ハジメとアンリ

tk(たけ)

第1話 出会い

夏季連続休暇……


今年も会社からは、有給休暇の取得推進のために、七月から九月末までに十連休以上を取得するよう奨励があった。


単身赴任者達は喜んでお盆の時期を挟むように連休を取る。

役員クラスも不在になるので社内会議も無い。


ヒラで独身で特段の帰省先も無い私は、昨年はお盆の時期に土日で挟んで九連休を取得したが、今年はもう一週間追加して十六連休を取ることにした。


「咲(さき)、来週から連休だっけ?」

「そうだよ」

「いつまで?」

「十六連だから再々来週の月曜になるのかな」

「完全にボケるね」

「うん、休み明け一週間は役立たずだと思う」


「どっか行くの?」

「うん、四国」

「お遍路?」

「違うよ。子供の頃に行った事があって。そこら辺にもう一度行って、ゆっくりしてくる」


「へぇー。麦わら帽子被って戻って来そうだね」

「山のイメージ?」

「そう、海とかあったっけ?」

「島だからね♪、周り中が海だよ」

「美味しいもの、食べておいでよ」

「そうだね、そうするよ」


私達はお弁当箱を洗いに給湯室へ行き、トイレに寄ると午後の仕事に備えて事務室へ戻った。




休暇取得前の週、見えている仕事はすべて終えると、メーリングリストに資料の保管場所を流し、会社をあとにした。


明日は荷造りを済ませて発送すれば、当日はデイパックだけで済ませられる。そんな事を考えながら車中は揺られて帰った。




出発当日、今回は午後の便にした。

手荷物検査を早めに済ませるとコーヒーを片手に発着する飛行機を眺めながら頭を休める。


今日は出張では無いので、紙資料もPCも無いし、折衝のシミュレーションもしなくていい。


待合席の一番前、テレビからも遠い場所に一人で座り、ゆっくりと移動する飛行機を努めて無心に眺める。


しばらくそうしていると私の搭乗便の案内が流れ始めた。

定刻どおりのご案内か……

残っていたぬるくて酸っぱいコーヒーを飲み干すと、リュックを背負い搭乗口に向かって歩き始めた。



飛行機が離陸してしまうと滞空時間は一時間ほどで、着陸態勢に入った飛行機は無事に松山空港へ降りた。

私は出口を出るとレンタカーのカウンターへ行き、予約していたコンパクトカーを借りた。

そしてきれいな国道を走ると松山市街に入った。


今日のホテルは最上階の大パノラマ風呂が売りのビジネスホテルだ。

駐車場へ車を駐めるとフロントでキーとキャリーバッグを受け取り部屋へ入った。


扉を開けた正面には大きな窓とベッドが二つ。その横に椅子が二脚とテーブルがあった。

この部屋はツインルームなので比較的広い。

快適性が上がるようにちょっとだけ余計にお金を払った結果だ。まぁ満足だな。


時計を見ると四時半。

まだ飲食店が開くには早い時間だった。


私は暇なときにいつも覗いているアプリを立ち上げた。

すぐに顔写真が並ぶが、今いるのは愛媛の松山。

検索条件を変更した途端に画面から人が消えた。


残ったのは一人。でも顔写真が無いし、プロフィールもあまり書いていない。

まあ駄目で元々と思いメッセージを送ってみた。


すると返信が来て、サイトメールでは無くてg-mailで話の続きをしたいと書いてあった。

私はその指示に従いg-mailに送るとその返信はお金の話だった。ゴム有りニ万。生NG。ホテル代別途。二回目以降一万でOK。


私は女で女性パートナー募集だから普通はこんな話にならないのだけれど、今回は検索に女同士と入れずに探したので、男性相手だと勘違いされてしまった。


でも同じようなお金を用意すればいいだろうと考え、待ち合わせ場所を決めた。


ホテルの入口を出て、歩いて目抜き通りを目指す。

待ち合わせ場所はパチンコ屋の前。

服装を送ってほしいとメールが来たので、黒のシャツにベージュのパンツ、髪は茶色のミディアムと書いて送った。


すると程なくしてワンピースを来た少女と呼びたくなるような若い娘が近くに立った。


スマホが震えたので見てみると、女性?と質問が着ていた。

その質問に、そうだよと答えるとワンピースを着た娘が話しかけてきた。


「サイトから連絡くれたハジメさんですか?」

「はい、そうです」

「アンリです。私、女性とは初めてなんですけど」

「駄目ですか?」

「いいですよ、行きましょう」


彼女の案内に従って脇道に入るとホテルに入った。


「さあ、シャワーを浴びましょうか」


服を脱いで一緒にシャワーを浴びると体を拭いてベッドに座る。


すると隣に座った彼女が唇を合わせてきた。

柔らかくて気持ちいい……

私からも唇を求めて、その気持ちよさに意識が奪われそうになった頃、彼女が唇を離して話しかけてきた。


「キスに飢えてたんですか?」

「そう」

「ほかに何して欲しいんですか?」

「えっちなこと。たくさん」

「わかりました」


それから彼女は全身を舐めてくれた。私はされるがままに身を委ねていたが、絶え間なく続く弱い刺激に我慢しきれなくなり彼女にお願いした。


「もう我慢出来ないの」

「何がですか?」


太ももの辺りから私を見ながら、意地悪を言う彼女を顔の前まで引き上げるともう一度お願いした。


「触って」

「どこ?」

「あそこ」


笑顔で分からないといった顔をしながら私を覗き込む彼女にキスをすると、彼女の指をあそこまで導いた。


「ここ。ぐちょぐちょで我慢出来ないの!」



私は彼女を抱きしめながらその指からくる刺激を堪能し、昇り詰めた。



「女同士が好きなの?」

「そうね」

「男の人は嫌い?」

「恋愛対象外だね」


「どこから来たの?」

「東京」

「へえ、観光?」

「そんな感じかな」


「いいなあ、東京」

「そうかな」

「うん、いつか行ってみたい」

「観光で?」

「なんだろね……」


「昼間は働いてるの?」

「ううん、これが仕事」

「儲かるの」

「まあ、それなりに」


「ねえ」と私が言い始めたところで「まだする?」と聞かれた。


「うん、一緒にシたい」

「一緒?」


私は彼女の股に手を伸ばすと優しく触った。


「私のもシて」


二人でお互いを刺激し、大小の波に飲み込まれながら女性同士を楽しんだ。


「女同士って気持ちいいね」

「明日も会う?」

「私のは仕事だよ」

「昼間は何してるの?」

「家にいるよ」

「観光ガイドで雇うよ」


「いいね、やってみるよ」

「じゃあよろしくね」



翌朝、駅前のロータリーで彼女を拾うと、道後温泉に行った。

車を降りて街並みや本館の建物をスマホで撮ると温泉に入った。


「ふぅ……。しみるねぇ」

「何歳なの?」

「二十七」

「へぇ」

「へぇって何よ」

「落ち着いてるし、飢えてたからもう少し上かと思った」


私は彼女の乳房をキュッとつまんでやった。


んッやんッ!


色っぽい声が響いた。


「アンリは何歳なの?」

「もう二十ニ……」


「もうって、まだでしょ?」

「周りに無職なんていないよ。結婚している娘もいるし」

「そっか」


「夕べのいつからやってるの?」

「三ヶ月ぐらいかな」

「どう?」

「いまいちかな……。安心して会える相手が少ない」


「あれならお店に入れば?」

「顔バレが困るんだ。小さい街だし」


「ねぇ、この後、どこ行きたい?」

「お昼ごはんかな?」

「私のご飯代ってどうなるの?」

「ご馳走するよ」

「ありがと♪、予算は?」

「一人二千円以下かな」


「すごい!、お金持ち!、ハジメさんて何してるの?」

「ただの会社員だよ」

「東京ってお給料がたくさん貰えるんだね」


「違うよ。私が無趣味だからお金が貯まるだけ」

「そうなんだ。恋人も居ないしね」

「何よそれ!」


やぁんッ!


「乳首が痛くなっちゃうよ」

「アンリが余計なこと言うからよ」


「アンリだって居ないでしょ」

「今はね。高校生の頃はいたよ。私、モテたもん」

「くっ」


「ハジメさんはモテる?」

「つまむよ!」


「止めて!、そうなんだ。でも誰からモテたいの?」

「女性」

「いたことあるの?」

「ない……」


「彼氏は?」

「ない……」


「昨日は初めて?」

「そう」


「じゃあ、今日は添い寝してあげよっか?」

「いくら?」


「二回目だから半額の一万円」

「この観光ガイドは?」


「同じく一万円」

「だよね」


「アンリはこのお金どうするの?」

「生活費だよ」


「家族は?」

「飛び出してるから居ないも同然」


「一人暮らし?」

「まあね」


「私には想像出来ないかも」

「いいよ。ハジメに同情される話じゃないし」


「ハジメ、体を流してご飯食べに行こ」

「うん」



外へ出たハジメ達はアンリの案内で、ジャコかつのお店の前で止まった。


「これ、ジャコ天をかつみたいに揚げてあるの。食べてみる?」

「ジャコ天って?」

「魚のすり身を固めたやつ」

「どうしよっかな」

「一口あげるよ。一枚買って」


私が一枚買うとアンリがパクリと大きくかじった。


「うん!、美味しい。ハジメもどうぞ」


アンリがかじって尖ったところを食べてみた。


「美味しい!」

「でしょ、ジャコ天はお土産にもおすすめだよ」


私はもう一口貰うと、一つの食べ物を二人で一緒に食べる事を、密かに楽しんだ。


「ハジメ、何かニヤついてるよ」



それから少し路地裏に入るとアンリがお店を見つけた。


「海の幸を炭焼きで食べる海鮮バーベキューとかどう?」

「いいね」


お店に入ると食べたい物を選んで焼いた。

アンリは手際が良かった。


(つづく)

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