第6話

証拠がないにもないとわかった明日香が、安堵したようにそう言って笑った。



「本当だよね。死んでも意味ないじゃん」



美春も安心したのか、表情が緩んでしまっている。



「みんなお疲れ。今日は部活は中止にするから、ゆっくり休んでね」



あたしはそう言ったのだった。


☆☆☆


家に戻って来たあたしはベッドに寝転がり、咲紀の残した日記を確認していた。



《○月×日



今日は文芸部に入部してみた!



図書室の先生に勧められての入部だけど、本を読むのが好きだから楽しみ!》



《○月△日



今日は初めてプロット作りをしてみた。



思ったよりも難しいかも……》



他愛のない内容が続く中、ある日から日記の書き方が変化しているのがわかった。



それまでのように短い文章ではなく、長く、まるで小説のような書き方になっているのだ。



日記がそのまま書く事への勉強になると、気が付いたのだろう。



「え、なにこれ」



日記を半分ほど読み進めた時、あたしはそう呟いて顔をしかめた。



そのページには《あたしは自殺した》という内容が書かれているのだ。



自殺方法はお風呂で手首を切ること。



まるで自分が自殺することをわかっていたような内容に背中が寒くなり、日記を閉じた。



自分が苦しむ内容の日記を書くなんて、やっぱり咲紀はどうかしている。



「趣味悪っ!」



あたしはそう呟いたのだった。


☆☆☆


翌日、放課後になるといつも通り文芸部へと向かった。



日当たりが良くて、風通しもいい、心地いい部室。



あたしはここが大好きだった。



「愛奈。このコンテストどう?」



ルーズリーフを広げてキャラクターを考えていた時、明日香が公募雑誌を見せて来た。



「なに?」



「高校生限定! 等身大の作品求む!」



明日香が雑誌に書かれている見出しを声に出して呼んだ。



「等身大の作品ねぇ……」



ジャンルはなんでもOK。



現役高校生が、高校生を主人公にした作品を書くこと。



締め切りは一か月後になっている。



「気になるけど、今から考えて書いてちゃ締め切りに間に合わないよね」



1本の作品を仕上げるまで、最低でも2か月は必要だった。



「だよねぇ。もう少し早く知っていれば書いたのになぁ」



明日香はそう言い、本当に悔しそうに顔をゆがめた。



「もう少し締め切りに余裕のあるコンテストを探さないと」



そう言いながらも、あたしは咲紀の日記を思い出していた。



途中から小説のような書き方になっていた日記。



それは悪趣味な内容だったけれど、やっぱり面白かった。



認めるのは悔しいけれど、咲紀は文章を書くのが上手い。



昨日日記も読み進めるうちに時間を忘れてしまいそうになった。



「……ねぇ、その雑誌しっかり見せて」



「うん、いいよ」



あたしは明日香から雑誌を受け取り、応募要項を見つめた。



あの日記を清書するだけなら、そんなに時間はかからない。



持ち主である咲紀は死んでしまったし、あたしが応募しても誰も気が付かないだろう。



そう考えて、ゴクリと唾を飲み込んだ。



これはチャンスかもしれない。



「どうしたの? もしかして参加するつもり?」



明日香にそう聞かれて「参加してもいいかもね」と、答えたのだった。

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