斎藤照奈は情報通

 ダイエーへ向かい、桑藤さんが俺についてくる。


 不思議な感覚だ。


 ちゃんとについて来てるか不安になる距離感で。


 チョイチョイ後ろを振り返る俺と、振り返る度に視線を下ろす桑藤さん。


 何コレ?


 何なのコレ?


 実は嫌われてんのかなーワタクシ。


 でもそれだったらついてこないよなー。


 その前にさ・・・俺、どこ行けばいいんすか?


 と考えていたら、ダイエーに到着してしまった。


 すると不意に、


 「ピピピピーピーピピピ・ピピピピーピーピピピ」


 おっおっ、この音は斎藤さんから借りてるポケベルの音だ。


 ナニナニ?


斎藤のポケベル「コユトイル!クル?テルナ」


 はああああああああ?


 いや、今、はああああああああああああああ???


 でもどーせ彼氏も一緒なんだろ?


 ・・・でも会いたいなぁ。


桑藤「・・・」


 何だよこの状況よー。


 桑藤さんの顔色伺う事もできねぇしよー、伺った所で何なんだよ・・・。


 「ピピピピーピーピピピ」


 とめどなく来るプレッシャー。


斎藤のポケベル「ユウキクンハイナイヨ」


 くっ・・・斉藤祐樹、こゆちゃんの彼氏の事だ。


 セミナー終わりの時はコイツとこゆちゃんの話で盛り上がっていたが、抜け駆けしてこゆちゃんにアタックしやがった。


 読者は斎藤さんと斉藤君でややこしいが、勘弁してケロ。


 恐らく斎藤さんは斉藤から事情を聴いているんだと思う。


 だからこゆちゃんを名指して誘ってきたわけだ。


 しかし今は不本意ながらデート中でして・・・。


桑藤「どうしたの?」


 露骨に困った顔をしていたのか、桑藤さんから心配をされてしまった。


海人「ごめん、ちょっとベルの返事打ってきていい?」


 ダイエーの2階フードコート近くにまで来ていた俺と桑藤さんは次に公衆電話のある場所へ移動する。


桑藤「用事できちゃった?」


 ん、そういう気づかいは男子のハートに刺さりますよ桑藤さん。


海人「気にしないで、俺そんな忙しい人じゃないから」


 当たり前だろ学生風情が何言ってんだっつーの。


 取り敢えず返事を変えそう。


 


 突然ここで!


 ナゼナニ☆ポケベル講座


 海人さんのセリフに「ベルの返事を打つ」とあるが、ベルとはもちろんポケットベルの超省略名で、打つとはプッシュ回線用電話のボタン入力でポケベルへのメッセージを送っていたことからそう言われていた。


 モールス信号の様に何かを押し、入力し、相手へ情報を送信すると言った感覚からこう言われていたのかと推測できる。


 ポケベル自体には送信機能が無いため、返信をしたければ必ず電話まで向かう必要があったのだ。


 つまりポケベル自体は受信機でしかなく、現代の交信機器とはかけ離れたコミュニケーションツールだった。


 しかし当時は街中で5分も歩けば必ず公衆電話があった為、この形態を不便に思う者は少なかった。


 少し過去のツールとは言えその可能性は膨大で、メッセージの保護機能なども付いており、これにより女性達は好きな男性からのメッセージを保護し、夜な夜な見返しニヤニヤしていたとかいないとか・・・。


 いつの時代もメールやメッセージと言うものは、人の心と深い関係にあるモノである。


 海人さんが借りていたポケベルはDoCoMoのセンティーAとセンティーDと言うものでした。


 斎藤さんが貸してくれていたポケベルはセンティーAで、当時もっともスタンダード且つこじんまりとしてスマートなポケベルだったと思う。


 石井さんが持っていたポケベルが何とも大人っぽいポケベルで、よく「見せて見せて」と言っていた気がする。


 当然「中身見られたらやだからダメ」と言われるのだが、俺は中身が見たいのではなく、石井さんのポケベルだから触りたかっただけである。


 以上、ナゼナニ☆ポケベル講座でした。





 公衆電話の前に立つ俺。


 返事のメッセージが何文字か、その文字列は何番か。


 現代の人は何をやっているのか解らないと思うが、10円でメッセージを入力し終えなければならないと言うのは結構なスピードを要求されるのだ。


 ア行は11から15まで、カ行は21から25まで、サ行は31から35まで、タ行は41から45まで・・・。


 と、エニグマコードとかの暗号文でも組むかのように番号の組み合わせがあり、この数列を10円分の通話時間内で入力し終えなければならない。


 ま、当時の俺はエニグマっつったら音楽にしか結びつかなかったが。


 送ったメッセージとは、


 「ドコニイル?」


 たった6文字。


 そして恐らくこの返事はすぐに来ると思われるので、この場所から遠出できない。


海人「ほい、終わったー」


桑藤「うん」


 俺はこれからどうすればいいのか。


 返事が来るまでの間、沈黙を続けるのか?


 そもそも、ベルの返事が来たからってどうするのだ?


 行くつもりなのか??


 桑藤さんはどうするんですか?


 桑藤さんって、下の名前なんだっけ?


海人「桑藤さんクレープ好き?」


 今いるダイエー2階はフードコートが2か所あり、入り口に一番近いフードコートには有名なクレープ屋さんが2店舗ある。


 そのうち、エスカレーター下の公衆電話前にあるクレープ屋さんは「uni」と言うクレープ屋さんで、良くここのツナサラダクレープを買って食べる。


 ここはドリンクも安いので、間を埋める為に何かごちそうでもしようかと企んだのだ。


桑藤「クレープあんまり食べない」


 わーお、こんなに美味いモノをあまり食べない人種がこの世に存在したのか!


 世界最強の食いモンですよ? 知ってますか??


 とは言わなかったが、心底そう思います。


海人「俺なんか買うからさ、ジュースでも飲みなよ。 俺おごるから」


 先程10円玉を出したばかりである財布は俺の手にまだ握られている。


 その財布でuniを指し、注文を促す。


桑藤「え! いいよぉ、悪いもん」


 うん、大体そんなこと言うだろうなと思ってた。


 俺でもそう言う、多分ね。


海人「良いの良いの、俺バイトの許可もらってるし、今給料日後だから」


 俺が通っている学校はアルバイトに許可が必要で、面接に受かった後すぐに申請書を出さないとそれだけで停学処分を受ける。


 生活態度が悪い学生と成績の低い生徒は、どんなに好条件でどんなことしても怒られないような仕事に受かっても、許可が下りない事があるのだ。


 つまり単純に、俺の学校内でアルバイトができている生徒は優良学生の証でもある。


桑藤「え! 三波くんバイトしてるの!? 何のお仕事してるの!?」


 おぅふ、すごい食い付き。


 嬉し恥ずかしと言うか、なんか圧倒されてしまった。


 そうか、俺が桑藤さんの事を知らないように、彼女も俺の事を全く知らないはずだ。


 俺が彼女像を勝手に作っているのと同時に、彼女も勝手に「三波くん像」を作り上げている訳だ。


 その三波くん像は、バイトをしていなかったという訳だな。


 ふむふむ、面白いぞコレは。

 

海人「お、おぉ、友達の紹介で、地元のお肉屋さん。 包丁の使い方覚えられるからすごくいいよ。 研ぎもやらされるから練習になるの」


 エア包丁研ぎをやって見せながら話す。


 うちの学校は全員刃物の使い方を習っている訳なので特に自慢にもならない話だが、桑藤さんはちゃんと目を見て話を聞いてくれた。


海人「主には、惣菜の担当なんだよ。 夏になったら焼き鳥もやるって言ってたから多分外でやらされるんだと思う」


 おっと、少し自分の事を話しすぎか?


桑藤「へぇー・・・良いなー」


 ん、桑藤さんなら許可は出ると思うんだが。


 待てよ? もしかしてできない理由があったりする?


 あ、桑藤さんもしかして・・・いいトコのお嬢さんだったりするのか?


 ある、あるよその可能性!


 てかなんか、もうそういう風にしか見えなくなってきた!!


 と言う気持ちは抑えて、聞き返してみる。


海人「桑藤さんはバイトしてないの?」


 いや、良いなーってセリフが出るって事は多分やってないんでしょうよ。


 いやいや、その仕事良いなーって言う意味かもしれないし。


桑藤「うん、やってない」


 うん解ってた、なんかスンマセン。


海人「なんか桑藤さん、クレープ屋さんとか似合いそうな気するけど」


 テキトーな話だが、もう一度財布でuniを指してみる。


桑藤「全然食べないのに?」


 ここでようやく桑藤さんが笑ってくれた。


 なんか俺もホッとするよ、ありがとう桑藤さん。


 そして白い塗装がされたuni専用のテーブル席へ荷物を置き、椅子へ腰掛ける二人。


海人「商品の好き嫌いでバイト選ばなくない? 俺なんて生肉触んの超イヤなのにやってんだぜ? 排水溝に詰まったゴミの掃除とかよー」


 俺も自然と笑顔になる。


 何か盛り上がってきた自分に恥ずかしくなり、財布で顔を仰いでみる。


桑藤「えー、好き嫌いで選んでもいいじゃん」


 まぁ、人に言われればそうかもと思ってしまう自分がいる。


 確かに悪くはないわな。


桑藤「私が働くなら、自分の好きな・・・」


 「ピピピピーピーピピピ」


 ええええええええ!


 オイ! 間が悪いぞ斎藤さん!!


 桑藤さんの言葉をさえぎってしまった・・・


海人「あ、ごめん」


 それでもベルの内容を確認せざるを得ないワタクシがそこにいた。


斎藤のポケベル「イマダイエーテルナ」


 え。


 えぇ?


 あれ? さっき俺、何て打ったんだっけ?


 さっき送った内容を思い出してみる。


さっき送った内容「ドコニイル?」


 で、返信が?


斎藤のポケベル「イマダイエー」


 コレ・・・今、ヤバくない??????????


 状況を整理する。


 海人君が大ちゅきならびゅらびゅこゆちゃんが斎藤さんと一緒にダイエーにいるけどその海人君は下の名前も知らない桑藤さんとクレープデート(まだ食ってないケド)をダイエーでしてて出くわしたら何かよくわかんなくなっちゃうから今すぐどうするか考えて実行しないと多分ヤヴァイ。


 と言った所か。


 ふふ、俺って頭の回転速いんじゃね?


 どうしよう(泣)


 桑藤さんにはこの状況、口が裂けても言えんし、計画終わっちゃうし多分!


 でも移動しないとこゆちゃんに見られたら俺が終わっちゃうし多分!!


 と、取り敢えず返事が先か?


海人「ゴメン桑藤さん、また打ってくる」


 冷静を装い、公衆電話を親指でさす。


桑藤「うん」


 座ったばかりの椅子から立ち上がる。


 まて、待ってくれ、色々待ってくれ頼む誰か!!


 取り敢えず斎藤さん、貴方は絶対にこのフードコートには来ないでくれ頼みますお願いしますどんとむーぶ!!


 これは・・・なんて返信するか?


 どうすればこの状況を解決できるか??


 あ、そうか取り敢えずこれで。


 「イマヒトトアッテルカラムリ」


 13文字、結構入れたなオイ。

 

 これを10円で送れるようになったとは、俺も鍛錬ができてるな、うんうん。


 って、それどころじゃないな。


 てかそもそも無理なら何で斎藤さんにどこにいるか聞いたんだよ俺は!


 バカなの?


 ねぇ、バカなの??


 まてまて、そう、俺、重要な事に気が付いた。


 「三波海人はこゆちゃんが好き」って言うの、桑藤さんに知られちゃマズくね?


 ・・・。


 ちょ、冷や汗が止まらなくなってきましたワタクシ。


 いや、結構な修羅場だと思うんですよ。


 計画が・・・。


 終 わ ら せ て た ま る か !


 取り敢えず桑藤さんの所に戻る事にする。


海人「おいっすー、ゴメんよー」


 取り敢えずむこう(斎藤さん)からの攻めは食い止めた。


 だが事故はまだ避けられない、どうしたものか。


桑藤「なんか、海人君忙しそう・・・あ」


 忙しい人はダイエーでクレープ食べる余裕はないと思うんですけど。


 ・・・あ?


 あって何?


海人「・・・ん?」


 あ、が気になる。


 手で口を押えての「あ」は、その「あ」はマズい・・・マズくない?


 誰か、知っている人物を見付けたのか!?


 鼓動が高鳴る。


 そして思わず後ろを振り返る。


 が、危険人物はいなかった。


 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、振り返った時にこゆちゃんが目に入ったら嬉しかったです。


 が、その時はゲームオーバーでしたけどね。


海人「何? 誰かいた?」


 誰かいたら何なんだよと俺なら突っ込んでしまうが。


桑藤「んーん、何でもない」


 ・・・。

 

 よく解らん、何かを思い出したのだろう。


 ったくよ、これからの作戦に君が必要だから口には出さんが、余計な心配させんでくれよお。


 今のは肝が冷えた、マジの一人修羅場だった。


 冷静でいよう。


 そうだ、もうどうせ出くわしたらそれまでだし、取り敢えずクレープ食うか。


 今日はピザクレープを食おう。


海人「そうだ注文忘れてたわー、買いに行くけど、桑藤さん何飲む?」


 一瞬席に下ろした腰をまた浮かせ、オーダーに向かう準備。


桑藤「あ、えっと、じゃあ、えっと、メロンソーダがいい」


 まあ! 何とセンスの良いチョイスかしら!!


 クレープにはメロンソーダ!


 基本だよね!!(??)


海人「おっほ! いいねえ、俺もいつもソレなんだわ」


 この状況で裏テンションに入り、些細な事で変な笑いが出てしまう。


 すぐに注文を済まし、ドリンクを先に受け取り、席に戻る。


 両手には透明な容器に注がれたメロンソーダ。


 何とも学生らしい光景ではないか。


 なんて、当時は考えもしなかった。


海人「ほいよー、どうぞー」


 桑藤さんの眼の前へメロソーを置き、蓋の上へストローを添える。


 そして、対面の椅子に戻る。


桑藤「えーっ、ありがとう」


 両手でメロソーの容器を掴む桑藤さん。


 女の子って、こんなにかわいい仕草をするのか。


 姉貴もしてるのか? 俺が見てないだけなのか??


海人「たまには俺もかっこつけたいからさー。 てか、クレープいらなかったの? 買って来るよ?」


 もし欲しかったとしても、俺が桑藤さんに聞いたのは「何飲む?」であり「何食べる?」と聞かない限りクレープの銘柄は言わないはず。


 しかもあまり食べないと言っている子が、クレープの種類を知っているとも考えにくい。


 若さって言う物は、ホント、気が利かないものである。


桑藤「うん、大丈夫。 何食べていいか解らないし、お腹も空いてないよ」


 お腹空いてないのは仕方ないとして、何食べたらいいか解らないは無いわぁ!


 全部食いな?


 全部美味いから!


 クレープって世界最強の食いモンなんですよ?


 俺は信じて疑わない。


 「ピピピピーピーピピピ」


 お、返信か・・・嫌な予感しかしないが見るしかない。


斎藤のポケベル「ゲーセンニイル!テルナ」


 お・・・おぉ!


 ゲームセンターは4階のハズ!!


 チ ャ ン ス 来 た コ レ !


 もう大丈夫だ、グッジョブ斎藤さん!


 知らぬとは言え、流石過ぎる!!


 さっさと食って、帰んべ。


 見 ら れ る 前 に 帰 ん べ !


海人「俺クレープ大好きでさー、それで調理師目指してんだけどさー」


 唐突に自分のことを話し出す。


 話題がないとつい自分の事しか話せないのは、この頃の海人さんの悪い癖である。


桑藤さん「お店出したいの?」


 桑藤さんがメロソーをちゅーちゅーしてる。


 あらかわいい。


 女性は自分の思っている人物像と違った行動をとる事が多いというのをここで知る。


 そうだ、こないだ石井さんが言ってた「女子のイメージを間違わない方がいいよ」という事の意味は、これにも精通しているのか?


 逆もしかりという事か?


 つまり、かわいらしいおにゃのこでも、とんでもない内面を秘めているという事か・・・。


 まぁ、今はどうでもいいけど。


海人「お店ねー、できたらねー。 でも働けるだけでもいいんだ。 原宿にあるクレープ屋さんで」


 と、冒頭の話をし始める。


 恐らく当時、原宿のクレープ屋さんで働いている従業員に調理師免許を持っている人などいないと思うが、当時はそう考えていた。


 中学校の卒業文集でも、将来お店をやるからみんな来てくれと書いていたくらいだ。


桑藤「でも確か、三波くんってバンドやってたよね?」


 やってたと言うかハイ、現在進行形ですが・・・


海人「・・・え?」


 なん・・・で・・・知ってる?


 ちょっとストップだ桑藤さん。


 俺は音楽をやっている事を一部の人にしか話していない。


 桑藤さんが知るはず無い。


 だって言ってないもん。


桑藤「そう言うののプロになりたいのかとか思ってた」


 思ってたって、だから何で知っているのさ・・・。


 それ以前に、俺が調理師学校にいる意味よ!


海人「うーん、それもいいんだけど、待って何で知ってんの?」


 俺は少し恐怖を感じた。


 この一瞬で展開がシリアスになる。

 

 自分の情報を身近でない人が握っている・・・。


 桑藤さんをストーキングした俺が言うのもなんだが、コレは怖い・・・。


桑藤「え? 照奈ちゃんが言ってたよ?」


 ずこーーーーーーーーーーーーーーーー


 お、お前か・・・。


 話した、確かに話しましたよ斎藤さんには。


 納得しました、貴方斎藤さんとお話しする子なのね?


 今あなたが言ったその子に、ちょっと前までプレッシャーかけられてました僕!


 と叫びたかった。


uniの店主「〇〇番のお客様ー」


 とここで吾輩のピザクレープが完成したようだ。


 すぐ取りに行き、席へ戻る前に一口かじる。


 oh・・・神様は何という食材をこの世に生み出したのか。(クレープを考え出したのは人間です)


 モグモグしながら席に戻る。


桑藤「わあ、ピザの匂いする」


 お? 興味ありますか?


 たーんとお嗅ぎ?


 そしてクレープの虜におなりなさいな!


海人「そこまで匂い届くか。 一口食べてみなよ、ほい」


 すでに口を付けたクレープをはいどーもーと言って口にする異性は少ないと思うのだが、俺はこういう人間なので手を前に出した後、それを後悔するのだ。


 善意が「いーよいーよ」と拒絶され自分を傷つける事もあるのに。


桑藤「えー、じゃあ一口もらうー」


 抵抗無しだった。


 しかもすでに俺がかじった所を半分咥え込んでハムハムしてる・・・。


 んー、こういう子もいるのか。


 そうだな、てか、そこかじんないとピザソースに届かないし、普通か?


桑藤「すごーい! ホントにピザだ!」


 うぉ、桑藤さんきゃぴきゃぴしてる。


 コレは女の子のアレだ。


 桑藤さんは普通の女の子だった。


海人「桑藤さんマジでクレープ食べないのか。 ピザクレープってかなり有名だと思うんだけど」


 桑藤さんは口の横にピザソースが付いていないか指で確認しながら返事をする。


桑藤「こんなごはんみたいなクレープあるって知らなかったよー。 えー面白い」


 ご飯みたいなクレープ?


 あ、米の事ではなくメシの事を言っているのか。


海人「このさ、クレープがメチャ食いたくて、ダイエーに来たかったんだよねー」


 まぁ、後付けだけどね。


 これで早々に帰る為の口実も完璧だし、後は食い終わるまでの時間を潰せばゲームセットだ。


 ふー、やれやれ、斎藤さんと桑藤さんめ、てこずらせやがって・・・。


 誰も俺に工作などを仕掛けている訳では無いが、その時は正直そう感じた。


 この後、桑藤さんといくつかの話題で語ったが、そのほとんどに関して彼女は「良く知らない、解らない」と言う返答だった。


 特別な技能や知識を出す訳でも無く、とりわけ俺の守備範囲である趣味や音楽には興味すらない。


 一体貴方は何者なのだ桑藤さん。


 でも、それでも構わない。


 俺の研究には徹底的に付き合ってもらうよ?


 今日は良い助走になった。


 クレープを食べ終え、桑藤さんと駅に向かう。


 いつもと違うのは、それぞれのホームに向かう階段手前まで一緒にいた事と、


海人「ほいだら、また明日」


桑藤「うん、また」


 と、言葉を交わしてばいばいした事だ。


 俺は下り電車、桑藤さんは反対のホーム上り電車。


 そして俺が階段を上ると、桑藤さんが乗る上りの電車が到着しているではないか。


 窓越しに桑藤さんが階段を駆け上がってきて電車に乗り込むのが見えた。


 そしてちょうど目が合い、もう一度手でばいばいする。


 彼女が恋人なら、毎日こういう感じか。


 ・・・特に感動はないな。


 これが石井さんだったらどうだろう?


 ・・・別に変らないか。


 まぁ今回の目的は桑藤さんを口説き落とすとかではない。


 申し訳ないが、彼女の体が目的である。


 あぁ・・・石井さん・・・ゴメンナサイ。(桑藤さんに謝れ)


 「ピピピピーピーピピピ」


 お、斎藤さん忘れてた。


斎藤のポケベル「リヨチャントアソンデタノ?」


 なん・・・ですか?


 ・・・ちゃんと遊んでたの?


 いや、クレープ食ってただけだけど。


 ちゃんと遊んでたのって何んすか、余計なお世話なんですけど。


 りよ・・・ってなんだ?


 あ、りよちゃん?


 もしかして、桑藤さんって、りよちゃんって言うのか。


 そりゃ思い出せないわ、だって今知ったもん。


 ・・・てか、


 ・・・なんで、


 ・・・斎藤さん知ってんのよ?


 見 ら れ て た の か ?


斎藤への返信「ダレニモイワナイデ」

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