第10話

 エピークの結婚式は無事に終わったらしい。エピーク自ら、報告の映話をかけてきた。

 映話を取った母は、改めてお祝いを言ってから、わざわざ連絡してくれなくてもいいのに、と言った。ハイルは、画面越しにエピークの顔を横目に見ながら、朝食兼昼食のパンをコーンスープに浸してかじる。父と兄は仕事だ。

「電気代がもったいないから」

 母の言葉に、エピークはあからさまにため息をついた。

「俺は別に信じることについて口出しする気はないんですが……ちょっと極端じゃないですかね」

「そうかしら」

 家族全員、何度も同じようなことをいろいろな人に言われている。それに対しては、穏やかだが絶対に曲げない姿勢を示すようにと両親に教えられた。

「まあ、それは別にいいとして、ハイルのことはさすがにどうかと」

 エピークは結婚式の報告のほかにも、なにか言いたいらしい。ハイルは思わず食事の手をとめる。

「またハイルの仕事の話?」

 母はちらりとハイルを見る。

「今、ハイルも横で聞いてるけど」

「ちょうどいいです。やはり、風俗産業に従事するのは、道徳的にまずいと思うんです」

「合法な仕事なのよ」

「それはわかってますが、人間がアンドロイドにできる仕事をするというのは効率的ではないし、人間の女性をただの性的対象として消費してもいいという間違った道徳意識を植えつける結果にもなってるんですよ。法律が間違ってるんです」

「なにを偉そうなことを言ってるの? あなたも、女性を性的対象として消費することに積極的に加担したじゃない」

「それは、昔のことで」

「あの頃は、まだ規制が緩くて、いろいろな記憶が取引されていたから、あなたも罰せられていないけど、人様のプライバシーを侵害した記憶を売ってお金を得たことが世間に知られたら、どうなるでしょうね」

「俺を脅すんですか?」

「脅してなんかいないわ。ゆすろうと思えばいくらでもそうできるけど、わたしたちは自分たちの道徳心に従って、そうしないでいるのよ」

「ああそうですか。それはありがたいですね」

「あなたは昔からモテて、お金がなくても頑張れば有名人と付き合えてすごいわね。もう結婚したんだから、浮気したりしないで、奥様を大切にね」

 母は映話を切って、ため息をついた。

「ずいぶん嫌味を言っちゃったわ。ハイルのことを悪く言うんだもの」

 ハイルは思い出した。昔、エピークがすごく頑張ったことというのは、有名で綺麗な女性と付き合うことだった。それは、男性としての自分のためではなく、商売人としての自分のためだった。

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