参


 わたしの身体がビクンと動いた。

 ハッ

 目が覚める。

 今のは、夢?

 現実うつつの世界に戻りながらも、未だわたしは夢を彷徨さまよっている、そんな気がした。

「ユリ、ユリ、思い出すのだ。

 お前が感じたこと、思ったこと、お前の身の周りで起きた全てのことを。思い出すのだ、ユリ」

 誘いかけてくるような、それでいて、多くの恐怖心を覚える声。

 男の人の、低い声。

 夢から覚める、その前に、わたしは遠くでその声を聞いた。


 わたし、影真裏ようまうち 悠麗ゆり

「ようまうち」なんて、ちょっと変わった名字でしょう。

 でも、私は、これが好き。

「ようまうち」って、響きがいいから。

 影と裏。まるで闇のような、そんな暗いイメージも。最近のわたしは、ようやく好きになってきた。

 そして、あこがれの十四歳。

 今日はわたしの誕生日。

 夢見る十四歳、になったその日。

 わたしの一日は、この悪夢から始まった。


 窓の外には、恐ろしいばかりの静寂と、一面に広がる闇。光の欠片が一つもない闇。まるで、闇の世界の一部であるかのように。

 星は輝きを失い、その姿すら見えない。目のさとい者ならば見えるのかもしれない。しかし、そのようなものが何処どこにいるのだろうか。

 の姿も見えない現在。

 紫に染まった雲が一面を覆う。

 地平線からこぼれる光が、周囲の闇を退けていく。闇色の霧が晴れていく。

 その隙間から……

 あれ?

 影が見える。

 藍色の、宙に浮く、男の人の影。

 その影が、闇に向かって何か語りかける。

 聞こえないはずなのに、わたしには、分かる。

 何故なぜだか、聞こえる。

 さっきと同じ、あの声で。

 それから、その声に応じて、三人の影が闇より現れる。感嘆の声と共に。同じ、藍色の影。

 それらの影は、数分の後、再び闇へと姿を消した。

 東方から陽が昇り始める。

 今日という日が、現在いま、始まったように思えた。



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