二章『出会い START』
ここは西東京市のとある大学の中庭。
「ふぁい? ふぉふふぃんがふぉぅひはって?」
焼きそばを口いっぱいに詰めたまま話す須田さより。
「だから、鳥人間だって……聞いてる?」
「ふぉっけふぉっけ」
ビッグサイズのカップ焼きそばが手品みたいに須田の口に消えていく。さらに麦茶を飲み干してぷはあと一息。
須田は小学校からの友人ではあるがこの大学の学生でもなんでもない。彼女自体の最終学歴は中学校でそれ以来はどう生活しているのか知らないが暇を見つけると塔香の大学へ遊びにくるのだ。
下着一枚の上半身にスカジャンを羽織って足には下駄という異常な服装をしているが長い付き合いのうちに慣れてしまった。
からん。と下駄の音。
「一昨日辺りからだったか? 聞いとるよ」
「うんそれ。今度それでなんか書こうと思って」
塔香が受けているとある講義の特徴として毎週関心のあるニュースについて二千字程度でレポートを書かなくてはならないというものがあるのだ。
塔香などは毎週の課題に頭を痛めて溺れる者は藁でもなんでも掴む心境で須田のような頭の足りない友人にも相談を持ち掛けていたりする。
「まあ、いいんと違うか。オカルトじみてて書きやすそうだしよ」
そんな塔香の気持ちはいざ知らず須田はのんきに背筋を伸ばして塔香に同意した。
「まあ、そうだよね。大丈夫だよね……」
須田程度の奴にでもお墨付きがもらえれば少しは安心する。ほっと一息ついて空を見上げると入道雲が見えた。
もう夏だ。どこからか航空機のジェット音がする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空を裂いて飛行するF15戦闘機。眼下には幾つかののんびりした積乱雲たち。変わりない夏の空である。
「目標地点到達。されど飛行物体は確認できず」
レーダーには二つの機影が映っていた。ここ数日奇妙な飛行物体が日本の領空に現れているのだ。大きさは小さなグライダーほどで日本各地に現れては消えている。
しかし未だ目視では未確認。
『……そうか、では帰島せよ。繰り返す……』
投げやりな指令が繰り返される。上司たちもうんざりしているらしい。しかしパイロットはその指令に反応できないでいた。
「………………鳥」
『おい。どうした』
その声にも反応できない。なぜならF15の鼻先に、──────人が立っていた。
「いや、人……? 高度一万メートルなのに……」
外套で体を覆い、頭には黒光りする笠、鳥のような面をつけた『人』である。
『どうした? なにがあった?』
さすがにパイロットの動揺が伝わったらしくどよめく司令部。そうこうしている内に鼻先の『人』が歩き出した。コックピットに一歩踏み出すと外套の下のゲートル巻の脚がちらりと垣間見えた。
そのままコックピットにしゃがみ込みヤモリのようにガラスに手を張り付けてこちらを覗いてきた。
鳥面に空いた小さな二つの穴から此方を見ている。
生唾を飲み込むパイロット。必死に悲鳴を耐えている。
『おい、どうなってる! 僚機に確認!』
「ひ、人が……F15の上に」
怯えるパイロット。恐慌し機体を傾けると『人』の身体が宙に浮き、翼を広げた。ふわりと翼上に着地する。
またゆっくりとコックピットに歩いてくる。
パイロットがついに悲鳴を上げた時、『鳥人間』がうんうんと頷いて、F15から飛び降りた。
そのまま地上まで頭から真っ逆さまに落ちて行く。
レーダーの索敵範囲からも離れ行方はわからなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一週間後、姫百合塔香は呼びだしをくらっていた。
「『鳥人間』はマズかったか。それとも内容か……」
結局レポートは鳥人間騒動を適当にまとめて『旧日本軍の機密部隊の幽霊』とお茶を濁して終わりにしたのだが。
このふざけたレポートが教授の逆鱗に触れたのか。
「すいません」
覚悟を決めて教授の部屋の扉をノックする。
「やあやあ来ましたか」
中から勢いよく扉が開かれて小柄な男が現れた。卵のように丸々と太った小男である。
「初めまして。
丁寧なお辞儀をされた。上げた男の顔は元気であるが相当に年齢を刻んでいる。
「え~と、『鳥』についてお伺いしたいことが……」
「いや……あなたは誰ですか?」
教授でも職員でもない、見知らぬ男に対して塔香は困り顔で問いかけた。
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