第22話:第一章 18 | 選定試練・0《セレクトゲーム・ラブ》⑥


◆ narrator / 清光キヨミツ 明良アキラ

───────────


 来次と別れて合流地点に到着すると、宝石も唯も消えていた。



「──唯がいない? なぜだ、当初の予定ならまだ……」



 俺をここで待っている時間帯の筈だ。

 まだ明松を探しに行くタイミングじゃないし、もし彼に先を越された場合も、宝石は諦めて深追いはしないように指示を出しておいた。


 戦闘をするにしてもこの付近だけの予定だった。

 なのに全く影も形も無い。



「さっき来次くんを視直みなおしたばかりだけど仕方ないか」



 唯が光弾を投げた事で付いたであろう、壁の傷跡を見る。


 その情報を使って『予知』し、現状の展望まで追い付いた。

 確度が高い線を数本ピックアップして、推測を立てる。



「……なるほど。明松くんに上手く乗せられたな? 合流のタイミングを遅らせる為に逃げてるってとこか。……なかなか厄介な線に入ったな、これは」




 こうなると安足さんは間に合わないな。


 として、──



 ──そう自然に思う自分に気付いて、焦る。

 だんだんと、見境が無くなっていく。


 予知を使えば使う程に。

 日に日に、確実に大事なモノが見えなくなっていく。



「なんで、当たり前のように諦めてるんだ? 俺は─」



 でもそれを仕方ないと思えてしまう自分がいる。

 何を捨て置いても神様に成りたいと、毎回その思考に帰結してしまう。


 そして同時に安足さんの失格が確定した現状を好機とも感じる。

 もうどう足掻いてもそこに手は届かないのだから、諦めて予知のリソースを残りの四人に回せる。



「──だいたいの線で同じ場所を走ってるな。つまりそれしか明松くんが取れる選択肢は残って無いって事だ。理由は何だ? 唯が負わせた負傷か? これなら簡単に先回りできる……」



 気付けば胸に抱いた動揺と迷いが消えて、変に冷静な思考を取り戻していた。



「行こう。安足さんには後で謝ればいい、それでいい」



 俺は大丈夫だ。まだちゃんと大切なモノにも気を配っている、だから何も問題はない。



 そう自分を納得させる為に一言漏らして、俺は二人を先回りするべく走り出した。




 ◇

 ◇

 ◇




◇ narrator / 明松カガリ レン

───────────


「止まれぇぇぇぇぇッ!! 明松ィィィィィッ!!」



 怖い。ひたすらに怖い。

 女子が出していい声音じゃないぞさっきから。



 俺が張った熱の壁に怯む事なく、活州はこちらに向かってくる。


 狙い通りではあるが怖すぎる。

 正直、少しは怯んでほしかった。


 活州が言っていた通り、俺には腹部に受けたダメージがまだ残っている。

 かろうじて傷口が塞がれて、見かけだけ繕われている状態。


 だから全力疾走はそう長く続かない。

 この入り組んだ迷路と願能を利用して時間を稼ぐしかない。



「止まるかこのヤンギレ野郎! そんなに喋ったら口の中が火傷すんだろ! 頭おかしいんじゃねぇのか!?」



 彼女は最初に西門で襲ってきた時とは違い、熱などお構いなしで喋っている。

 引き返されないよう、あの時よりも低めの温度にして追いやすくしてるのもあるが、怒りが傷みを凌駕しているのか?


 そして火傷した端から能力で治癒していく。

 くっそ超こええ、何だよこれ。ホラー映画かよ。



「るっせえッ! いいから殴らせろ!!」



 活州はそう言うと光弾を作って投げつけてくる。

 今までとは違い、狭い迷路内では簡単に弾道を逸らせない。


 やむなく脇道を曲がって線上から逃れる。

 ここであれを投げられたらこうやって避けるしかない。



「殴るんじゃねえのかよ! 投げてんじゃねえか…!!」



 ──さてどうする?

 このまま逃げても追い付かれる。

 いっそ戦うか、でも……


 活州の体温を直接上げてもまた自らのエネルギーに還元される。

 それなら冷ましてみるか?

 だがそれでも、


 接近してこちらが触れる前に、先にあの拳を食らったら?

 確実に、また俺の腹には穴が空くだろう。


 西門では一度あの拳を避ける事ができた。

 だが、今の俺の体調でもう一度かわせるか? 身体能力を底上げしている活州の拳を?


 かわせなければ宝石も取られ、清光と合流されてゲームに負ける。



「ほらほらぁ! また避けなよッ……!!」



 活州がもう一度光弾を投げつけた。

 再び、どうにか身をひねって別の脇道に入る。


 そして、その動きは俺の腹部に響いた。



「………ッ!!」



 やばい、これはマズい。

 いつまでも走れないとは思っていたが、今の動きで更に限界が近付いた気がする。


 粘りまくって、隙を見て来次か真琴と合流したかったが、それまで俺の走力は保たないだろう。



「──やるしかねえよな、もう…」



 こうなればしょうがない。

 どうにか活州に触れて、動きを止めるしかない。


 覚悟は決まった。

 活州の動きを見てる内に、どうにか一瞬だけなら彼女の動きを上回る策も思い付いた。



 ……次に活州が光弾を投げた時が勝負だ。


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