参(3)



 ――……

 遠くで、話し声が聞こえる。

 途切れ途切れになって、聞こえてくる、声。

 幾人かの男の人の声。

 わたしは、しばらくの間、目を開けずに、その声に耳を傾けた。

「王子。我らが闇の王、闇をべる者の子よ。

 見付けましたぞ、我らが姫を」

「おお」

 何処どこからか感嘆の声が響く。

「して、何処いずこに」

「それが……」

 何か、言いにくそうな口調。

「人間界にでした。光と影とが未だ共存し続ける、あの、愚かな文明の世界です」

「そうか」

 溜息ためいきにも似た、その声。

「では、御前に参らせましょう」

 その声と共に、幾人かの足音が、わたしの方、わたしの居る方に、向かってくる。

 わたしは、その恐ろしさのあまり、開きかかていた目を、固く閉じた。

 その時、その足音を追うようにして、わたしの方へ歩み寄ってくる、もう一つのせっかちな足音が聞こえた。この足音は、わたしのすぐ近くまで来たかと思うと、急に止まった。

 それから――

「まるで……」

 それは、つぶやいた。


「エディミア様に生き写しだ」


 周囲の者達が、はっと息をのんだのが、気配で分かる。

 だけど、わたしには分からない。

 ここが、何処どこなのか。

 この雰囲気からして、わたしがさっきまでいた道ではないと思う。何処か、別の……

 もちろん、それは、目を開ければ分かることなのだろうが。今は開けたくても開けられない状態だ。

 それに、エディミア様―――


 エディミアって、誰? どういう人?

 その名前を口にした人は? どんな人?

 それから、今、周囲にいる人達は?

 皆、誰?

 どういう人なの?

 わたしは、知らない。

 わたしには、分からない。


 分からないことだらけだ。

 そんな疑問でわたしの頭がいっぱいに埋め尽くされた時、さっきの人―― エディミアという名前を口にした人は言った。

 わたしに。

 このわたしに向かって。


「我らが闇のちから

 闇より生まれしその姫よ、

 イマ、我らに力を与えたまえ。

 ゆえに、

 闇の源を解き放ち、

 ながきの眠りより目覚め給え」


 闇、源、姫、眠り……


 その一つ一つの単語が頭の中で繰り返される。

 幾度も、

 幾度も。

 わたしの頭の中をめぐって。

 次第に、わたしの頭の中をそれで埋めていって。

 数々の疑問は、いつの間にか消されていって。

 まだ、答えが見付かっていないのに、消されていって。

 代わりに何かがよみがえる。

 今までずっと秘められていたもの。

 わたしの中で眠っていたもの。


 えっ?!

 眠り……


 あっ!

 それに気づいた時にはもう遅く、わたしは気怠けだるい感覚を後に、

自分の意識までもが消去されていくのが、


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