第5話 苦手な彼と2人で


「ゆうちゃん、なっちゃん、これ見て!じゃーん!」


といって夜店であれこれ買って食べているものを見せてくれた。


みゆちゃんは右手にりんご飴をもって嬉しそうに言ってくる!


その後ろから京也くんも買った焼きそばの入った袋を腕にかけ、いちごシロップがけのかき氷をもって美味しそうにほおばっている。


私となっちゃんは顔を見合わせ思わず笑ってしまった!


「なによー?」


みゆちゃんが不思議そうに私たちを見ている。


なっちゃんがすかさず言う。


「だって、2人でそんなに食べ物ばっかり買ってー!ラブラブなのに色気も何もないじゃん!」


と2人を見ながらまた笑う!


「はい!ベビーカステラもどうぞ!」


というと少し複雑な表情のみゆちゃんと京也くんだったけど、ちゃっかりベビーカステラをもらい口にほおばっていた。


私はそんな2人がさらにほほえましく見え…うらやましかった…。



「なんか喉かわかねぇ?花火もみるし俺、飲み物買ってくるわ。みんななんでもいいな?」と京也くんが食べ物をたくさんもったまま行こうとする。


そんなんでどうやってみんなの分持つのよー。


「あっ、私いくよ!そんなに持ってて…もう持てないでしょ?ベビーカステラの店の横に飲み物の店あったし…。人も多くなったきたし大勢で行ってもね…。それに私…手…大きいから…ほら!!」


といって両手を見せる。

確かに背が高いせいか…手も大きいけど…なにもまたこんなことを自分から言わなくてもいいのに…。


その時なっちゃんが思いついたように…


「じゃあ、赤井くんついてってあげて!女の子だけじゃ持てないでしょ?」と言った瞬間…


「俺がいく。」と黒崎くんが無表情でいった…。


「えっ!!」と思わず私は声をだしてしまった。


みんなも黒崎くんをみて驚きの表情を隠せない!


「手なら俺の方がでかいし…たくさん持てるだろ?」


そう言われて…私は何も返せる言葉がなかった。

もちろんみんなも…。


なっちゃんが私をみて…ごめんと言わんばかりに小さく手を胸の前で合わせる。


「行くぞ。」と黒崎くんがそっけなく言う。


「あ…うん。」


私は目も合わさずにさっさと先を歩いていく黒崎くんに、とりあえずついていくしかなかった…。

よりにもよって1番苦手な黒崎くんと…。


私たちが歩いている方向からは花火大会がある河原に向かって、歩いてくるたくさんの人達ばかりだった。


私はどんどん先を行く黒崎くんに、はぐれないよう必死でついていったが、履きなれていない下駄で鼻緒のあたる部分が少し痛んだ…。


人の流れに逆らうように歩いていた私は、しゃべりながらはしゃいでいた男子数人のグループの1人に押される形でぶつかりバランスを崩した。


「きゃっ!!」


後ろに倒れる…と覚悟し目をとじた。


その時…私の右手首がぐっとつかまれひきよせられた。


誰かの大きな胸に顔うずめる私…。

顔をあげるとそこには黒崎くんが…。


「大丈夫か?」


私は少しぼーとしていた。

大きい体…広い胸板…。


「白瀬?」


はっ!私…何考えて…。


「あっ、ご、ごめん…ありがとう…。」


焦る私は体勢を整え歩こうとしたとたん…黒崎くんに手をつながれた!


「えっ、えっ!」


という私をよそに黒崎くんは手をつなぎ引っぱっていく。


「またさっきみたいなことがあったらやっかいだからな…。」


と少し照れた表情をしながら…今度は私の歩幅に合わせながらゆっくり歩いてくれる。


そんな彼を見ながら…私は意外な頼もしさと優しさをみせた黒崎くんになぜか…安心感をおぼえていた…。



飲み物の店につくともう種類は少なくなっていた。


「ミネラルウォーターでいいよな?」


「う、うん。」


黒崎くんが6本購入する。


「あっ、お金…」といってバックから財布を出そうとした…。


「いらねえよ…明日、男子に徴収しとくから。」といってくれ、私はその言葉にお礼をいった。


黒崎くんは両手に2本ずつ、私は1本ずつに分けてくれた。


ふと向かいをみると、人がまばらになった射的の店がまだやっていた。

そしてそこにはまだ…あの白いビーチサンダルがあった。


「帰るぞ。」


「・・・」


「おい!」


「あっ!ごめん…黒崎くん…これ…ちょっと持っててもらっていい?ほんとごめん…。」


私は手にもってたペットボトル2本を黒崎くんに強引に渡し、射的の店の前に行った。


「なんだ、ねえちゃんやるのか?」


と店の威勢のいいおじさんが私に声をかけてくれた!


「うん!おじさん、それ…その白いサンダルってどれに当てたらいいの?」


「サンダル?おお、これか!これは8番の人形だ!」


それはかなり小さな人形だった。

1回100円で当たる気がしなく、私は500円で6回を選んで狙いを定める。


1回目…2回目…3回目…4回目、全部外れた…。


ふと後ろをみると黒崎くんが遠目から私の様子をじっとみている。

私はどう思われようと気にならなく的に集中した。


もしこの白いサンダルがとれたら…履きかえよう!


私はちょっとでも低くなった私を見てもらって、赤井くんにつりあえる女の子になりたい…。

1度でいいからかわいいねって言ってもらいたい…。


私の心の中はもう…そのことでいっぱいだった。


5回目…最後6回目…すべてだめだった…。

はぁ…そんなにうまくいくはずないか…。


「残念だったな!ねえちゃん、はいよ!残念賞!」


といって小袋のスナック菓子をくれた。


私は黒崎くんの前に行き「ごめん。」と一言…。

彼は何も言わず…何も聞かず…歩き出そうとした。


「私も持つよ…。」といい手を差し出す。


彼はいいといったけど、私は心を見透かされているようで気まずいのか…はたまた同情されるのが嫌だったのか…無理やりにペットボトルを2本うばった…。


そのときの私には…そんな黒崎くんの優しさに気づく余裕すらなかったんだ…。

私の…ばか…。


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