フィンガー•オンリー•ゾンビフィーバー

私は柳川、大学生だ。 怪談サークルの資料集めの一環として、山下と図書館へ向かっている。


 「これはどうだ? 柳川、大学周辺を殺人ドローンが旋回しているらしいぞ! 解体して更なるサークルの発展へと繋げるべきだ!」

 「部品を売り捌きたいだけだろうが、もう少しストーリー性のある怪談を探していくのが良いんじゃないのか?」 殺人ドローンも惹かれるものはあるが、怪談としては弱い気がする。


 「この辺りにストーリー性のある怪談なんてあったかなぁ」 そうこう話している間に図書館が見えて来た。 山折市最大の図書館であり、8階建ての巨大な建築物である。 カードを受け付けに通し、中へと入る。 その時! 

 

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉあ!!」

 図書館内に絶叫! 阿鼻叫喚! 響きわたる足音! これらから導き出される答えは、、、、


 「怪異だ! 山下ぁ!!」

 「どんとこい怪物共ぉ!」

 怪異から来てくれるのはありがたい、探す手間が省けるからな!


 足音がだんだんと近づいてくる、三、二、一、私達の目の前にはゾンビの指が現れていた。 指は的確に私達の顔を目掛け、フィンガークローを繰り出した。 私は突然のことに驚き対処が出来ず、あっさりと捕まってしまった。


 「ぐぉおぉ…….やまふぃたぁぁぁぁぁぁ」

 人生の中でも五本指には入るだろう失態だ。

 「今助けてやる! 待ってろ相棒!!」

 山下が指を掴みにかったのが辛うじて見えた。 山下は一本ずつ指を投げ飛ばしていき、私の顔に付いていた指達は床との衝突で全て破裂した。 山下には後で昼食でも奢ることとする。


 それにしても指だけのゾンビって存在意義があるのか? 輪廻転生があったとして、こいつに生まれ変わるのだけは嫌だな。 周りを見渡すと、他の図書館に来ていた方々も襲いかかって来た指を撃退したらしく、破裂の跡が残っていた。


 こんなしょうもないストーリー性の欠片も無い怪異に時間を取られたと思うと腹も立ったが、まずは勝利を祝うべきだろう。 客の一人が雄叫びを上げるのが聞こえた。 それに呼応するように私達以外の客が次々と雄叫びを上げる、何かおかしいぞ?

山下をせかし、足早に図書館の外へ飛び出した。


 図書館は破裂した。

 雄叫びが上がる、客たちは寄せ集まり生物の形を作っていった。 巨大なゾンビの指になり、こちらに狙いを定めているようだ。


 「結局指だけじゃねーか!」

 「他のパターンは無かったのか!」

 「恥を知れ!」

 つい二人して暴言を吐いてしまったが、指は指でもこれだけデカければかなりの脅威だ。 山下が破裂した図書館から本を拾い、指に投げつけていたが、効果はありそうにない。 


 私は故郷で起こった出来事を思い出した。 草薙剣、客達の無念を糧として、もう一度呼び出すことが出来るかも知れない。


 「山下! 本を投げて渡してくれ!」

 「ほらよ、何か良い案でもあるのか?」

 この一冊に犠牲者達の無念を込める。

 「哀れにも指に殺された一般市民の方々、力を貸してくれ!!」


 本は光り、八尺鏡へと姿を変えた。 私は指のフィンガークローに合わせ、鏡を突き出した。 自分の力を反射された指は空中分解し、塵となって消えた。 山下が驚愕に顔を歪め、私に握手を求めた。 祝杯は「ゾンビ」を鑑賞しながら挙げることにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る