第8話 石階段での恋の気づきと切なすぎる涙


私たちは神社の境内へとつづく長い石階段を、急ぎぎみに登った。

思ったより急で大変…。


私は浴衣の裾が足にまとわりつき、階段をふみ外しかけた。


「きゃっ!」


その瞬間…

またもや黒崎くんの大きな手で支えられた。


「ごめん…。」


「まったく…しょうがねぇな…。」


といったかと思えば黒崎くんは私の手をつなぎ、優しくひっぱる形で登ってくれる。


「ちょ、ちょっと…黒崎くん!私…大丈夫だから…。」


「大丈夫なやつが2回もこけそうになるかよ!少し黙ってろ。」


大きな手…その手から黒崎くんの体温が伝わってくる…あたたかい…。


その手をたどってゆっくりみあげるとシャープでキリっとした黒崎くんの横顔が目に入る。

いつもは無表情で怖い人って思ってたけど…今はなんだか安心できる人…。


黒崎くんってこんなことする人だったっけ?


とか考えてたら急に黒崎くんがこっちを振り向いた。

私はとっさに目をそらしてしまう…。


「なんだよ…。」


「ううん、なんでもない…。」


ちょっとびっくりした…。

なんで目をそらしちゃったの?私…。


今…胸が…心臓が……。

これじゃ…まるで…恋…?



その時、遠くからドンドンと連続する花火のフィナーレの音が聞こえる。


「ちょっと急ぐぞ。」


私の手をにぎる黒崎くんの大きな手にさらにぎゅっと力がこめられる。


私たちはやっと神社の境内に着いた。

そこには外灯がポツポツとあるだけ…人の気配はなく私たちだけのようだった。


私は急いで見晴らしの良い場所へ向かい遠くを見渡した。

そこにはもう…花火の光はどこにも見あたらなかった。


もう花火は終わってしまったようだった…。


黒崎くんが遅れてわたしの隣に…。


「終わっちゃった…。」


「ああ…。」


私はしばらく呆然としていた。

花火が特別見たかったんじゃない…。


ただ…当たり前かのように、言い伝えどおりに花火がみれるものだと勝手に思い込んでいた自分が嫌だっだ…情けなかった…悲しかった…。


花火をみたらちょっとでも気持ちが癒されるかなぁ…って思ってた自分がいた…。


母さん…おじさん…。


好きな人とここで花火が見れるなんて…それはきっと…奇跡に近いことなんだよ…。


私は好きな人どころか…告白もできずに失恋…。

気持ちのリセットもできずに…今年最後の花火すら…みることもできなかった…。


最悪…。


なんか…神様に見放された気分…。

こんなこともあるんだなぁ…。


そんなことを考えているとほほを伝う生あたたかいものが…。


「白瀬…お前…。」と黒崎くんがおどろいている様子で私をみる。


一瞬、黒崎くんをみて…はっと我に返る私…涙…?。

すぐに指で涙をぬぐった。


「やだ…私…なんで涙なんか…どうしちゃったんだろう…。」


自然に流れでた涙に自分が1番おどろいていた。


それを見ていた黒崎くんが私の手首をつかみどこかへひっぱっていく。


「えっ、ちょっと…黒崎くん…どこいくの?」


そこは神社の前の階段。

黒崎くんがさっきおじさんからもらった袋に入った何かを取り出し、袋を階段に敷いた。


「ちょっとここ…座って。」


「なに?」


「いいから!」


さっきとはちがう黒崎くんの真剣なまなざしに私は不安はあったけどゆっくり腰かけた。


そのすぐ隣に黒崎くんも座った。

そしてなにやら準備をしている様子。


小さい袋から何かを取り出し私に手渡してくれた。

よくみるとそれは線香花火だった。


「線香花火?おじさんが黒崎くんにくれたやつ?」


「ああ、でも俺にじゃねぇ…俺たち2人にだ…。やるか?」


「うん!」


そう答えた私の心はなぜか穏やかになっていた。

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