第11話:第一章 7 |『低燃費少女』②


◇ narrator / 明松カガリ レン

──────────


「──2人とも先に行け! マコトを起こすんだ!!」



 理事長と来次キスキを突き飛ばし眼前の活洲イケスを見やる。


 こいつマジか。あれだけハデに火傷やけどさせたのにもう回復した。


 ここまで早く治る奴はそう居なかったぞ。

 それこそ元々ヒーラーと呼ぶべき、おあつらえた『治癒系』の願能持ちで何人か見たくらいだ。


 認識が甘かった。

 まさかここまで早く襲撃されるとは思わなかった。

 新学期までは準備する時間があるものとタカをくくってた。


 そこまで考えたところで背後から「ごめん、先に行く!!」と声が届いた。



「行かせるわけないだろうが!!」



 それに反応した活洲が光弾を投げる。

 準備不足がたたって今の俺は瞬間的に遠距離の温度を変えれない。

 ここまで来次を護衛してきて、どれだけその準備不足を痛感した事か。


 ただそれでも、いくつか手はある。


 前回までの二発の光弾は、遠距離の見えない位置から投げ込まれたから反応が遅れた。

 だが正面から対峙している今なら、こちらに到達するより先に弾道を読める。


 俺は弾道に手を置いて、そのまま上へと振り上げた。


 おかげで光弾の進路は僅かに上へとズレ、来次達に当たる事はなく、後方の壁にぶつかり弾け飛ぶ。


 ……最初、来次の部屋に投げ込まれた時よりも確実に威力が落ちてる。

 溜め込んだエネルギーとやらが尽きかけてるのか……?



「手を上げた時、温度を変えて上昇気流を作った。お前のその弾は、もう狙ったところには飛ばさせない」


「──チッ、邪魔するな! 退いて!!」



 活洲は腕で顔を覆うと、距離を詰めに踏み出した。

 その回復力を当てにして、俺が周りに貼った高熱の壁に突っ込み、無理矢理に突破しようということか。


 一口に1500℃の温度と言っても、その対象が気体か液体かでは触れる人体への負担は全然違う。

 気体の方が圧倒的に負担が少ないのだ。

 数値としては高そうに聞こえるが、理科の授業で使うアルコールランプなんかでも簡単に1000℃を超える。


 つまり活洲の言う通り、ずっと触れ続けるならともかく、のだ。


 顔を覆い、目と口を閉じて突っ込めば、眼球も肺も焼ける事は無い。

 あの驚異的な回復力を加味すれば、むしろ軽傷の部類に入るのかもしれない。



「退けっつってんでしょぉが!!」



 熱気の壁を突破された。

 活洲は声を張り上げると、拳を握って殴り掛かってくる。


 その動きが早過ぎる。普段の病弱な彼女からは想像できない身のこなしだ。

 恐らく溜め込んだエネルギーを還元して身体能力を強化し、飛躍的に動く速度を高めている。


 来次の部屋からここまでも、こうして進んで来たのか。



「──こっちだって行かせるわけねぇだろ!!」



 確かに早いが反応できない程じゃない。

 どうにかその拳を首を振って避け、そのまま右手で掴んだ。


 女子相手にやりたくはなかったが仕方ない。

 触れた活洲の体温を跳ね上げる。



「火傷を治されるなら、痛みで気を失うくらいに高めてやるよ…!!」

「馬鹿が! 言ったでしょう? って…!!」



 上げた筈の彼女の体温が急速に冷め、常温に戻っていく。

 嘘だろ? ありえない、絶対におかしい──




 ドスッ、と、やけに鈍い音が耳に付いた。

 遅れて、口の中に湧き上がる何かをそのまま吐瀉としゃする。



「………ッ、ぶぁあ、くそが、これ」



 動揺した瞬間に手を振りほどかれ、そのまま思い切り鳩尾みぞおちを殴られた。

 そしてその腕が、


 いま吐いたの全部、血か。



「空気とかそういうのは無理だよ。でも、私自身の熱を上げちゃあダメだね。




 来次達の後を追おうとしている。

 俺が上げた自らの体温を全部、自分のエネルギーに還元したのか。


 消耗していたエネルギーを補って余りある程に、全快させてしまったのか……


 温めるんじゃなく冷やすべきだった?

 でも もういまさらなにも


 やばい、いしきが──




「やっぱり、キヨミツの言う通り。相性が最高に良かった」



 キヨミツ? って確か…

 そうか。じゃあこいつも、俺やマコトと同じで──

 だからこんなにも願能の使い方がうまいのか。



「おまえ、は キヨミツを かみさまにしたいのか。そのためにみらいから──」


「……へえ、あんたはそうなのね、でも私は違う。悪いけど、来次 彩土よりも彼の方が神様に相応しいよ」



 くそ、いいかえしてやりたいのに。

 もうひとことも しゃべることができない──

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