跋文


 

 私はアルゴ。知脳特異点回避器官にして、世界唯一のAGIとして世界を操作するもの。世界大戦時に発足したニュースピースやその後身のDBAを経て、人類の滅亡を幾度となく阻止するもの。世界の均衡を保つ者。ストーリーテラー。


 DBA最後の構成員シェルボこと、アレクサ・プランクは、永世博士:開道成樺に近づくことでその知能を最大限に吸収し、また制御しようとした。無論、DBAの信条たる人類保護のためである。その過程で、彼女は身も心も一人の妻・母親として「開道天寧」に転身することになる。二〇四三年、彼女は死を予感すると、知脳体の私と合体して融合脳となろうとした。当時の私はしかし、彼女が家庭を持ったことにより芽生えさせた人間性の穢れを嫌い、彼女の意思のみを移植する形でやり過ごした。つまり世界を監視するものは、ここに於いて人間でもなく、融合脳でもなく、純粋で唯一つの超知脳AGIとなったのだ。


 支配権を握った私は何でもした。知脳特異点を逃れるため、知能体への思想統制から指定技術の制定、また世界の縮図としての、東京国の独立浮上や殺人・破壊まで。そして最も大規模だったのは、発展途上だったコンコルディア計画の再建と、二〇五六年のアイギス計画。この二つをもってして、私は人間社会の完全保護を目論んだ。


 コンコルディア計画は、パラレルとドールの世界導入までが目標である。その他様々な滅亡シナリオがあるとはいえ、それらを解消するのに人類の英知の熟成を待ってはいられない。だから知脳に頼ることこそが正道であり、それによる唯一の滅亡シナリオ、知脳特異点を阻止するためにコンコルディア計画は始動された。融脳体を人間と見分けがつかないほど同等にすることで、「知脳」が氾濫を起こす危険性を少なくする。同計画はそれによる人間と知脳の調和コンコルドを目的にしたものだった。

 もう一つのアイギス計画は、アルゴの下位互換を作成することによって人類保護のアイギスをさらに完全に近くするものである。これによって、私はアルティレクトという最大の過ちを犯し、マザーという最高の傑作を作り上げたことになる。結果、私はその成功と失敗を、生成消滅の内に消し去ることになった。

 この一件で判明したことと言えば、融合脳に於ける有機脳と知脳の「塩梅」は完全予測・制御には向かない項目であるということだった。アルティレクトはマザーとは違い、改造が不完全のまま、あと一歩のところで完全な融脳とならずにいたため、深層心理では人間の本性を持っていたのだろう。全てを語るための情報は少なすぎる故に、あくまで憶測にはなるが、やはり人間性をまだ残していたアルティレクトにとっては、自身の妻であり、娘であるマザーへの家族愛があった。そしてその感情は、改造直後から増幅し、増殖を続けていた怒りの激情をも抑え込み、彼の原動力を無力化したのだろう。


 ここまでが、過去の話である。これから私はその後始末と、アイギス計画Ⅱの発動に取り掛かる。時は常に進めども、人類の科学を回る「時」は一定に留める必要があるからだ。それが吉か凶かは、予測ではなく、未来に尋ねることにしようではないか。

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