第10話 九日目の夜、十日目の朝

休暇九日目、日曜日。


松山から東京へ移動し、夕飯を食べ終えた後、背中を流したいと二人での入浴を希望した樹里が、浴室の扉を開いた。


ガチャリ


「咲さん、まだですか?」


私は、体だけの関係にはならない!、頭の中でそう叫ぶと脱衣所に入って行った。


浴室に入ると樹里が火照った体で待っていた。


「お風呂、二人で浸かれるサイズがあるんですね。幸せサイズですね」

「二名入居可能な部屋だからね」


「今度、ご飯作ってもいいですか?」

「いいよ。お願いします」


「ねえ咲さん、期待で勃っちゃってるんですか?」

「えっ」


樹里の視線の先を見ると、確かに私の乳首はピンと立ち上がり、その存在を主張していた。


「きれいで可愛らしいですね」


樹里に言われると恥ずかしくなってしまう。


私が樹里のそれを見ると樹里も同じように隆起していた。


お互いに少なからず意識していて、あとは動機が愛ならば嬉しいのだが……


樹里が探るように私の顔を見ている。


「咲さん、我慢してますか?」


「うん……」


「なぜですか?」


「今は体の関係を持っちゃいけない……」


「そうですか」



「背中洗いますよ」

「うん」


「ボディーソープください」


樹里の手の平に出すと背中を向けた。


樹里は首筋、耳の後ろから始めて、首と背中、そして腰まで、優しく洗ってくれた。

私もボディーソープを手に取ると同じように樹里を洗った。

すると樹里が振り返り、鎖骨の辺りから体の前を洗い始めた。


心が期待で勝手に踊り始めた。


私も真似して鎖骨を洗い、乳房を洗い、お腹を洗い、そしてお尻を洗うと片足ずつ洗った。


そして樹里は自分の手に付いた石けんを洗い流し、私の手からも洗い流すと、下腹部をきれいに洗い始めた。


私は刺激に耐えきれず、何度も腰を折ったが樹里は辛抱強く洗いきってくれた。


次は私だ。樹里の真似をして、周辺を洗い、ヒダを一枚一枚洗い、手前の穴と奥の穴の回りをよく洗い、最後に真ん中の穴のそばに指を運んだ。


すると私の肩を掴んでいた樹里の口から甘い吐息が漏れた。


禁欲と言ってもよい生活をしていた私には非常に官能的な吐息だったが、何とか無視してゆっくりと指を動かし、きれいにするとお互いの泡を流した。


私はバスタブの縁に腰掛けると樹里が頭を洗い、洗顔する様子を眺め、浴室を出てから自分も洗った。


さっきはたったあれだけの触れ合いだったが、私には十分に気持ちが良かった。

戸惑いつつも私への愛を樹里からもらった気がする。


リビングでエアコンから吹き出す涼しい風を浴びた後、ドライヤーを出して樹里の短い髪の毛を乾かした。そして樹里に私の肩までかかる髪を乾かしてもらった。


テレビで天気予報を見ながら歯を磨き、ディズニーへ行くのは問題ないことを確かめた。


「ねぇ樹里。ランドとシー、どうしよっか?」

「うーん……」


「そしたら、今回は初めてだし、両方を一日ずつでどうかな?」

「そうですね。そうします」


「じゃあ、チケット取らせてね」


私はディズニーのサイトにログインすると1dayパスポートを購入し、ホテルミラコスタの部屋も一晩予約した。


「早いけど、ベッドに入ろっか?」

「そうですね、布団ありますか?」


「ごめん、ベッドかソファーだな」

「私、ソファーでいいです」


「一緒はいや?」

「狭いじゃないですか」


「セミダブルなんだよね」

「なんで!?」


「恋人が出来たらと思って買ったからさ」

「残念でしたね」


「まぁ広々で良かったよ」

「見せてください」


寝室の扉を開けると樹里に見てもらった。


「これなら大丈夫ですね」

「うん、そうでしょ」


樹里に先に入ってもらい、私はテレビや電灯のスイッチを切り、隣に入った。


「咲さん、明日は何か予定があるんですか?」

「外出したいなとは思っているけど、体調次第かな」


「朝八時にアラーム鳴らすよ」

「はい、分かりました」


「よしっ、寝よっか」

「はい、おやすみなさい」


私は目を閉じた。私の匂いがついている掛け布団。使い馴染んだ高さの枕。

タオルケットと毛布は樹里に渡してある。


私は熟睡するが樹里はどうなんだろうか。

気になり目を開けてそっと隣を見ると、樹里が私を見ていた。


「今日の咲さんは人格者みたいですね。おサルの咲さんはどこに行ったんですか?」


私は何とか微笑みを作ると返事を考えた。


「私が愛に応えないから我慢しているんですか?」


「そうだね」


「私が抱かれようとしているように見えるからですか?」


「理由は分からないけど、そう感じた」


「すごい理性ですね。じゃあ、寝ますね。おやすみなさい」


「うん、おやすみ……」



その後、夜中と明け方に一度ずつ目覚めたが、樹里はぐっすりと眠っていた。


翌朝、アラームが鳴り、手探りで音を止めると、すぐには起き上がらずに少し横になっていた。


このまま、目を閉じたらもう一度眠れそうだ。

そう、うとうととしていたら、唇に柔らかくて気持ちのいいものが触れた。


樹里……


「おはようございます。起きますよ、咲さん」


「うん、おはよう♪」


ほんのりと幸せな朝を迎えた。



ベッドから抜け出した二人はカフェへ行くために着替えと軽くメイクをした。

そしてエントランスを出ると左にワンブロック分歩き、カフェに入った。


「このお店、よく来るんですか?」

「そうだね、ここで食べたり、テイクアウトしてね」

「近くていいですね」

「でしょ。ここでバイトしたら?」


「皿洗い一日体験とか?」

「そんな訳ないでしょ。もっとちゃんと長くだよ」

「うちの両親と何か話したんですか?」

「ん、んん……」


「見送りの時、父が頑張ってこいとか、母が連絡くれとか言ってました」


「よければ、と言うよりかは是非何だけど、一緒に住みながら働いて暮らそうよ」

「そんなことだろうと思っていましたよ」


「そのためにも失恋はしたくないから、恋愛要素を減らしたいんですよね」

「うん」


「夕べは私もシたかったのにな……」

「そうだね、シたい時にスルっていうセフレって関係もあるね。夕べは想像出来なかったけど」


「まぁ一時の気の迷いが原因で、居心地が悪くなるなんて嫌なので、恋愛や肉体関係は無いほうが良さそうですね」


私は分かっていながらも、改めて樹里に言われると気落ちした。


そんな私に気付いたのだろう、樹里が言った。


「まぁ私は咲さんの妹みたいな歳なので、お姉ちゃんへの親愛の情として、キスやハグ、そして手つなぎや腕組みをしてもいいと思いますけどね」


「♪」


「じゅりちゃ〜ん♪」



(つづく)

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