第四回感想会

《異界》


「よくやったでシ」

「感動したでシ」

「おめでとう、おめでとうでシ」


 神様のいる空間に戻ると、分裂した神様が拍手をして俺を出迎えてくれた。

 たぶん1人分の拍手じゃ寂しいからこうやって水増ししてくれてるんだろう。


「大変だったでシね」

「魔王討伐にも慣れてきたでシね」

「本当によくやってくれたでシ。さぁこっちに来て座るでシ」


 神様に薦められるがままに椅子に座る。

 まるで生き返る心地だ。


「さて……それじゃあ反省会やるでシ」


 そう言うと俺の座っていた椅子が変形し、いつもの正座スタイルにさせられる。


「いだだだだ! 痛い! これ結構痛いっす!」

「うるさいでシ。おめーは何であの状況で逃げたでシか。いやまぁあの逃走劇は感動ものだったでシが」


 そう、世界を救った俺はあのハーレムから逃げたのであった。




《4日前》


 魔王の封印を解き、俺はデッキにいた仲間達と宴会をしていた。

 高級ミノタウロスステーキや珍味なデーモンタマゴサンドなど、今までじゃ考えられないものも振舞われた。


 エルフにドワーフにホビット、他にも動物系亜人の美女に囲まれて人生最高の時だった。

 つまりあとは落ちるだけということだ。


 宴も終わり、一足先に用意された屋敷で休んでいると部屋の近くから声が聞こえてきた。


「案の定、抜け駆けしにきたか。約定破りは関心しないな」

「むぅ! おぬしはホビットのくせにお堅いのぉ」


 声から察するにホビットの姫騎士とドワーフの女神官だ。

 この二人はシナジー効果もあり何度も頑張ってもらったことがある。


 こうやってカードから解放されても普通に接しているのを聞き、嬉しさがこみ上げてくる。


「勇者殿は女性を交わらねば1ヶ月で死ぬ呪いにかかっておるのだろう? ならば少しくらい構わんだろう」

「だからこそ、それで争いにならぬよう順番を決めたのではないか」


 むふふ、異世界の美女達が俺の為に順番待ちをしてるだなんて信じられない幸せだ。

 あーまだかなまだかなー! 早くえっちしたいなー!


「それで、屋敷の改装は順調なのか?」

「応とも! 他のやつらに奪われぬよう防衛設備も70%ほど稼動させておる。それとエルフの要望で館内の時間操作もできるようにしておいた」

「エルフやドラゴニュートは長命だからな。何百年もお相手するならば、勇者殿の時間をエルフに合わせねばならん」


 ………ん?

 なんか話の方向性がおかしい気がして来た。


「奴らの執着心は凄まじいからのぉ。だが館さえ完成すればどんなやつが来ても勇者を奪えん、永遠にここに留めておくことができるぞ」

「ああ。勇者殿は我らの希望であり糧であり新たなる血である。これから毎日爛れた生活をして、快楽に溺れてもらわねばな」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は全力で窓をぶち破って外へ逃げた。

 その騒音を聞きつけたホビットの姫騎士が窓から顔を出してこちらに向かって声をあげる。


「勇者殿! いかがなされた!?」

「いかがじゃねぇよ! 如何わしいこと考えてたのはそっちだろ! なんで監禁しようするの!?」

「監禁ではありません! 貴方を守る為なのです!」


 うるせぇ! 永遠に館に縛り付けられて絞られ続けられる一生なんて拷問だろうが!

 しかも永遠に留めておくとか言ってたし一生が終わらない可能性すらある!


「おやおや、勇者様。歓待はこれからですよ?」


 逃げている最中に見えない手に掴まれる。

 声の主の方を見ると、そこにはエルフの女王様がいた。


「将来が不安なのでしょう。未知が恐ろしいのでしょう。ですが、その心配を払拭する為に我らがいるのです。さぁ、貴方様はただ快楽に身をゆだねればよいのです」


 諭すような優しい声でかたりかけてくるが、見えない手の力は俺を絶対に逃がすまいと一向に緩む気配がない。


 どうして! どうしてこうなった!?

 俺はただ、ハーレムを楽しみたかっただけなのに!!


 徐々にエルフの女王様に引き寄せられていく中、急に影がさした。

 そしてその瞬間に凄まじい轟音と衝撃、土煙が周囲を襲った。


「ゲホッ、ゲホッ! こ、これは……?」

「逃ゲロ、勇者。ココ ハ ゴーレム ニ 任セロ」

「ゴ…ゴーレムくん! 初期デッキから愛用してた! 何度も壁にしてた! 一度の戦いで7回柩送りにして8回も復活させたゴーレムくん! 俺を守ってくれるのか!?」

「勇者 ヲ 守ル。ソレ ガ 我 ノ 役目ダ」


 ゴーレムくん! ありがとうゴーレムくん!

 何度も何度も使い捨てみたいに使ったのにまだ俺を守ってくれるなんて!

 この恩は一生忘れないよ!



「どきなさい、石くれ風情が」

「穴ガ アル 種族 ハ コレ ダカラ 困ル」


 その台詞が開戦の合図になったのか、各所で戦闘音は響き渡り、俺はそれに紛れて死ぬ気で走って逃げた。


 走って、走って、走り続けて、背後から迫る音の正体を確かめることもせずにひたすら前に向かって走り続けた。


「勇者様。どこにいかれるのですか? 貴方様の帰る場所はそこではありませんよ」

「ゼェ! ハァ! ゼェ、ゼェ! こ、この声は、エルフの侵略者さん!? やっぱ何度も生贄の祭壇に使ったことを怒ってるんですか!?」

「いいえ、怒っていませんよ。だってこれから生涯を共にするんですよ。あれも貴方の愛だと思えば瑕にもなりません」

「うわああああああああ!! エルフの生涯って人間換算だとどれくらいになるんだよおおおおお!?」


 まずい、まずい、まずい!

 なんとか森に紛れて逃げようと思ったがここはエルフの独断場だ!


「誰か! 誰か助けて!!」

「ハッハァ! 花火がご所望かい旦那ァ!」


 エルフの庭とも言える森だが、他にもここをテリトリーにしていた種族がいた。

 そう、ゴブリンだ!

 しかもこの声は忘れるはずもない、何度もお世話になった樽爆ゴブリンだ!


「カードになってたときは何度も爆発してきたが、これが最初で最後の爆発だ! しっかり目に焼き付けておくんな!」

「樽爆ゴブリンさん!!」


 俺が制止する間もなく、樽爆ゴブリンさんは背中に抱えた樽を爆発させる。

 あまりの爆発力によって発生した衝撃波で吹き飛ばされるも、何かが俺の服を掴んでその場から離脱させてくれた


「ワン! ワン!」

「お前はレッサーケルベロス! お前も俺を助けてくれるのか!?」

「ワフゥ!」


 そのままレッサーケルベロスに咥えられていると他の仲間達がそこに集合していた。


「あんた大丈夫だった? ダメよ、エルフとか信用してちゃ」


 この子はアレイオン、馬型亜人だ。

 ちなみにヒト:ケモノの比率が8:2なので余裕でイケル。


「とにかくあいつらに捕まるわけにはいかない、さっさとここから逃げるよ」


 そう言って亜人の皆が先行しながら俺を守ってくれる。

 ありがとう皆、本当にありがとう。


 何度も何度も、俺達は共に夜を過ごした。

 戦うわけでもないのにカードから出して何の意味があるのかとも言われた。

 だけど、あの日々があったからこそこうやって皆が俺を助けてくれる。


 あの時間は何も無駄じゃなかった。

 俺達の旅には意味があったんだ!


「とにかく海まで行けばこっちのもんだ。あとは適当な島に結界を張ってしまえばあいつらも手出しできない。ヘヘッ、あたしらの楽園を作ろうな、勇者!」


 その台詞を聞いた瞬間に俺は即座にUターンして逃げた。


「おい! そっちは逆だぞ!?」

「逆じゃねぇよ! そっちの道こそ罠じゃねぇか!!」


 どいつも! こいつも! なんで俺を捕まえようとする!?

 どうして監禁しようとする!?

 俺が何したってんだよ! 俺はただ! モテたかっただけなのに!!


 それから残りの5日間を死ぬ気で逃げ回った。

 かつての仲間が俺を追い、そしてまた別の仲間が俺を守ってくれた。

 何人も、何人も、皆俺を追って、そして守ってくれた。


「あの旅の結末がこれなのか」


 最期の最後、誰もいない砂浜。

俺の呟きを聞くのは、海鳥達だけだった。



《異界》


「うん、本当にあの逃走劇は予想外だったけどめっちゃ感動したでシ。特に特殊効果も何もない全肯定ゴブリンが身を挺して守ったシーンでは30ガロンほど涙が出たでシ」


 全肯定ゴブリンくん、彼がいなければ俺はきっと捕まっていた。

 疲弊した身体と精神、いっそ捕まえれば楽になるかと諦めかけていた俺を、何度も何度も逃げることを肯定して励ましてくれた。


 彼がいなかったら俺は折れていた。

 彼の魂は今も俺の心の中に脈づいている。


「それにしても、ヤンデレ系は駄目でシか」

「あれはヤンデレじゃねぇよ! 闇どころかブラックホールみたいに光ごと吸い込んできたよ!」


 カードになっていた皆と絆を温めていたはずが、まさか闇まで成長していくとは思いもよらなかった。

 いやでもあれを予想しろってのが無理だよ。


「まぁ色々アクシデントはあったでシが、良い物が見れたので今回の件は不問にするでシ」

「かつての仲間が猟犬のように追ってくるあれに比べれば、どんな罰ゲームも耐えれる気がしますけどね」


 うん、マジで何も信じられない体になるかと思った。

 ゴーレムくんや樽爆ゴブリンさん、あと全肯定ゴブリンとか他の仲間がいたおかげで信じる心を取り戻せた。


「それにしても、ここまでやって駄目だと困るでシね。こうなったら奥の手を使うでシ」


 強制正座装置を解除し、分身を回収しながら神様がそんなことを呟いた。


「すっげー嫌な予感がするんですけど、奥の手ってどんなえげつない方法っすか」

「別に普通でシ。他の転生者を送ってる神連中に相談するんでシ」


神連中……?

えっ、もしかしてこの肉神様みたいのがまだいるの!?


 そして俺みたいな犠牲者も沢山いたりするの!?

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