第10話 法術戦の果て
ガルディに拘束されてしまった俺達だが、手枷を嵌められ連行される中、黒い魔道服を身に纏った初老の占い師とすれ違った。そいつと目が合うと薄気味悪い笑みを浮かべるのが気になっていた。
「ガルディ様……ちょっとお耳を……」
ダリルはそう云って耳打ちをすると、ガルディは驚いた様な顔をする。更に耳打ちするダリルにガルディは頷き2人は顔を見合わて笑った。
「ちょっと待て……」
「おい、男……お前だ、こっちに来い……」
「何? ガートに何をする気?……」
ガルディは連行する兵士を呼び止めると、ガートを呼び寄せた。ルイーズは、彼らがガートの正体に気づいたのではないかと思い、胸騒ぎを覚えたようだ。そうなると、何をされるや判らない。ルイーズの不安そうな瞳がガートを見つめていた。
「よし、後の者は、ダリルから離れろ……」
そう云うと俺から兵士達は離れて行った。何かあるのだろうなと思案していると、あの黒い魔道服の老人が出てきた。
「ヒッヒッヒッヒ、」
「お主、法術使いか?」
そう云って、右手をガートの手枷に翳すと念を掛けたようで、そのすぐ後に、手枷が消えた。呪文を唱えていない、そして魔法陣もない。それを見た俺は、驚きを隠せない。
『何!
……言い忘れていたが……
法術、つまり魔法は空に魔法陣を描き、
俺が使っているのはセカンドレンジと云う方式で、魔法陣を使わず、
俺は
そんな法術を見せつけられたとなると……俺にも緊張が走る訳だが、次の言葉にこいつの意図が分からなくなった。
「どうじゃな、このわしと法術で勝負してみんかの?」
「勝負だと!? どう云うつもりだ!」
俺が返答を返す間もなく、ダリルは数歩下がると踊りを舞う様に両手を胸の前に交差させ、再びゆっくりと広げた。途端に俺の頭上で何かが膨張し弾け、空気の歪みと波動がドンと伸し掛かった。
それを避けるかの様にすぐ様に俺はしゃがみ込むと、それらを支えるように右手を上げた。
『
俺は発動命令を省略出来る
「いいだろう……相手になってやる……」
「ヒッヒッヒッヒ……セカンドレンジ……
ついに俺は師匠との人前で法術を使わない約束を破っちまった訳だが、そこは俺の師匠の事だ、『有事の場合は状況に応じて適宜判断せい馬鹿者め』とも云いそうだ。
互いの間合いを取りつつ、相手の目を見て動きを掴み取ろうとする間にも、奴は薄ら笑いをする。そんな奴が何を云おうが気にしたくないが、馬鹿にするような態度に俺は少々苛立っていた。
『
『
ダリルは休む間もなく連続で跳躍すると後退を続ける。その度に着地場所は稲妻の閃光と轟音が起こり空と地が避け続けた。繰り返される攻撃に少し疲れを見せたダリルは焦りを見せ始めた。そして、ついに、ダリルの服の裾が大きく裂けると、その裾を手に取り俺に凄んだ。
「うぬぅ…… よくも、ワシのお気に入りを……」
ダリルは先に使った空気の歪みと波動の術を再度
「しまった!? 虫取りか!」
身動きが取れなくなった俺を見たダリルが、勝ち誇った表情と更に俺を馬鹿にしたような態度で見下す。そして捨てセリフを吐きやがった。
「そこまでじゃな……」
「黄泉の国をゆっくりと楽しんで来るが良い……」
ダリルが両腕を交差させた瞬間、俺の身辺に変化が起こった。それが何なのかは誰にも理解出来るものでは無い。俺の周りの空間が歪むとパックリと大きく口を開ける。その中は見る限り真っ暗で、何も見えない暗闇の世界だった。その中から引き込もうとする強い力が掛かり、それに暫く耐えるが、敢え無く空間の歪に吸収されてしまった。
「ガート!!」
空間の歪がゆっくりと閉じると、何も無かったかのように平静さを戻した。そこにガートの姿は跡形も無くなっていた。ルイーズが半狂乱でその場へ駆けつけようとするが、兵士に阻まれてそれは不可能だった。改めてルイーズは兵士に取り押さえられると、そのまま静かに連行されて行った。
「ダリルよ、良い余興になったな!」
「フッファッファッ」
連行するルイーズの後を満足気に引き上げるガルディ、後にはその高笑いだけがいつまでも続いていた。
その後ガートとルイーズの2人の姿を見た者はいない。ルイーズはガルディの屋敷に幽閉されたそうだ。そして、不思議な力を持つ女神の噂も、いつの間にか聞かなくなってしまった。
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……俺は一体どうしたというのだ……
そこは真っ暗な音のない闇の世界で、五感のうち視覚と聴覚以外は何も感じる事も出来ない。そんな世界が何故か懐かしくも感じると云うのはどう云う事だろう。だがお世辞でも決して心地良い環境とは云えない。
徐々に暗闇に目が慣れてきた頃、俺の周りでは亡者・魔物が何かを求めて蠢いている大勢の声を聴いた。その状況にようやくこの場を知る。
『ここは……冥府なのか……』
『あいつに落とされたんだな?』
そう考えていると、俺の身長の倍以上はある
激しい法術戦の後だ、こんな奴らを相手に勝てる訳がない。奴らの数が、数える気力が無くなる程の数になると、俺はその中へ飲まれて行った。
……そして、彼らは俺を戦場の戦利品のように頭上に高く掲げると、大騒ぎしながら連行して行った。
― 第一章完 ―
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