらニヤニヤとした笑いを浮かべ、こちらの顔を覗き込んでくる。

「だぁぁあ!分かった、分かったよ!食べ物だろ?だったら・・・」

 そういって冷蔵庫をあさる零。そして、ひとしきりガサゴソしてから、

「あったぞ!」

 意気揚々と取り出し、さながら聖剣何とかカリバーのように掲げたのは、貧乏学生の強い味方。そう、みんな大好き、

 モヤシであった。

「・・・・・・え?」

 アルテミスがすっとんきょうな声を上げる。

「え?じゃないよ、モヤシさんだよ。安くて栄養満点。もう最高じゃないか!これからは『さん』じゃなくて『さま』を付けようかな~♪」

 勝手に一人で盛り上がる零をジト目で見るアルテミス。

「さんざん盛り上げて期待させておいて、モヤシ?まぁいいけど!食べるからいいけど!」

 そう半ばキレ気味に言うアルテミスを見て、そうかー、モヤシ様の持つ魅力に気づいてくれたのかー。ヨカッタヨカッタ。などと考えているあたり、この男はダメなのであった。

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