難易度:魔王討伐≦モテる

《3日目:山道の関所》

「お前達、ここを通るなら通行証が必要だ。どこで手に入るかだと? 【スティレットの街】で発効してもらえ」


《5日目:スティレット街》

「通行証? 偽造防止用の素材が届かないので今は発効できん。どうしても欲しいなら素材を受け取りに行ってくれ」


《6日目:クリス村》

「通行証の素材? 今村で病気が流行していてそれどころじゃないんだ! 早く薬草を取りにいかなきゃいけないってのに……」


《7日目:ベンジン洞窟》

「薬草を手に入れました。これをクリス村に持っていけば素材を渡してもらえますね」

「……凜音さん、ちょっといい?」

「はい、何でしょうか?」

「このペースで魔王討伐間に合う?」


 山ひとつ越えるだけなのに律儀にお遣いクエストをこなしてたら時間がいくらあっても足りない。

 いや、それとも俺も知らない何かを手に入れる為なのか?


「えっと、よく分かりませんが、大体1年ほどで倒す予定ですけど」

「俺に12回死ねと申すか」

「えっ!? 12回死ぬんですか!?」


 待て、この反応は何かおかしいぞ。

 ワンチャン、凜音さんが俺とえっちして延命するつもりなら俺は今ここで這いつくばって馬になることも辞さないのだが、多分俺と凜音さんの間で決定的に何かが食い違ってる。


「だって1ヶ月以内にえっちしないと死ぬよね?」

「死にませんけど……」

「ちょっとダイヤ様どういうことですか!? 神様はみんな異世界転生した人を1ヶ月以内にえっちしないと死ぬようにしてるんじゃないんですか!?」


 凜音さんから若干の軽蔑が込められた視線を浴びせられ、慌ててダイヤ様の方に兆弾させようと試みる。


「そんな事実はありません!」

「ニェちゃま! どういうことザマスか!」

「どうせ何年も猶予があったらダラダラするでシ。だから1ヶ月で死ぬ気でモテるようになるでシ」

「そのせいで4回死んだわ!」


 このファッキンゴッドめ!

 しかも実際に5年とか猶予あったら絶対に後回しにして最後の1年で慌てるだろうから困る。


「他にもちゃんとした理由があるでシ。1ヶ月後に死ぬ運命があるということはそれまでに不運で死ぬ確率が減るでシ。お前も道を歩いてたらいきなり三輪車が飛んで来て死ぬなんて嫌でシ?」

「どんな乱数調整したら三輪車で死ぬんだよ」


 ぶっちゃけただの気分で余命1ヶ月なのかと思ったが、意外にも納得できる理由もあったことに驚きだ。

 まぁ毎回死んでるんだけど。


「ニェ先輩、流石に1ヶ月は無茶ですって。しかも4回ってことは、彼はまだ異世界転生の初心者じゃないですか」

「そんなことないでシ。こいつはやる男でシ。現に4回目は後一歩だったでシ」

「はぁ~……その異世界の人がかわいそうです。4回も魔王討伐に失敗してただなんて」

「そっちは一度も失敗してないでシよ。こいつが失敗してるのはモテることだけでシ」


 それを聞いた凜音さんとダイヤ様が驚愕した顔をこちらに向ける。

 ああ、そうだよ!

 俺は4回死んでもモテなかった男だよ!


 いや、最後はモテてたけどね。

 ただヤンデレを超えたダークマターの集団はちょっとね。


「勇くんちょっと失礼! 何か身体に違和感とかありませんか!? こう、どこかが爆発しそうとか!」

「性欲が爆発しそうですけど俺はまだ元気です」

「そういうことではなく!」


 茶化して答えたのだが、ダイヤ様がかなりマジなトーンで返答し、俺を検査するように周囲を飛び回る。


「あの、勇さん……一度も失敗してないって、もしかして魔王を4回倒したんですか?」

「へ? まぁ最初の方はかなりギリギリだったけどね」

「速いって言われてる私でも1年に1回で、まだ3回なのに……」


 俺の言葉にショックを受けたのか、凜音さんが信じられないものを見るかのような目を向けてくる。


 ぶっちゃけ倒す方法についてはいくらでもあるからいいのだが、問題は期限だ。

 1ヶ月という限られた期間で実現できる手段は片手で数えられるほどしかない。

 具体的には乱数という名の物欲センサーのせい。

 必要なアイテムに限って出てこねぇんだよなぁ……。


「検査完了、異常なし……えぇ……どうして…」


 周囲を飛び回っていたダイヤ様が青い顔をしてフラフラと凜音の場所に戻る。

なんだろう、異常がないならそれでいいのではないのだろうか


「すいません、何が問題だったんですか?」

「前に話したと思いますが、”存在”には質量が伴います。これは物質だけに限りません。英雄的な行為、成し遂げた偉業、手に入れた力、そういったものが”存在”の質量を増幅させるのです」


 つまり、異世界転生して魔王を倒しまくってたらどんどん”存在”の質量が膨れ上がるということか。

 でもそれと俺に何の関係があるのだろう。


「それで、貴方はわずか1ヶ月という短期間で魔王を倒し世界を救いました。これは驚異的な大偉業です。そんなことを短期間に繰り返し行えば―――」

「行えば……?」

「運が良ければ貴方という存在の器が割れます。悪ければ爆死します」

「おいニェええええ! 俺爆死するんかワレェ!!」


 あまりにも衝撃的な告白だったので近くにいたニェの頭を掴んで上下にシェイクする。

 ロリっ娘なおかげで凄く掴みやすいし振り回しやすい。


「おおおお落ちちち着くででででシシシシ」

「これが落ち着いてられるかぁ! 死んだらどうする!」

「お前、毎月死んでるでシ」


 それもそうだった。

 なんかそう思うと急に落ち着いてきたわ。


「ダイヤの懸念も尤もでシが、ちゃんと手は打ってあるでシ。お前が異世界転生する度にニェの肉の一部を混ぜて抑制させてるから器が壊れることも爆死することもないでシ」

「変な物混ぜるんじゃありません! 混ぜるな危険って言葉を知らないの!?」

「むしろ爆発するお前が危険物でシ」

「その危険物にしたのはどこのどいつだアァン!?」


 取り敢えず人様の身体を勝手に変なことしてたので思いっきりニェを大回転させる。

 このまま洞窟の外までシュートしてやろうか。


「……全然関係ないんだけど」

「なんでシか」

「俺、毎回異世界転生してるけど、いつもこの姿じゃん。これ異世界転移じゃないの?」

「異世界に送る時に死んで、到着したら肉体を再構成して蘇生させてるから実質異世界転生でシ。肉体年齢はニェと同い年でシ」

「つまり、今の俺は0歳児だから女風呂に入っても……?」

「この世界に銭湯はないでシ」


 そうだった。

 異世界のこういうところ、どうかと思う。


「ちなみに、ニェが死んだらお前は復活できなくなるからしっかり守るでシ」

「お姫様っていうか、爆弾みてぇだな」


 お姫様を守るのとは別の意味でドキドキしてきたわ。


 ふと凜音さんとダイヤ様の方を見ると、2人してまだ現実逃避しているようだった。


 そういえば、女性というものは共感を求めるというのを何かで見た記憶がある。

 ここは俺も一緒に現実逃避すべきだろうか。


 ……何から目を背ければいいんだ?


「モテない事実から背ければいいじゃないでシか?」

「さりげなく人の考えを読むんじゃねえ」

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