【ストック50話以上】次の神様になってくれ ~色を変える能力を持った僕の、無茶で無謀な神様ダマし~

由木兼人

序章 少し未来のプロローグ

第1話:序章 1| その出会いは突然に


◇ narrator / 達身タツミ トオル

───────────



「──くっっそ! なんだよこれふざけんなよッ!!

 死ぬ死ぬシヌシヌしぬしぬッーーーー……!!!!」



 このまま落ちたら絶対に死ぬ。そう確信できる高さからの自由落下。

 正確な高さまでは分からないけれど、前に一度登った電波塔スカイツリーよりは明らかに高い。


 あと何秒で地面に叩きつけられるのだろう…?

 二十秒か? 三十秒か? ダメだ、そんな考えで時間を消費しては本当に死んでしまう。

 地面に激突するまでにやるべき事をやらなくては。


 俺は覚悟を決めて、背中にげた竹刀袋しないぶくろに手を伸ばした。

 そして息を整えて前を向く。



「ちくしょうッ! やればいいんだろやればッ……!!」



 目の前に広がる『巨大な柱』。

 それは空高くそびえ立ち、頂上は雲海うんかいの中に隠れきっていた。


 どのくらいの質量があるのかなんて分からないけれど、

 それでも俺は『コレ』をどうにかしなければならない。


 ……そう、この、今から俺は───、



「──ぶった斬ってやるッ……!!」




 ◇

 ◇

 ◇




 時間は少し遡り───、



「マジか、普通に正門しょうめんから入ったんだけどなぁ」



 真弾学園しんぜんがくえん

 俺が明日から転入する事になっている中高大一貫の私立学校である。

 今日はその真弾学園の下見をしに来た筈だったが、実際に正門をくぐると、一瞬前とは全く別の場所に立っていた。



「──これ鳥居とりいだよな? どうしていきなり……」



 そうだ間違いない。神社の入り口によくある、あの鳥居だ。

 ついさっきまで学校の昇降口しょうこうぐち学生寮がくせいりょうが見えていたのに、今は変わりに巨大な鳥居が視界にある。


 ふと足下を見ると、白くモコモコした不思議な物質が広がって足場あしばとなっていた。


 なんだこの白いの…? こんな不思議なモノ見たことが──いやまてよ? どこかで……

 

 既視感きしかんを感じながら白い足場を目で追って振り返る。

 背後の足場は途中から途切れていて、途切れた先には澄み切った青色だけが広がっていた。


 ……そう、比喩でなく本当に、途切れた先にはなにも無かった。

 建物も、通行人も、これからお世話になるはずだった通学路も、それらを含めた街並みも。いや──、

 正確にはが消えていた。


 代わりにあったのは青色だけ、そこで俺は気付かされた。

 どうりで白い足場に見覚えがあると思った。俺はこの白色と青色のコントラストを知っている。


 この白い足場はおそらく雲でできているのだろう。

 そして白い足場の先に広がる青色は空の色だ、つまり。



 ──なるほど、どうやらここは〝〟らしいな。



「これって、例の『』の方に来ちゃったって事か……?」



 少し焦ったがすぐに冷静さを取り戻すことができた。

 この『真弾学園しんぜんがくえん』がそういう学校だと、事前に知らされていたおかげだろう。



「けど、さすがに空の上にあるとは思わなかったなぁ……」


 

 白い足場の途切れ目から下の世界を見ると、さっきまで俺が居たノーマルな方の学校と町並まちなみが見えた。

 やはり文字通り空の上、さらには雲の上にある学校という事か。



 ……にしても高いな。

 これ落ちたらぜったい即死するじゃん。

 ビビりながら地上にある方の学校を眺めていると、背後から声が聞こえてきた。



「──良かったちゃんと居たか! そこのお前、達身タツミ トオルだよな…?」


「──そうだけど、いきなりなんだよあんた。

 どうして俺のことを知ってる? ていうか誰だ…?」



 駆け寄って来たのは一人の男子生徒だった。

 この学校の指定ジャージを着込み、左腕には安全ピンで白い腕章わんしょうが止めてある。

 雰囲気からなんとなく二年生タメのような気がした。



「まぁ普通そうなるよね、驚かせて悪かった。

 僕の名前は来次キスキ 彩土ハニ。お前が来るのを待ってたんだよ。

 全部説明してやりたいけど場所が悪いな。ここは見晴らしが良すぎるし…。

 ……とりあえず移動しながら話さないか? お互いのためにもここはすぐ離れた方がいいから──……」



 男子生徒、キスキはそう言いながら鳥居の向こうに視線を向けた。

 よく見ると、鳥居の向こうの足場はコンクリや木材でできていて、その上には普通に建築物が建っている。

 俺たち人間が立って歩けるのもそうだが、どうやって雲の上に建築物を…?

 なんて考えながら更に先を見ると、遠目に下の学校とデザインの似た、しかし恐らく何倍もデカいであろう校舎が見えた。


 やはり間違い無い。

 アレが『もう一つの学校』の校舎で、鳥居ここはその入り口なのだろう。

 しかし──、



「悪いけど、俺すぐ空の下したの学校に戻りたいし、わざわざあっちに行く理由も特に無いから──」


「──せろッ……!!!!」



 どうにかヤンワリお断りしようと言葉を選んでいると、急に背中を押されてそのまま地面にした。

 そんな俺たちの頭上を、光のたまのようなモノが凄いスピードで通り過ぎて行く。

 その光弾こうだんは鳥居の先の地面にぶつかり、そのままコンクリ―トを吹き飛ばした。


 もしキスキに押されていなければ、今ごろ頭に大ダメージを負っていたに違いない。



「──っぶねぇなぁッ!! なんだ今の! どうしていきなりッ……──!!!!」



 光弾の来た方向に目をやると、そこには一人の女子生徒の姿があった。

 キスキと同じ学校指定のジャージを着込んでいるが、腕には白色ではなく、赤色の腕章を付けている。


 ……今の光る弾はなんだ? もしかしてあの女子生徒がなにかしたのか…?



「チクショウ!! 赤組あかぐみのヤツら もう追い付いて来たのかよ!

 タツミ、ここに居たら巻き込まれる! 悪いようにはしないから僕に着いてきてくれッ……!!」


「はぁっ!? イヤだね! 俺は下の学校したに戻りたいんだって言ってんだろうが!!」



 キスキはそう言うとけにすぐさま走り出した。

 俺の言葉なんて全く聞いてないらしい。

 彼を目で追っていると、背後から再びさっきと同じ光弾が飛んで来た。


 今回は警戒していたおかげで自力で回避できたが、それでもかなりギリギリな軌道きどうで、俺の鼻先スレスレを通過して行く。


 光弾はそのまま再び鳥居の先の地面コンクリにぶつかり、先ほどよりいっそうド派手な音を立てて、木端微塵こっぱみじん地面ソレを吹き飛ばした。

 爆ぜた地面がまるで散弾さんだんのように四方に飛び散るが、こちらは見切ったわけでもなく、完全に運が良くて被弾ひだんしなかった。



 ──こっえぇなぁもう…! なんなんだよッ……!!

 ……てか今の光弾やつさっきより一回り大きくない!?

 しかもどっちかと言うと俺の方にエイム寄ってたよな?

 どうして!? ねぇ俺なんか悪いことした!?!?


 ほんとは下の学校に戻りたいけれどしょうがない。

 チラッと見えたが光弾は間違いなくあの女性徒がだ。

 つまり能力的にも性格的にも『そういう事ができるヤツ』なんだろう。

 そんなヤツが話し合いに応じてくれるとは思えない。


 俺は逃げるしかないと結論付けて、先導するキスキの後を追って走り出した。

 


「おいタツミ! お前って


「──できるけど慣れてないッ……! 一瞬いっしゅん 止まってめがいるッ…!!」


「──それでいいッ……! 合わせるから止まってくれッ…!!」



 前を走るキスキから言われ、俺はその言葉の意味を理解した。

 俺は加速するために一度止まり、同時に背後を確認する。

 3発目の光弾はすでに発射されていて、俺が足を止めたせいもあって衝突しょうとつまでもう2mも無かった。


 同時に女生徒との距離もちぢまっていた。

 接触まで6mくらいだ。これはマズい。



 光弾を避けなくては頭が吹き飛ぶ。

 光弾を避けてから足の溜めをやり直しては女生徒に追い付かれる。

 どちらもアウトで先がない、けれど───、



 けれど俺には一つだけ打てる手がある。

 気付けば俺は無意識に、背中にげた竹刀袋しないぶくろに手を伸ばしていた。

 必ず返すと約束して果たせなかった、命より大事な預かり物に。


 中身を抜いている時間は無い、このまま振り抜く。

 刀身が出ていなくても問題ない。

 この程度のモノを俺が斬れないわけがない。

 あの時あいつを斬れてしまったのに、コレが斬れないわけがない。


 ──大丈夫だ、覚えている。

 何度も繰り返し言われた教えを思い出しながら前を向く。


 最適な動作を選択しなければ助からない。

 斬る動作に使うのは上半身だけ。

 微妙な力を入れ、斬り裂いた光弾を身体の左右後方に流す。

 その間、下半身は加速するための力を溜めながら待機。

 光弾コレを避けずに斬り裂いて、足に力が溜まり次第しだい、そのまま加速して全力で走る。



『〝──── れ ろ ッ……!!〟』



 俺は心の中で言いながら竹刀袋を振り抜いた。

 事前に頭で作った動きを追従トレースして、目の前の光弾に一太刀を入れる。

 光弾は〝スパッ〟という音と同時に、予定通り半分にれた。


 ……よし、あとはこのまま足に力が溜まるのを待って走り出すだけ、そう油断した瞬間──、

 一つだけ、一つだけ予定外で、そしてとても致命的な考え違いに気付かされた。


 光弾を斬り裂いた事で発生した突風、それによりあつきりのように巻き上がった足場の雲。

 その白い雲を目隠しに、いきなり視界に現れた女生徒の姿。

 接触まで残り1mもない。

 予定外の急接近。本当に目と鼻の先に到達されていた。



 ────はっ? 嘘だろッ───……!?

 追いつかれる、マズい! 足の溜めがまだ終わってない……!!



 早すぎる、目測よりも圧倒的に早かった。

 もしも俺が足を止めて無かったら、光弾を追い越して先に俺に追いついていたのは彼女の方だっただろう。


 仮に身体能力で負けていたとしてもこの距離の詰まり方はありえない。

 つまり彼女は、光弾を飛ばすだけでなくて『そういう事もできる』のだろう。


 ヤバいぞどうする。

 思考が全く追い付かない。

 なのに女生徒はすぐ目の前、絶対に間に合わない。


 俺が混乱している一瞬、女生徒は更に距離を詰め、こちらに腕を伸ばしていた。

 捕まるまで一秒もない。もう逃げられない、なら──、


 ──逃げ切れない、だから。

 そう理解した瞬間、俺は竹刀袋を握る手に力を込め直していた。


 そうだ、間に合わないのなら。

 



「〝──── わ れ ッ……!!〟」



 一瞬 そんな考えが浮かんだが、背後からの大声で気が散らされた。

 今のはキスキの声だ。『 変われ 』と言ったのか? どういう──いや。

 今はそんな事に気をやっているヒマは無い。


 キスキの声で思考が止まったのはほんの一瞬。

 すぐに目の前の女に意識を戻した、けれど。

 けれどその一瞬で、女の手は俺の制服のえりに届くまで残り僅か、ほんの数センチというところに来ていた。

 もう何かを斬る時間なんて残って無い。


 あぁ、これは無理だ。今度こそ終わった。

 最後の判断を間違えた。非情になり切れなかった。

 こんな簡単に終わるなら、俺は故郷を出るべきじゃなかった。

 あいつが居ないあの家で、孤独に生きてるべきだったのかもしれない。


 覚悟を決めて目の前の手を受け入れた、その瞬間──、

 どうしてかは分からない。なぜなのか、理由は分からないけれど。


 なぜか女の手はカラぶって、俺より少し手前の、

 


 ───…え? どうしたんだ、なんで……?



「───今だタツミ! 早くしろッ!!」



 再び背後からキスキの声が響く。

 俺はその声で我に戻って、すぐに自分の足を確認した。

 大丈夫だ、力は溜まった。走り出せるッ…!!


 女生徒は空中を掴んだ事でバランスを崩しフラついていた。これなら逃げ切れる。

 キスキに視線をやると、それで俺の意図が伝わったようで、俺たちは同時に走り出した。

 そのまま二人加速して、全力で並走する。



「あぶなかったなタツミっ! 大丈夫かッ…!?」


「ギリギリな! あの女なんだよ怖すぎるだろッ…!!

 俺なんにも悪いことしてねぇのにさぁっ……!!!!」


「そりゃお前も『白組』だからな!

 さっき言ったろ! 『お互いのためにもここはすぐ離れた方がいい』ってッ…!!」


「はぁ!? 分からんわッ!!

 さっきから『赤組』とか『白組』ってなんだよ!

 アンタらが勝手にめてるんなら俺を巻き込まないでくれッ…!!」


「いや他人事ひとごとみたいに言うなよ! 登校は明日からでも、お前もうこの学園の生徒なんだろ? いちおう学校行事だぞこれッ…!!」



 がっこうぎょうじ…?

 学校行事と言ったのか? これが!?



「嘘だろッ…!? こんな命懸いのちがけなのが?

 冗談やめろよ! どんな行事だってんだ、これ──」


「黙って走れ、追い付かれるぞッ…!!

 ──だよ、!!」



 キスキはこちらを振り向きながらそう言った。

 ……いや、こちらというより、俺より更に後ろから追ってくる女生徒を警戒してるのだろう。



「──体育祭!? これが!?」


「そうそう! 体育祭の2日目、今やってる種目は『棒倒ぼうたおし』だ!!

 あれ見えるだろ? あのデッカいやつッ…!!」



 キスキは走りながら前方を指差す。

 その先には言葉では言い表せない程に巨大な、『二本のはしら』が立っていた。


 片方が赤色でもう片方が白色。

 二本の柱は同じ大きさのようだが、本当に巨大過ぎて距離感がバグり、どれほど遠くにあるか判断に困った。

 しかしどうやら、もう一つの学校の校舎の敷地内にあるらしい。



 ──赤と白? それってキスキと、背後から追ってくる女子生徒の腕に着いてる腕章と同じ色だよな……?



 キスキは二本の柱を交互に指差して、俺が心の中で『もしかして』と思った通りの事を言いだした。




 タツミ、長旅ながたびで疲れてるところ悪いんだけど、あれさぁ──」



 いやあんなデカいのもう『棒』じゃないだろとか、

 そもそもデカ過ぎて倒すの絶対に不可能だろとか、

 どうして俺が長旅で疲れてるの知ってんだよとか、


 ツッコミたい部分は沢山あったが、続く彼の言葉でそれらは全部吹き飛ばされてしまった。

 



「──


「──で き る わ け ね ぇ だ ろ ッ … !!!!」




 ◇

 ◇

 ◇




 これは少し未来のはなし。

 出会った瞬間に無理難題を押し付けてきたクソ野郎との出会い。

 俺が、来次キスキ 彩土ハニと初めて出会った日の物語。



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