第20話 : 首都防衛戦〜決着【中】〜
———— 「ほお!お前は覚えとるぞぉ!!確か、名はガルシアとか言ったかのぉ?」
「あら!覚えててくれたなんて、嬉しいな!ティグリス隊長は、ずいぶん老けたねぇ~」
ティグリス、メンフィス、ハトホルの前に現れるガルシアと魔族。
ガルシアは、ストレッチし終えると斜に構える。それは、ボクシングのような構えだった。
勿論、この世界にはないものではあるが、それが戦闘態勢である事をメンフィス、ハトホルは理解した。
「この
ティグリスは、大斧を前に構えてガルシアを見つめる。
動き出したのは、ガルシアからであった。
左右に動きながらに間合いを詰めてくる短髪の女性。体は、筋肉質である事は一目瞭然であった。
一瞬にして、パンッという音とともにティグリスの懐へと入るガルシア。
ティグリスもこれに反応して大斧を振るう。
だが、後方に吹き飛んだのは、ティグリスであった。
ティグリスは、そのまま体勢を崩す事なく、前を確認するも、ガルシアとの間合いは、ティグリスの大斧でも届かない距離である。
ガルシアは、再び左右に動きながらティグリスとの距離を詰めて行く。
今度は、ティグリスから間合いを詰めていき、大斧を振り下ろす。
だが、ガルシアは、再びカウンターをティグリスの甲冑に喰らわすとティグリスの攻撃を躱しながら間合いを取る。
「小賢しいわぁ!」
ティグリスは、そう叫ぶが、ガルシアの顔は全く微動だにしない。先程の快活さは、表情になく、集中している様子である。
「
ティグリスは、スキルを使い地面へと大斧を振り下ろす。
すると、大斧が刺さった箇所から地面にヒビが入り、地中から爆発した。
地面が爆発した際の岩などがガルシアに向けて飛んでいく。
だが、これを綺麗に躱していく異世界人の女性。
だが、回避行動で少しズレた体勢を確認するとティグリスは、一気に間合いを詰める。
ガルシアも体勢を立て直し、距離を取ろうと試みる。
だが、ティグリスは異世界人を狙わずに再度、地面へとスキルを打ち込む。
今度は、爆発で弾かれた岩や土が異世界人の身体へと当たり、ティグリスは大斧を異世界人目掛けて、投げた。
大斧は、クルクルと車輪のように回りながら飛んでいく。タイミングを合わせて、異世界人は、それを真剣白刃取りをするように、大斧の部分を受け止める。
ほんの少しの油断。ガルシアは、ティグリスの攻撃の流れがここで終わると予想したのだ。
大斧を投げるという意表をつく攻撃で自分を仕留めるのだと。
しかし、ティグリスはここから構える。まるでガルシアの...ボクサーのように。
そして間合いを詰めると、ティグリスの木のような太い腕を横からガルシアの横っ面に向けて打つ。
ガルシアは、ティグリスの攻撃を一手見誤った事で回避は間に合わない。
腕でガードするもメキメキッと音を立て、ガルシアの身体が空中へと浮く。
ガルシアは、着地するもティグリスがこれを見逃すはずもなく、仕留めに掛かるティグリス。
しかし、今度はティグリスの身体が横へと吹き飛んだ。
ティグリスが気づいたのは、身体が飛んだ後であった。
(ん?完全に意識の外から.....足か!)
「しぶとい
「あんたと同じくらいの年齢だよ!」
ガルシアは、口から出る血を手で拭うと再び構える。しかし、ティグリスのパンチで右腕の骨は折れているのだろう。力なく垂れ下がっていた。
ティグリスとガルシアが死闘を演じる横でメンフィスは、一本角の魔族と激しい剣の打ち合いをしている。
ハトホルは、この剣劇の中に入る機会を伺っているが、なかなか参加する事はできず、見てる事しかできなかった。
そして、後方カルディア副官とともに、全体を見ている事しかできない映太も歯痒い思いをしていた。
(まだ召喚はダメなのか....早くみんなの力に.....)
焦りが募る映太に気づいたのだろう。隣にいたカルディアが口を開く。
「映太君。大丈夫だ。戦局は、予想以上に上々だよ。あとは、時間だ。」
「は、はい!でも....」
中央は、ティグリス、メンフィスが異世界人、魔族との戦闘で前進が止まっている。その間にどんどんと魔王軍が右側から中央軍を囲い出しているのが、映太の位置からだとよく見えていた。
カルディアは、昔からティグリスを支えてきた。そして、第四軍だけでなく、聖王騎士団きっての戦略家でもあった。もし、彼が居なければ聖王国はもっと領土を明け渡していただろう。
そんなカルディアも映太と同じ位置から戦場を見ているのだ。映太が理解している事ぐらいは、理解していて当たり前である。
映太は、そう思い言葉を詰まらせる。
ティグリスとガルシアは、いまだに殴り合いを続けている。メンフィスと魔族の戦闘も拮抗している状況であった。
ハトホルは、魔族とメンフィスの戦闘をいつでも援護できる状態のまま、襲ってくる大鬼に剣、魔法を叩き込んでいた。
(今のところ、不明な異世界人は、槍使いと弓使いか.....いや、本丸も姿が見えないが。)
すると、一人兵士が慌ててカルディアの元へ駆け寄ってきた。
「カルディア様!グスタフ団長から伝令!左に弓使い、槍使い異世界人2名が現れたとの事!」
(これで残すところ、やつだけか...)
「わかった。グスタフ団長には、30分と伝えろ。」
「はっ!」
そう言うと伝令は、再び駆け去っていった。
「映太君。いつでも準備だけはしとくように!」
「は、はい!」
左では、昨日ティグリスにやられた槍使い
先の捻れた奇妙な形の槍を持ち、三成はその速い突きを慶三郎へと放つ。大剣で槍を防ぐ慶三郎。大剣と槍が高速でぶつかり合い、激しい衝撃を生んでいる。
そんな戦いの中、器用に慶三郎だけに矢を射る異世界人の弓使い。しかし、阿子が魔法で、官介が弓矢でそれを防ぐ。
二人のおかげで、前の敵へと集中する慶三郎。すると、慶三郎は大剣の剣先を地面につけてそのまま振り上げる。土を一緒に巻き上げ、一瞬だが、三成の視界の一部が土によって消えた。
「バーサク!!」
慶三郎は、タイミングと見てスキルを使う。赤黒い色が慶三郎の身体に纏わりつき、能力が10倍へと跳ね上がる。
一瞬にして、三成の後ろへと回り込み、大剣を横一閃に振る。それを阻止しようと弓使いが矢を放つも、阿子が土魔法で慶三郎の背後に壁を作る。
三成の身体は、いとも簡単に腰から上下に分かれてしまう。しかし、白い光が包みこむ。
「まあ、持ってるよな!身代わり人形!」
慶三郎は、5秒経てば、スキルの効果は切れ、戦闘離脱は免れない。凄まじい速さで連続して、三成の身体を切り刻む。
制限時間が経ち、慶三郎のスキルの効果が切れる。だが、間一髪間に合ったようで、三成の身体は何処かの教会へと飛んでいった。
「しゃあ!」
慶三郎は、片腕を挙げて口から言葉を出した。
しかし、その瞬間、慶三郎の背中から腹へと衝撃が突き抜ける。
「ぐはっ!?」
「慶三郎!!!」
口から血を吐く慶三郎。慶三郎の背後には、見知らぬ異世界人の姿がある。
「い、いつの間に....」
その異世界人は、20代前半というところか。若い青年である。顔を整っているが、目から光を感じ取れない。表情も感情があるのか...
帯剣しているものの、構えからして、拳で慶三郎を殴ったのだろうか。武術を嗜んでいるような構え。
すると、異世界人は、慶三郎に間髪入れずにパンッと掌で慶三郎の背中に打撃を入れる。動きは、脱力しているようで、力みは感じない。
しかし、慶三郎の大きい体が衝撃で弾かれる。そして、光に変わり、空へと飛んでいった。
「くっ、くそー!」
それを見ていたルーカス、阿子、官介がその突如として現れた異世界人へと攻撃を掛ける。
少し遠くにいた五郎も異変を感じ、その場へと向かっていた。
後方で指揮していたグスタフが、その男を見て、いつもの険しい顔をより一層、険しいものに変えていた。
今まで現れなかった異世界人が左側の戦場に姿を見せるのとほぼ同じ時—— 中央では、ティグリスとガルシアが未だに戦闘を続けていたが、決着がついていなかった。
「本当にしつこいやつじゃよぉ!」
「そのままあんたに返すわよぉ!」
お互いの拳が顔面へとめり込む。お互い、口からは、血が流れている。最初の余裕は、お互いにはなく、肩で息をしていた。
メンフィスの方は、剣を躱し、弾き、そして斬る。そんな単調な動作を続けるメンフィスと魔族。
しかし、余裕がないのはメンフィスの方であった。右側からの魔王軍の横撃は、すでに始まっている。時間を考えると、焦らずにはいられない。
だが、目の前にいる魔族。特別、何かスキルを使っているのではない。正確には、わからないだけであるが、単純に剣士として格上であった。
メンフィスは、できる限りの力を持って、剣を操作している。しかし、少しの隙を見逃さず、魔族は剣をメンフィスの体へと振ってくる。
後方に避けるも足が重い。“動きが鈍っている”。
メンフィス自身が強く感じている。
「
後方から火の槍が飛んでくる。魔族は、難なくこれを払い避ける。
ハトホルは、連続して氷魔法、雷魔法を魔族に飛ばす。メンフィスの動きが落ちた事が幸いして、2人の戦闘に介入できるようになった。
魔法に気を取られている瞬間を狙い、メンフィスが切り込む。ハトホルは、魔法を使い続け、魔族の気を逸らす。
メンフィスの振るう剣先が魔族の頬を薄く斬る。魔族が少し、後退り....いや、体勢を整えるために一歩だけ下がった。
ハトホルのMPは、決して多くない。むしろ、剣士向きである。そんな残り僅かなMPを使い、魔族の足へと風の刃を放つ。
魔族は、一歩後ろに左足を着いた事によって重心が後ろになっている。だから、“地面に着いた足は、簡単には離れない”。
ハトホルは、そう確信した。メンフィスとの訓練で小さい頃から何度も言われていた。“
重心をなるべく変えずに移動する。勿論、この魔族も剣に間違いなく精通していた。だが、ハトホルの魔法とメンフィスの攻撃がこの機会を与えた。
音もなく、ハトホルの放った風の刃は、魔族の左足を切断した。
メンフィスは、力む事なく魔族の首を刎ねた。パーンッと空中へ舞う魔族の顔。表情は、平然としている。どこか安心した表情をしていた事に目を逸らさなかったメンフィスだけが気づいた。
「よっしっ!」
遠くで戦いを見ていた映太が小さくガッツポーズする。隣のカルディアは、左側の戦場での異変を兵士の声で感じると言葉を放った。
「映太君!召喚を頼む!右側から横撃してきている魔王軍を抑えるよう命じてくれ!」
「は、はいっ!」
カルディアの言葉に慌てながらも、指輪を上へとかざす。大量の黒煙が指輪から放出され、総勢八千の
「みんな!横から攻めてきている魔王軍を抑えて!カイセルさんと
「ご主人様、かしこまりました。」
映太が召喚した骸骨たちは、映太の命令に足を踏み鳴らし、呼応した。
中央は、魔王軍の横撃で左寄りまで押し込まれていた。骸骨たちは、中央の聖王騎士団と骸骨たちとの間に壁を作るように応戦を始める。
カルディアは、一人の伝令を呼びつけ、何やら伝言をする。伝令は、右側の方へに駆けていった。
映太は、ふと左側の戦場、五郎たちがいる方向へと目を向ける。なんだが、様子がおかしい。兵士たちの声が聞こえない。
何か空に光が飛んでいくのを見た映太は、心がざわざわと揺らめく。あの光は、この世界に来て何度も見た。
異世界人が死んで、教会へと向かう時の光。
(もしかして、誰か死んだの......それとも、魔王軍の?)
せっかく、この戦地にて半年振りに集合できたのに.....確かに死ぬことは無いし、多分リンベルの教会で生き返る。だが、それでも幼馴染たちが死んでしまうのは嫌であった。
「カイセルさん、付いてきて下さい!」
映太は、カイセルと共に
「すみません!カルディアさん!骸骨たちは、そのまま中央に残って戦うので心配しないで下さい!僕は、左側に行ってきます!」
「承知した。」
(左側.....奴が現れたか。様子がおかしいな。
だが、そうであれば、好都合だ...)
映太は、カイセル共に左側の戦場に着く。
「ご主人様、あちらを!」
カイセルが指を差す方向。そこには、見た事がない顔の異世界人。そして、地面に倒れる聖王騎士団の兵士たち。
そして、五郎が剣を向けている。
遠目から官介と阿子が魔法と弓を放っている。
(よかった....まだ死んでいない!でも、慶三郎は....?)
辺りを見回すが慶三郎の姿が見当たらない事に不安を感じるが、まずは、3人の姿を見て安堵した。
五郎は、素早く異世界人の懐に潜りこみ、剣で斬りかかる。異世界人は、頭目掛けて飛んでくる官介の放った矢を手で受け止める。
そして.....
その矢をそのまま、五郎の頭へと突き刺す。動作が速く、映太にはいまいち理解する事は、できなかった。五郎の剣が異世界人に届く寸前。
五郎の体が力なくパタリと倒れる。
「そ、そんな.....」
映太は、呆然とその光景を見つめる。
五郎の身体が光となり、空へと飛んでいった。
映太は、歯を食いしばって自分の無力さを後悔していた。
阿子も官介も誰も動かない....いや、動けない。
そんな時、動いたのは、第三軍団団長グスタフであった......
——————首都攻防戦、次回決着———————
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