秘剣刺影人~ひけんしかげにん

八田文蔵

 長い、長い流浪の果てに、その親子はやっと安住の地を得た。


 ――奥州辰峰郷たつみねごう


 この地を治める辰峰藩は二万二千石の外様大名で、藩主の名は菅生丹波守常忠すごうたんばのかみつねただ

 彼は決して愚昧な当主ではなかったが、配下の宿老たちを抑えることができず、藩内は絶えず内紛のごたごたに見舞われていた。


 これに目をつけたのが徳川幕府である。幕府は公儀隠密――巷では影と呼ばれる間者を放って「藩政不行届」の証拠をつかもうとした。

 辰峰藩を改易に追い込み、その領地を没収して傾いた財政を立て直そうとしたのである。


 そうはさせじと常忠は動いた。ある人物を通じて公儀隠密を闇に葬る「影刺し御用」の者を用いたのである。


 流れ着いた旅の親子は剣客であった。

 父の名は寒河江徹山さがえてつざん

 息子の名は一馬かずま

 一馬はまだ知らない。

 父の本当の生業なりわいを……。


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