第20話

 シフトを終え、店を出て少し歩くと、向こうにフレジャイルの姿が見えた。路上に座り込み、棒付きの飴をなめている。

 もう会わないと思っていたのに、まだこんなところにいるのか。どうして。

 フレジャイルはハイルに気づいた様子で、立ち上がるとこちらへ向かってきた。

 ハイルは踵を返す。会いたくなかった。話したくない。

「ハイル、大丈夫?」

 フレジャイルが背後から声をかけてくる。パタパタと小走りについてきているらしい。

 ハイルはどう答えていいのかわからず、無視した。

「ちょっと心配で。ご家族は元気?」

「ついてこないでよ」

 ハイルは振り返った。

「あなたとわたしは関係ないでしょ」

 その時、フレジャイルはいきなり座り込んだ。

「え、どうしたの?」

 ハイルは思わず心配してしゃがんでしまう。

「大丈夫。最近、アバターの調子が悪いみたいで。かっこつけて骨董品みたいなのを使ってるから」

 フレジャイルは立ち上がり、自分の体を軽くたたいた。普通のアンドロイドとは違う雰囲気があるのは、そういうことだったのか。アバターだったからではなく、古いものだから。言われてみれば、肌の艶が、ハイルの店にいるようなありふれたアンドロイドとは違って見える。

「とにかく、もう関係ないですから」

 ハイルが言うと、フレジャイルは、どこか悲しそうな目でうなずいた。

 むしゃくしゃしたので気分転換をしようと、いつもとは違う道を通って、遠回りをして帰ることにした。フレジャイルはもう追ってこなかった。

 ハイルが足を踏み入れた道には、露店が軒を連ねていた。売られているのは、飲み物、菓子、揚げ物、イカやフランクフルトを焼いたもの、アクセサリー、薬、電子チップ、なにかの紙切れなど。

 ハイルは、紙切れが積み上げられている台車の前で足をとめた。

看板代わりに固定されているタブレットに、『記憶つかみ取り! 袋に入れ放題!』と表示されていた。売り子の中年男性は、人間だった。

「お嬢さん、どう? このビニール袋に入れ放題だよ。とってもお得だよ」

 男は、横幅十センチくらいのビニール袋を振る。

「これ、全部記憶なの?」

 ハイルは紙きれの山を示す。

「そうだよ。全部、クリニックに行けば有効な本物だよ。規制法が可決されただろ? その法律が施行されるまでの特別サービスさ。閉店セールってとこだね」

「こんなにたくさん……」

「質は正直保証できないけど、掘り出し物もきっとあるよ。そのほうがお楽しみ感があっていいだろ。さあ、やってみる?」

 お得と言いつつ、値段はなかなかのものだった。しかし、もう会にお金を払う必要はない。

 ハイルは、ビニール袋を受け取った。

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