第10話 : ファランクファルトへ

———— 宿場町ギーセンの聖王騎士団兵舎。

 目を覚ます映太と官介。久々のベッドの上での目覚め。


 「おはよ。」

 「うん。官介おはよう。」


 映太は伸びをして体を起こす。

官介は、すでに起きていたようで、身支度をしていた。


 起床から1時間ほどしてハトホルが部屋まで映太と官介を呼びに来た。


 褐色の肌に、大きな猫のような目。

黒髪は、後ろで一本に縛られている。

女性にしては、筋肉質な身体つきに日々、聖王騎士団として従事している事が伺えた。


 「映太、官介、集合だよー!」


 いつの間にか呼び捨てにされている事に違和感を覚える映太。


 (阿子以外の女子に呼び捨てにされたのは、初めてかもなー)


 兵舎前には、すでにメンフィスと隊の兵士たちが綺麗に並んでいた。


 「おはよう!二人とも!今日は宜しく頼むよ!」


 相変わらず、快活なメンフィスは、どこか慶三郎に似ていると二人は思った。


 「さて、今日は昨夜に伝えた通り!この二人の協力でモンスターとの戦闘訓練だ!

こちらは、倒しにいって大丈夫なんだよね?」


 メンフィスが映太へと問う。あまりにもメンフィスの声が大きく通るため、映太も声が大きくなった。


「はい!骸骨スケルトンなので甦りますから心配しないで倒してください!!」



「うんうん!武器などは本物だから皆、実戦だと思って本気でやるように!以上」


 兵士たちは、皆揃えてメンフィスへ敬礼し、兵舎の横にあるサッカーグランドほどの大きさの訓練場に向かう。


 訓練場と言っても、地面と周りを木の柵で囲われただけの造りではあるが、広さは十分だ。


 訓練場に整列した兵士たちの前に立ち、映太は左腕を前に出す。


 「では、皆さんいきますよ!」


 「はっ!」


 兵士たちは、敬礼し、迅速に隊形を作る。

指輪から黒煙が出てきて、兵士たちと同じくらいの数、ざっと300体ほどの骸骨スケルトンが現れる。


 そしてカイセルとカバリオン三兄弟、骸骨狼ワイトファングの姿もあった。


 「メンフィスさん、まず骸骨たちだけと戦わせて、終わったら骸骨騎士ワイトナイトと....で良いんですよね?」


「ああ!それで大丈夫だよ!」


「骸骨たち!前方にいる兵士たちと戦え!でも殺しはなし!カバリオン三兄弟は待機で!」


 映太がそう指示すると骸骨たちは、兵士たちに向かっていく。


 「おーーーーーーーーーーー!」


 兵士たちもこれに向かっていった。


 「ご主人様、私めはどう致しますか?」


 カイセルが頭を下げながら映太に指示を仰ぐ。


 「どうしようかー」


 カイセルをどうするかを考えていなかった。


 メンフィスは、官介と戦う兵士たちと骸骨たちの戦況を見ながら、指示や戦略などを教えてもらっている。


 すると、映太の横にハトホルがやってきた。


 「映太。すごいね!こんな数の骸骨を召喚できるなんて。」


 (ハトホルは、一応、副隊長だよな.....)


 ハトホルは、指示などを行う予定だったが、メンフィスが官介に指示の仕方などを教えるために兵士たちに指示を送っていたのでお役御免になっていたのだ。


 「ハトホル。カイセルさんと戦ってみる?」

 

 「やってもいいけど、私結構強いよ?」


 ハトホルは、自信たっぷりに言う。

カイセルの強さを知らないからだろうと思い映太は、カイセルに指示を出す。


 「カイセル。ハトホルに稽古をつけてくれないか。慶三郎の時みたいに。」


 「ご主人様、勿論でございます。では、お嬢さん、お手合わせ致しましょうか。」


 カイセルは、二人にお辞儀する。

ハトホルは、剣を構えた。


 「カイセルさん...でした?宜しくお願い致します。」


 すると、ハトホルは、カイセルへ踏み込んでいく。その速度は、想像より速い。


 カイセルは、ただ棒立ちしていて剣すら抜いてない状態である。


 カイセルは、ハトホルが近づくと剣へと手をかける。

  

 その瞬間、危険を察知したようにハトホルは、後ろへと跳ぶ。


 「炎の矢ファイヤアロー


 剣を持たない左手を前へとかざし、魔法を唱えるハトホル。


 左手から矢の形をした炎がカイセルに向けて飛んでいく。


 カイセルは、映太の目では捉えられないほどのスピードで剣を抜き、ハトホルの魔法を切る。


 「風乗りウインドレイド


 ハトホルは、カイセルに炎の矢を切られたのを見ると、自分の後方から風を起こし、その風に乗って、カイセルとの間合いを一気に詰めた。


 カイセルは、ハトホルが打ち込んでくる剣撃を全て剣で弾いている。


 (ハトホルってこんな強かったんだ......魔法も使い方が上手いっていうか....剣もすごい....)


 感心というより驚きのが強かったが、ハトホルとカイセルのやり取りを目を丸くして見つめる映太。


 「そこ!!少し引いて!個ではなく集で戦う事を意識するんだ!右死んでも押されるな!左が囲まれるぞ!」


 少し離れた所では、兵士たちに指示をするメンフィスと隣で官介が、指導を受けていた。


 「官介くん!戦場は広い!なるべく最初は点じゃなく全体を見るように心がけるんだ!慣れると点で見ても、なんとなく全体が見えるようになってくる!」


 (みんな凄い....俺も何かやらなきゃ...)


 ハトホル、カイセルは、稽古を黙々と続けている。官介もメンフィスに指導を受け、兵士たちは、骸骨たちと戦闘を繰り広げている。


 映太は、何かを思い付いたのか、骸骨狼にまたがる。

 

 「走り回ってくれ!力一杯にお願い!」


 そう言うと、骸骨狼は、精一杯スピードを出し、走り回る。映太は、すぐに振り落とされそうになるが、なんとかしがみついている。


 映太は、これが効果があるかわからなかったが、骸骨狼に乗って右手で触れれば。そう思って骸骨狼とトレーニングしようと決めたのだ。


 しかし、そのあと、すぐに振り落とされてしまい、骸骨狼は、指示が終わったと判断して消えてしまう。


 (指示の出し方が悪かったな。稽古とか言えばいいのかな?いや、稽古だと戦う事になりそうだしなー)

 

 そんな事を考えていると、ハトホルたちの稽古が終わったようだ。


 「ふうーーーカイセルさん強いですね!メンフィス叔父さんより強いかも!今日はありがとうございました!」


 汗を拭きながらハトホルが頭を下げる。


 「とんでもございません。お役に立てたのであれば」


 「二人ともお疲れ様!カイセル、ハトホルはどうだった?」


 戻ってきたカイセルにこそこそと映太は聞く。


 「そうですね。慶三郎殿と互角でしょうか。魔法の使い方が上手い分、ハトホル殿の方が上手かもしれませんね。」


 「えー!?慶三郎より?そんな強いの...........」


 「いえいえご主人様。強さとは、一方向では決められないものです。こればっかりは戦ってみないとわかりません。ですが、私との戦い方という点では、ハトホル殿の方が強いという意味でございます。」


 「な、なるほど.....」


 映太はイマイチ理解していなかったが、とりあえず頷いていた。


 「では、ご主人様。私はこれにて失礼致します。」


 「うん。カイセルお疲れ様!」


 映太がそう言うと、少し照れるようにお辞儀をし、カイセルは黒煙となり指輪へと吸い込まれていった。


 官介たち、兵士たちも訓練が終わったようで、メンフィス以外は、皆疲れた様子で帰ってきた。


 「皆さん、お疲れ様です!」


 「叔父さん、みんなお疲れ様ーーー!」


 映太とハトホルがそう声を掛けるが、兵士たちは、肩で息をしている。


 「どうでした?訓練の方は...」


 映太がメンフィスへと様子を尋ねると、メンフィスはとても喜んでいる様子で、


 「素晴らしいよ!これは、素晴らしい!こんな実戦を訓練としてできる機会は滅多にないからね!明日も映太くん宜しく頼むよ!はっはっはっ!」


 メンフィスは、愉快そうに言ったが、それを聞いた兵士たちは、顔が青ざめていた。



 「官介もお疲れ様!どうだった?」


 「ああ。とても勉強になったよ。まだまだだけど、ここにいるうちには、物にできると思う。」


 「さて、映太、官介!ご飯食べにいきましょ!

店まで案内するからさ!」


 そう言うとハトホルは、二人の腕を引っ張って街へと向かうのだった。


————ギーセンの街の食堂。

 

 食事をしながら、三人は、今日の訓練についてや

世間話をした。


 映太は、ハトホルにカイセルとの訓練がどうだったかと聞いたら、


 「物凄く強かったわよ!叔父さんと同じぐらいじゃないかしら?でも教えるのは、カイセルの方が上手かったわね!」


 無邪気にそう言うものだから、官介は、ハトホルが相当な腕前なのだと理解した。


 映太は、最初の方しか見ていなかったが、ハトホルが強いという事は知っていたし、最後にカイセルが慶三郎と同格と言っていた事を聞いていたので、

驚きはしなかった。


 (いつの間に呼び捨ての仲になったんだろうか....)


 そちらの方が、気になっていた。


 そして、カイセルと同じぐらい強いとハトホルがみているメンフィスの強さを知りたい気持ちもあった。


 官介曰く、


 「指揮官としてのレベルも非常に高い」

と言っていた。

 

 1、2時間ほど会食して、兵舎に帰ってきた二人。


 「映太の方は、どうだった?途中から骸骨狼に乗ってただろ?」


 「うん。なかなか難しいよ。巨大亀と戦ってた時は、無意識だったから.....いつでも、乗りこなせるようにならないと。官介の方は?」


 「まだ、初日だからね。戦場を見るって難しいんだなって。それこそ、メンフィスさんみたいに見て、判断して、命令して.....勉強より難しいよ。」


 二人は、笑いながらベッドに横たわり、明日の訓練に備える。


 (五郎たちは今どこにいるんだろうか....)


 二人は、そんな事を考えながら、眠りについた。




———— 一瞬身体が、白い光に包まれて、ふわりとした感覚。目を開くとそこは、教会であった。


 大きなステンドグラスから、陽光が差し込む。

ステンドグラスは、青系統に統一された細工が施されている。


 教会に入る光が生み出す美しさは、幻想的で一生記憶に残るだろうとも思える。


 しかし、光を堪能するような気分は全くない。

 

 五郎、慶三郎、阿子の三人は、自分たちが死んだ事をすぐに理解し、悔しがった。


 ハルツ迷宮での巨大亀との一戦。

死んだ三人は、官介の予想通りにアズブルグの教会で生き返った。


 「くそぉーーーーー!!!」


 慶三郎は、教会の床を叩きながらに悔しがる。

五郎は、アイテムを確認する。もちろん、アイテム類は一つも残らず、なくなっている。


 「とりあえず、教会を出よう。お金はあるから、簡単な装備だけ買ってモンスターを狩ろう。」


 五郎の提案に対し、阿子は、心配そうに言った。


 「映太たち大丈夫かな?早く合流しないと!」


 「くそ!俺があそこでトドメを刺せなかったせいだ!急ごうぜ!」


 慶三郎も阿子も急いで映太たちとの合流に急く。


 「二人とも落ち着いて。」


 五郎は、いつもの表情で言った。


 「もし、あの巨大亀に全滅させられていたなら、官介も映太もここにいるはずだよ。

 でも、今いるのが三人という事は、あの二人は生きているし、もしかするとどうにかあそこを突破したのかもしれない。


 だから、一旦、装備などを最低限揃えて準備しよう。

 もし二人が、死んでしまっても、生き続けて、迷宮を進んでいたとしても準備だけはしとかないと。」


 五郎の言葉に阿子も慶三郎も納得し、頷いた。


 ちなみに教会で生き返ると、アイテム類は全部失われるが、お金は、一定の金額だけ引かれた状態で生き返る。


 本来、この金額がかなり高く負担になる。

 五郎たちは、お金を結構持っていたので、生き返る際の金額を引かれたとしても、最低限の装備を揃える事は可能だった。


 教会を出て、こないだまで滞在していたアズブルグの街を歩き、商店街で最低限の装備、アイテムを揃える。


 もちろん、巨大亀と戦う以前に比べて、装備品のレベルは、ガクッと下がっているが、今は気にしていられない。


 一番安い武具に防具を装備した三人は、一旦、宿屋を見つけて、今日は休もうと考えていた。


 すでに陽は沈みきっている。


 夜道を歩いていると、不意に声を掛けられた。


 「ん?五郎じゃないか?天草五郎!なぜお前たちまだここにいるんだ?」


 「ダ、ダルシードさん。」


 五郎たちを呼び止めたのは、聖王騎士団第三軍副団長ダルシードであった。 


 とても大きな身体と傷だらけの顔。

知っている者でなかったら、身構えるであろうオーラが、ダルシードから出ている。


 ダルシードは、五郎たちの話を聞くために、兵舎に誘う。

 五郎たちも今後どうするのかを決めたいと考えていたので、誘いに応じた。


 兵舎の食堂で、夕食を取りながら五郎は、ハルツ迷宮に入った事。巨大亀と戦い、死んでしまった事を説明する。


 「なるほどな。ハルツ迷宮を抜けるルートを選んだのか。あのルートは、早いが騎士団でも迂回ルートを最近は選択する。

 ただ、そんな化物がいるとは聞いたことがない。

  それに俺も、3年ぐらい前に迷宮を通ったがそんな化物はいなかったな」

 

 やはり、官介の情報収集が足りなかったわけではなく、知っている者がいないのだ。


 五郎は、迷宮内は、迷路のようになっている。

 もしかすると、正規のルートだと巨大亀のいた空間を通らないで迷宮を出られるのでは。と予測していた。


 もし、そうでないのなら、

 “たまたまダルシードが通った三年前から現在までに、巨大亀があそこに移動してきて住み着いた。”

 という事になるが、あの巨体だ。


「その可能性は低いだろうな。一応、ハルツ迷宮の入口と出口は、騎士団の巡回ルートになっている。 

 そんな巨大な化物が通れば、すぐに警戒連絡が来るだろう。」


 ダルシードの言う通り、その可能性は少ないと五郎も考えていた。


 ただ、ハルツ迷宮内で他の道があったかどうかも疑問であった。

 

 実際、ハルツ迷宮は入り組んでいて、分かれ道も数十箇所はあっただろう。


 ただ、外れの道は、行き止まりであったし、ほとんどの道を確認したはずだった。


 五郎は、悩んでいた。

 ”何を“かというと今後のルートである。

 もし、ハルツ迷宮に再び挑戦し、ファランクファルトを目指すのであれば、あの巨大亀と戦うのは、絶対に避けたい。


 もし、映太と官介が巨大亀を討伐して抜けていれば、別ではあるが。


 もし、そうでないなら敗北の二文字は、確実に刻まれるだろう。


 装備品も人数も前回よりも劣っている。

そんな険しそうな五郎の顔を見てダルシードが言う。


 「お前たち、今日は、ここに泊まっていきな。グスタフ団長には俺から説明しとく。

また明日詳しく話を改めて聞こう。」


 ダルシードは、初対面の時とは、同一人物とは思えない優しい顔でそう言うと食堂から出ていった。


部下の兵士が部屋まで案内してくれた。


 もちろん、阿子は、別の部屋である。


 慶三郎と五郎は、ベッドに身体を預ける。


 「とりあえず、ファランクファルトを目指そう。ルートはどうするか、まだ決めていないが。」


 「ああ。きっと官介もそうするだろうな!映太のやつ大丈夫かな。あいつきっと寂しがってるぜ!」


 慶三郎は、笑いながら言う。


 アズブルグに戻った三人の初日は、終わった。


——— 映太と官介は、ギーセンの街から。

五郎、慶三郎、阿子の三人は、アズブルグから。

各々、『ファランクファルト』での合流を目指す。

言葉を交わしてはいないものの、目的地は同じであった。





 

 







 









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