第25話:第一章 21 | 帰路と岐路


 ……どうしてこうなった?


 僕達三人は帰路に付く事になった。

 差し当たってやはり、僕のマンションへと帰る形に落ち着いた。


 例の話をケイナにすると、「部屋の事はどうにかしておくから、とりあえず隣の私の部屋で待っててくれたまえ」との事だったので、渋々と徒歩にて帰る形になった。

 ケイナは残って、少し藤収と話があるらしい。


 まぁそれはいいとして。


 いや火事になってた以上、隣のケイナの部屋も今頃ヤバいんじゃなかろうか? という疑問や


 そもそもやっぱり隣の部屋は彼女の部屋になってたのか、そしてそれは一体いつから? という疑問や


 あれ? そういえば元々隣の部屋に住んでた気がする鈴木さんは? 一週間くらい前にゴミ捨てしてる姿をチラと見た気がするけど。

 あれれ~? おかしいぞぉ~? という謎の事件の香りや



 まぁ、それらも無理矢理に、全部まとめていいとして。

 問題は、この現状にある。



 ……どうしてこうなった?



「「「「「 ………。」」」」」



 いや、まぁそりゃそうかもしれない。

 帰り道の方向一緒だものね、途中まで。


 でも僕達3人の方が先にグラウンドを出たのだがら、何となく距離を空けてから君達も出てくるべきじゃないの?



「……どうしたら良いと思う? めっちゃ怖いんだけど」


「……まぁゲームの『誓い』があるし大丈夫だとは思うけどな」


「……スルー? スルーでいいの? 喋らないのが正解なの? むしろ喋りたくないんだけど。特に清光」



 最後の一言をあえて本人に聞こえるように強調するマコトさんは本当に良い性格してると思うが、まぁ僕も概ね同意ではある。


 喋りたくないどころか後ろを振り向いて顔を見るのも恐ろし過ぎる。

 でも視線。

 めっちゃ視線を感じるしすごく怖い。特に清光。

 有り体に言ってしまえば殺気的な何かを感じる。



「「 ……。」」


「マジでさっきからひとっっことも喋らないのなんなの? ならこの距離まで接近すんなよって思うのよね。特に清光」


「ちょっとマコトさんやめて? 何で聞こえるように言っちゃうの? 何事もなく帰ろう? お願いだから喧嘩売るのやめて?」


「俺的には追い回された経験からもう片方のが怖いけどな。何で自分の腹に穴を空けてくるヤンギレ女に背中を見せないといけないんだよ。……こんなところにいられるか! 部屋に戻らせてもらう!!」


「いや分かるんだけどむしろ何でお前はちょっと余裕があるの? そのネタ拾った方がいいの? 実際部屋に戻りたいのはその通りなんだけど、どうして率先して犠牲者になろうとしてるの?」


「──大変そうだな。いつもこうなのか?」


「いや誰のせいだと思ってんだよ。そして何で普通に話し掛けてきてんだよ。感性大丈夫か? お前等さっきまで僕の事を殺そうとしてたんだぞ?」


「いや君らが喋れって言ったんじゃないか。それに別に殺そうとまではしてないだろ? ちょっと身体の一部分を貰おうとしただけだ」


「サラッとサイコパスな事言ってんじゃねぇよ。『ちょっと』って言葉の意味ちゃんと理解して使ってくれる?」



 そう言うと清光は僕らの後ろから左端に移動してきた。

 ちなみに今まで僕、マコト、レンの順で左から並んで帰ってたので、僕の横に位置取りしてきた形になる。

 活州は清光の数歩後ろを着いて来ているようだ。


 そして左側からマジマジと僕の左手に視線をやる。

 ねえなんでそういう事するの? マジでやめて? 本当に怖いんだけど……



「……何か用でもあんの? 無いなら道変えてくれない? むしろ僕らが別の道から帰るから着いて来ないでくれる?」


「は? 何でこいつらの為に道変えないと行けないのよ。特に清光」


「ちょっとマコトさん? そのくらいにしてくれる? お願いだから」


「──いや、安足さんに謝ろうと思ってね。巻き込んで申し訳無かった」


「……あたしだけに言われても困る。言うなら全員にしっかり謝りなさいよ。誰も許しはしないだろうけどね」



 横断歩道で四列になり止まりながら、清光はそう言って頭を下げた。

 でもマコトの言う通りだ。

 許すかはともかくとして、僕達にも謝ってほしい。



「俺は別に間違った事をしたつもりはない。だから、本来なら巻き込まずに済んだ君を巻き込んだ事についてしか謝罪しない」


「あんたの価値観の話をしてんじゃないのよ。純粋に迷惑を掛けたんだがら頭を下げろって言ってんの。この意味分かる?」



 どうもマコトの機嫌は最高潮に悪いようだ。

 こうなると僕はもうたしなめる事も何もできない。



「──迷惑って言うのなら、その左手を今日俺に渡してた方が何倍も良い結果になったんだぜ。今日の時点でリタイアする方が、君達にとって良かったんだ、絶対にね。



 その言葉に思うところが多く、一言返そうかと口を開いたが、それよりも先にマコトの手が動いた。



 ──パシッ、という乾いた音が真夜中の道路に響き渡る。

 マコトが清光の頬に平手打ちをした音だ。



「……あんた最低ね。あの告白、やっぱり断って正解だったわ」


「……ちょっと! やめてよ、清光はこうなるのが分かってて来たんだから」



 活州はそう言って清光を少し後ろへと引っ張った。

 おかげで物理的にマコトと清光の間に距離ができる。


 その態度はやはり西門の時のソレとは違うように映る。

 そしてその言葉にも含むところが多分にあった。


 分かってて来ただと?

 つまりまた『予知』した上で、マコトにぶたれるのも覚悟して、あえて僕らに追い付いて来たということか。



「……俺を殴った後かそうじゃないか。ようは君達の精神的な余裕がどれだけあるかで変わるのかな? その後で言わないと、どうも言葉の重みってやつが全然違うみたいだからね」


「──何が言いたいんだ? お前、いつもそうだよな。1人で納得したように話す。俺達に分かるように言えよ」



 レンが清光に刺すような視線を返した。

 そしてゲームの『誓い』を思い出す。

 そうだ、それを守るのは清光達の方で、僕等の側には今、何の枷もない。


 場合によっては、こちらだけ一方的に危害を加えれる立場にあるのだ。



「じゃあ分かりやすく、2つ忠告をしてやるよ。謝罪の変わりだと思ってくれ」



 ……いや、良く分からんが謝罪は謝罪でちゃんとしろよ、マジで。



 清光は改めて僕等に向き直ると、指を一本立てて話し出した。



「1つ目の忠告だ。使。新学期からは俺なんかよりもっと悪どいやり方で欲しがる奴が出てくる。だから油断するな。そして、この春休みで出来るだけ、その左手を自在に扱えるようになっておくんだ。情報収集も怠るなよ。



 その声音は真剣で、そして迷いが無かった。

 細部を聞こうと口を開けば、清光は立てた指を自らの口の前へと持って行く。


 喋るなと言いたいのか? ムカつく奴だな……



「2つ目だ。いいか? これが一番だ。一番大事なところだぜ。。決して、何があろうとも心を許すな。



 清光は人差し指に追加して中指も立てて、二つ目の忠告とやらを告げた。

 そして溜息を吐き、踵を返す。



「……俺から言えるのはこんなところだ。俺の物にならないなら、君にそのまま左手を持ってて貰わないと困るからな」



 そう言って、彼は別の道から帰るつもりなのか、一歩足を進めた。

 あいつ、マジで僕とレンには謝らずに済まそうっていうのか……?



「──おい! どういう事だよ、もっと分かりやすく言え!!」


「今言った事が全部だよ。分からないなら、それも春休みの間に考えとくんだな」



 その後ろに付き従って、活州も清光の後を追っていく。

 しかし五六歩ほど歩いてから振り返ると、マコトの方に向かって早足で戻って来た。


 ……おぉ? これはあれか、修羅場ってやつが始まるのか?



「──ええっと。活州さん? 何かな、あたしは別に清光の事どうも思ってないしむしろさっき嫌いなカテゴリに入ったから、あなたが心配する事は何も無いと思うけど……」


「あっ、いや違う、それは関係なくって……」



 活州はそう言って、ポケットの中から何かを取り出してマコトに差し出した。

 マコトは重心を活州から遠ざけながら、どうにか手だけでソレを受け取る。



 警戒し過ぎじゃない?

 まぁ分かるけどね、マコトは寝てたけど、だいぶ怖かったし。

 それに活州がレンの腹に穴を空けたのは知ってる訳だから、当然身構えるというものである。



「……それ、界素カイソの流れを高める薬。もしかしたらまだ調子が戻って無いかもしれないから、一応渡しとく。……飲み過ぎると色々、ハイになるっていうか、危険だから気をつけて」



 活州はそうポショリと言って、また清光の方に戻って行く。

 薬? いや、ハイになるとかそっち系の危ないやつじゃないのか、大丈夫かそれ……



「──来次くん。その左手、俺以外に取られるなよ。あとそれから、



 つまり、彼はこれ以上、新学期までこの事について話すつもりも、僕に会うつもりも無いと言いたいのだろうか。



「──お前にもやらねえよ。



 今日の昼休みに似たような事を言われたのを思い出して、僕も合わせて似たように返した。


 清光は小さく頷くと、少し引き返して別の道から帰っていった。


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